すざるるちゅー。
タイトルとかいちいち考えないから記事名つけるのかなり困るww
なんだかお絵かきラッシュであります。
とにかくSAIに慣れたいんだコロン!
白黒絵は楽でよいですww(´ω`)
*****
↓90度回転すると壁に押し付けてるように見えますね。
でっかいバージョンはこちら→
★
どうしようもない10のセリフ 01(携帯版)
01 「よこせ、くれないなら捨てろ」
********
どうしようもない10のセリフ2
01:よこせ、くれないなら捨てろ
02:お前は私に惚れないから嫌いだ
03:これは何コンプレックスなんだろうね
04:私は甘くない。どちらかというとショッパイぞ
05:何をどうしたらそんな奇蹟っぽいことになるんです?
06:目の黒いうちはとか言う奴ほど目が血走っているってことさ
07:失ってはじめて、あなたは要らないものだったと気づいたんです
08:俺のガラスのハート、割れたら凶器だって知ってた?
09:ちょっとぐったりしてるけど使えないことはないよ、コイツなら
10:さぁ、オレに同情しろ!
お題はこちらからお借りしました→
「東から南へ三十度」
どうしようもない10のセリフ 01
01 「よこせ、くれないなら捨てろ」
大きいバージョンはこちら→
★********
どうしようもない10のセリフ2
01:よこせ、くれないなら捨てろ
02:お前は私に惚れないから嫌いだ
03:これは何コンプレックスなんだろうね
04:私は甘くない。どちらかというとショッパイぞ
05:何をどうしたらそんな奇蹟っぽいことになるんです?
06:目の黒いうちはとか言う奴ほど目が血走っているってことさ
07:失ってはじめて、あなたは要らないものだったと気づいたんです
08:俺のガラスのハート、割れたら凶器だって知ってた?
09:ちょっとぐったりしてるけど使えないことはないよ、コイツなら
10:さぁ、オレに同情しろ!
お題はこちらからお借りしました→
「東から南へ三十度」
すざるるういんたー 携帯版。
↓デフォルト仕様。
**********
↓イラッとくる仕様。
色々とごめんなさい。
冬だねえ…って感じでほっこり気分になりたかっただけなんだ。
すざるるういんたー。
まず線画。
完成版。
自重しろ版。
……ほっぺにピンクのエアブラシ入れただけで、ここまでイラッとくる絵になるとは。
ドエス枢木様 携帯版w
携帯から見られなかったっぜ☆とお知らせ頂いたので、再うP。
「キリッ」は要らなかったな…って心の底から後悔している。
横のキラキラしたものも…別に要らないよね……。
お絵描きなう。
SAIはお絵描きが簡単でよいねー。
買ってよかったなり。
昨日作業中に寝オチたので続き描いてます。
ほっぺにピンクのエアブラシをシューしてみたのですが、これがもーの凄い破壊力 でwww
そのままレイヤーを統合するか否か、激しく葛藤している訳ですよ……。
バージョン別にして作るしかないか。
らくがきドエス。
昨日の夜からついったーでドエス枢木×ゼロルーシュ妄想で滾っていたせいです。
しかし、ただのらくがきにしたって限度がありますよね……。
わかります\(^o^)/
拍手コメレス&感想です☆
波のまにまに☆さん>
こんにちは!(`・ω・´)
※欄にて返信ありがとうございます!
こちらも感想したためたかったので一気に書き綴らせて頂きますね(*´∇`)
超長文になりますのでこちらのブログにて記事として上げさせて頂きましたv
いつもお付き合い頂きまして有難うです~^^
まとめて追記にどーんしておきました☆
引かないで頂ければ……!!ww
Lost Paradise 5(スザルル)
5
「裏切られたんだ。そして失った。かけがえのない女性と共に、俺は、その友達を」
低く唸るような声が出た。
ルルーシュはひっそりと眉を寄せている。
「裏切られたって、一体何があったんです? 何か理由があったんじゃ――」
訝しげに言い募るルルーシュを俺は敢えて遮った。
「どんな理由があろうが関係ない。……大切だった。とても。それなのに彼は俺に嘘をついた。何の罪も無いその女性を、卑劣としか言いようの無い手を使って死に追いやったんだ」
俺の怒りの激しさにたじろいだルルーシュが身体を引こうとする。
俺はそんなルルーシュの腕を引き、もう一度強く抱きしめた。
「……ごめん。でも憎いんだ。今でも」
脳裏に焼きつく最後の応酬。一年経った今も、消えるどころか薄れることさえ無い鮮烈な記憶。
『全ては過去。終わったことだ』
――この男、何を言っている? そう思った。
たった今殺してきたばかりだろう。平和に繋がる唯一の光を消してきたばかりだろう?
それなのに、お前は何も感じていないのか――?
頭が真っ白になったと思った次の瞬間、凄まじい勢いで湧き上がってきたものは殺意にも似た強烈な憎悪。
痛みが痛みのまま胸の内に存在しているというならば、そんな台詞を口に出来る訳が無い。人を殺し、命を背負うとはそういうことのはずだ。……少なくとも俺はそうだった。だからこそ贖罪の道を歩もうと決めもした。
過ぎ去ったことに痛み一つ感じていないからこそ、そうして過去だと割り切れるのだ。
この男は何も感じていない。反省も後悔もしていない。痛みはおろか、苦しみの一つでさえも。
だから言えるのだ。平気で。
『お前も父を殺しているだろう』
懺悔など、あとで幾らでも出来るだと――?
出来る訳がない。お前に。妹しか見えていない、見ようともしないお前なんかに。
罪の重さに苦しみ、足掻き、生きる理由を探してやり場の無い後悔と虚しさで潰れそうな日々を送ったことも無いお前なんかに――!
たった一言だけで、俺は今までの自分を全て否定されたのだと悟ってしまった。……だからこそ許せない。今でも、こんなに。
俺に嘘を吐き、裏切り、想いの全てを容易く軽んじて否定したルルーシュが憎くて憎くてたまらなかった。
父を殺してでも守りたいと思った友人の口から、まさかそんな台詞が出てくるなんて。
最後の最後まで信じていた。仮にルルーシュが本当にゼロであったのだとしても、あんな悪意の塊のような化け物になっているなどと誰が思うものか。
絶望した。そして激しく後悔した。愚かだとさえ思った。嘗てこの男を助けようと思ったことも、守りたいと願ったことも、全てが間違いだったとはっきり解った。
彼の存在に捕らわれ道を踏み外し、贖罪の道を歩もうとし続けてきたことですら否定したルルーシュが心の底から憎い。いっそ殺してやりたいと思うほどに。
こんな男、世界に必要無い。誰もこんな奴のことなど必要としていない。自分だって。
ルルーシュは、俺にとって最悪の友達だった。
こんなにも人を憎んだのは生まれて初めてだ。彼一人だけ。一度きり。今でも憎悪で眠れない夜がある。
『一時休戦といかないか?』だと?
ナナリーを助けた後、貴様は一体どうするつもりだ。自分の野望を果たすために、またその仮面を被るのか?
お前は以前俺に言ったな。『償う方法が一つだけある』と。
そうやって俺のことも駒にするのか? 自分自身の目的の為に!
……違うと思っていた。最後まで。
俺の過去について知る人間は三人。たとえその中にルルーシュが含まれていたとしても、考えようによっては酷い邪推でしかないだろうと自分を責めもした。
それなのに、握った俺の秘密を盾に仲間になれと迫ったゼロがルルーシュだったなんて……信じたくもなかった。
そのお前が、また俺を利用し駒になれと言うのか。妹を言い訳に?
そんな頼みなんか、俺が聞き入れると思うのか?
――甘えるな。ナナリーにお前なんか必要ない。妹の存在を必要としているのも、妹がいなければ生きることさえ出来ないと依存しているのもお前の方だろう。
その妹にさえ嘘を吐いていたくせに、一体どの面を下げて会うつもりでいるんだ?
ゼロは父と同じだ。俺はそう思っていた。
この男は、世界は自分を中心に回っていると思っている。争いを巻き起こし、人の善意を踏み躙り、俺や妹ばかりか世界までも裏切っておきながら自分の都合ばかりを主張する。
人の命を意の赴くままに弄び、壊し尽くし、平然と居直るその態度。幼稚で傲慢で独善的で、どこまでも身勝手なその本質。
この男は、最早世界にとっての害悪でしかない――そう思った俺は、引き金を引こうとした。
……けれど、出来なかった。
命を奪うこと。ルルーシュを殺すこと。……それだけは、どうしても。
狂いそうなほど憎いのに。ゼロを殺さなければと思っているのに。それなのに、銃を構えているその時ですら瘧のような全身の震えを止めることが出来なかった。
どうしたいのか。どうすればいいのか。――まるで解らない。
彼はゼロで、ルルーシュで。敵で、でも友達で。殺してやりたいほど憎いのに思い出が邪魔をする。
彼の笑顔も、優しさも、不器用なところも、潔癖で気高いところも、全て全て愛していたのに。
それが壊れていく? あれが嘘? 全部嘘? お前は俺を騙していたのか? どちらが本当でどちらが嘘なんだ。俺が大切だと思った友達としてのお前の姿は、単なる仮面でしかなかったのか?
詰っても足りない。踏み躙って滅茶苦茶になるまで痛めつけて、思い切り傷付けてやりたい。何が友達だと思いの侭に罵り、這い蹲らせて謝らせたい。―――違う。全部違う! では罪を認めさせて責任を?……そうじゃない。
だったら何だ。僕は、俺は、どうしたい?
全部嘘だったと言って欲しい。これは悪い夢だと。
でも現実だ。現実なんだ。認めなければ。
――そうだ。
ゼロが消えればいい。ルルーシュの中から、ゼロだけを消し去ってしまえば。
……その結果が、今なのだ。
「好きだったんですね。その友達のこと」
「――――」
唐突なルルーシュの言葉に、俺は自失した。
お前が言うな。
途端、湧き上がる強烈な憎悪に任せて睨み付けそうになり、俺は必死の思いでその衝動を堪えて歯を食いしばる。
ほんのついさっきまで愛しいと思っていたルルーシュの顔。……けれど、同時に見たくもないと昏く矛盾した思いが込み上げる。
ルルーシュの言葉などこれ以上聞きたくない。そう思いながらも、意識の内に潜むもう一人の俺は、彼が何を言おうとするのか聞き耳を立てていた。
今のルルーシュならどんなことを言うのか。ルルーシュが本当はどう思っていたのか。何も飾らない今のルルーシュからであれば聞き出せるかもしれないと期待している自分がいる。
俺の背中に回されたルルーシュの腕が上がり、あやすような手つきで頭を撫でてくる。髪へと潜らせた細い指。いとおしげに梳くその動きでさえも残酷なまでに優しい。
何も答えられずにいる俺の想いを代弁するかのように、ルルーシュは深く長い溜息を漏らした。
「忘れられないんでしょう、その『友達』のこと。裏切ったのにまだ想われているなんて、その人は幸せな人だ」
「想われている?」
ええ、と呟いたルルーシュが「憎い、か」とひとりごちる。
「知ってますか? 愛の反対は無関心であって、憎しみではないんだと」
「――――」
ざっくりと刺さった。
……でも、どこに?
ルルーシュは訥々と話し続ける。
「どうでもよく思われるよりずっといい。俺にはそんな相手はいなかったから、少しだけ羨ましいです」
「……っ!」
これ以上聞いていられない。
反射的に気色ばんだ俺の様子に、ルルーシュが我に返ったようにビクリと肩を竦めた。
「す、すみません。不謹慎ですよね、こんなこと言うなんて……。気を悪くさせてしまったらすまない。俺は昔から少し配慮に欠けているところがあって、いつも思ったことをそのまま言ってしまったりするんです。――悪い癖だ」
「いや、いい。……それより癖って、どういう……」
ルルーシュにそんな癖はない。
だが、言いかけてから気が付いた。
好意を抱いた相手に隠し事が出来ない今のルルーシュ。昔から気を許した相手であればあるほど口が悪くなるところはあったが、そういった軽口とはまた別の意味合いで、常に思った通りのことしか口に出来なくなっているのだとしたら……?
正直なところ、ルルーシュの今の発言は俺にとってそこまで癇に障るものではなかった。ただ、精神状態があまり良くなかったというだけだ。
自分の意見と相手の意見を分けて考える分別くらい持っている。しかし、これが仮に混同する相手であれば、もしかすると腹を立てることだってあるのかもしれない。
「君は自分の意見を言っただけだろう。大丈夫、謝らなくていい」
ピーピングされるのは誰にとっても嫌なものだ。ことに俺の場合は。
正直なのは結構なことだが、正直さというのはあくまでも親密さの上にこそ成り立つものであって、面識の浅い相手に対する正直さなど単なる無礼でしかない。
……ひょっとすると、この一年の間に嫌がられたりしたことがあったのではないか?――それも、好意を抱いた相手本人から。
そう思って様子を伺えば、ルルーシュは可哀相なほどに萎縮してしまっていた。
怯えた眼差しを俺に向けて縮こまっているルルーシュの手を取り、俺は出来る限り優しい声音で告げてやる。
「ルルーシュ」
「はい……」
「いいんだ。嘘を吐かれるよりずっといい。だから気にするな。君の正直なところ、俺は好きだ」
気持ちが安定していようといなかろうと、今のルルーシュを冷たくあしらうのは間違っている。だから安心させる為にそう言ってやれば、ルルーシュは目を閉じてほっと吐息した。
『どうか嫌わないで』
必死の面持ちで俺に訴えてきたルルーシュのあの言葉は、おそらくそういう意味も含まれていたのだろう。
ルルーシュは――少なくとも今のルルーシュは、多分、俺に嫌われることが何よりも怖いのだ。
「君の、今の話だけど……」
「え?」
「愛の反対は無関心、って言っただろ」
「はい」
「……なら、憎しみの反対って何なんだ?」
ルルーシュは、しんとした眼差しで俺を見た。
「それは、『慈しみ』です」
「――――」
慈しみ……? 愛ではなく?
瞬時に浮かんだ疑問――そんな馬鹿な。
俺は、一人の人間として彼を愛しているのだと思っていた。八年前からずっと。けれど違うというのだろうか。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、ルルーシュは静かな声でこう述べた。
「慈しみという言葉の意味は、『慈愛』です」
「――――」
今度こそ、俺は完全に言葉を失った。
愕然とするという言葉はきっと、こういう時にこそ使う表現なのだろう。
半開きになった唇の端が震え、頬が引き攣り、喉が詰まった。
やがて、瞼の裏側が熱くなり……そして。
「泣かないで」
「…………」
「どうか泣かないで下さい」
蹲ったまま両手で顔面を覆った俺は、声を圧し殺して泣いていた。うろたえたルルーシュが俺の名を呼びながら慌てて取り成そうとする。
噛み締めた歯の隙間から、堪え切れない嗚咽が漏れ出した。
……この一年間、涙を流したことなど一度も無い。たとえ激しい憎悪を感じても、過去を反芻しては激情に駆られることがあったとしても、こんな風に泣いたことなど、只の一度も。
戦闘の最中で人を殺しているその時でさえ、欠けた心は静まり返ったまま、風の音さえしない無音の中。
心ならば疾うに死んだ。そう思っていた。この先誰を手に掛けることになろうとも、彼から受けた裏切り以上に深く傷付くことなど永遠に無いだろうと。
――それなのに、俺は今、堰を切ったように溢れ出す涙を止めることが出来なかった。
認めろというのか、今更それを。
愛よりも深く、彼を慈しんでいたのだと。
言い得ようの無い想いで今にも頭が割れそうだ。本当は恥も外聞も全て捨て去って、今すぐにでもわめき出してしまいたい。
どうして。どうして。
この問いに答えられる者がいるなら答えて欲しい。
――ルルーシュ。君は何故、俺を認めない? 何故俺の選んだ道を否定する?
どうして君はいつも、そうして暗い方へばかり行こうとするんだ。
俺と同じ川の向こうになど来て欲しくはなかった。もっと違う方法だってあった筈。それなのに、君は何故俺の手を取ろうとしない。何故大人しくしていてくれなかったんだ?
昔も今も、一年前も、君はいつも俺から離れていく。
……俺はただ、本当の君を知っていたかっただけだ。花を愛でるように見守っていたかっただけだ。
本当の君で居て欲しかった。いつだって守りたかった。あんな仮面など被ることなく、いつの日か君が本当の笑顔で笑える日が来ることを俺は心の底から願っていたのに。
それなのに、君はどうして俺に本心を明かさない? 何故俺に嘘を吐いた? どうして俺を騙したんだ?
助けてくれ、ルルーシュ。どうか頼むから。俺を救えるのはもう、君だけしかいないのに。
溺れる者が空気を求めて喘ぐかのように、俺はルルーシュに口付けた。
ルルーシュ、ルルーシュ。君はどうして。
「守ってくれ」と、俺に乞わないんだ――。
……勝手な願いだと知っている。過去の俺を知るルルーシュを疎ましく思う気持ちだって、俺にはあった。
だから――。
ルルーシュと唇を重ねながら、俺は思った。
ルルーシュにかけられたこれは、嘘を何よりも嫌う皇帝らしいギアスだと。……そしてきっと、俺にも似合いの呪いなのだろうと。
けれど、もしルルーシュのこれが演技なら、その果てを見届ける権利を持つ者は、世界できっと俺一人だけだ。
Lost Paradise 4(スザルル)
4
もしも一瞬で互いを理解し合うことがあるとするならば、きっと今がそうなのだろう。
言葉も要らない。説明も不要。
そのままルルーシュの部屋になだれ込んだ俺たちは、それが当然のことのように体を重ねた。
一年ぶりに感じる熱に溺れ切る俺とは違い、記憶の無いルルーシュは物慣れないながらも抵抗なく受け入れてしまえる自身の身体に戸惑っているようだった。
行為を終えてからもぼんやりと天井を見つめたまま、気が抜けたようにベッドに横たわっている。
「大丈夫か?」
汗ばむ額の髪を掻き分けて指の甲で頬を撫でてやると、ルルーシュはしっとりと艶めいた横目で俺を見た。
「はい……」
小さく掠れた声と共に、ことん、と傾いてくる頭。肩口に寄せられたその下へと腕を通して抱き寄せてやれば、身じろぎしたルルーシュは恥ずかしそうに目を伏せていた。
「あの、スザク様」
「ん?」
「不思議ですね」
「……そうだな」
「どうして、俺に……?」
「…………」
俺を見上げてきたルルーシュが言いづらそうに目を泳がせている。
「どうして、か――」
独白するように応えを返しながら、それもそうだなと俺は思った。
言いたいことは解らないでもない。急転直下の出来事にも程があるだろう。仮にも今のルルーシュにとっては初恋の相手。こうして組み敷かれたことにしてもそうだろうが、幾らそういった流れだったとはいえ、決して初対面の相手とするようなことではない。
「そういう君こそ、どうして俺を?」
「え?」
「一度も会ったことなかっただろう、俺たちは。それなのにそこまで好きになってくれた理由、訊いてもいいかな」
澄んだ菫色の瞳を揺らめかせていたルルーシュが、「それは……」と一旦考え込んでから唇を開いた。
「懐かしい感じがしたからかもしれないな」
「懐かしい感じ?」
ええ、と頷いたルルーシュが困ったように笑う。
「言っても笑いませんか?」
「真面目な話なら笑ったりしないよ」
すると、ルルーシュの笑みが安心したように深まった。
「似ているんです。時々夢に出てくる人に」
「え……?」
まさか記憶が? そう思いかけてドキリとする。何も知らないルルーシュははにかみながらも言葉を続けた。
「夢の中で、見知らぬ少年と木登りを」
「木登り? 君が?」
「ええ。俺は運動があまり得意ではないんですが、その少年はとても身軽で、上手く登れない俺に手を差し伸べてくれて。俺はそれがすごく嬉しくて、楽しくて……」
「それで?」
「それだけです。昔会ったという訳でもないから本当に只の夢で、実際は知らない。でも、何故かとても懐かしく思える不思議な夢なんです。時々見るっていう、ただそれだけの」
「その子が俺に?」
「はい。少し似ています」
「――――」
酷く複雑な気分だった。
ルルーシュ、それは俺だ。その夢というのは多分、まだ幼い頃の俺とお前の記憶なんだ。
昔、枢木神社の境内で、二人で木登りをしたことがあった。ルルーシュは自分の見た夢に覚えが無いだろうが、それは隠蔽された本来の記憶の断片であって只の夢などではない。
蘇りかけているのか、それとも――。
「もし、それが夢じゃなかったとしたら?」
「まさか」
何の躊躇いも無くルルーシュはころころと笑い飛ばした。
「俺は初等部の頃からずっとこのクラブハウスに住んでいるんです。あんな緑の豊かな場所に行った覚えは無いし、勿論友達も……」
「…………」
「それに、もし実際に会っていたとしても関係ないですよ。子供の頃のことなんだし、相手だってきっと忘れてる」
ルルーシュはどこか寂しげでありながらも明るく振舞おうとする。
頭のいいルルーシュのことだ。過去実際に会っていた可能性についてなら、わざわざ第三者から示唆されなくても考えたことくらいあるのだろう。
でも夢じゃない。それは夢じゃないんだ、ルルーシュ。
思い出して欲しいのか、それとも忘れたままでいて欲しいのか自分でも解らず、俺は軽い苛立ちのようなものを感じながら黙り込んだ。
「あの……?」
「うん、なんでもないよ」
難しい顔をしているように見えたのか、ルルーシュが気遣う眼差しで見上げてくる。額に唇を落としてやれば、ルルーシュは照れ臭そうにしながらも大人しく目を閉じた。
浮かべられた無垢な微笑み。幸せそうなそれはとても綺麗なのに、何故か正視出来ない。
「ずっとこのクラブハウスでって、ご両親は本国に住んでいるのか?」
話題を変えようと切り出したこの質問も、既に知っている情報だ。ルルーシュはそれにも柔らかく笑んでから言葉を返してくる。
「俺に両親はいません。まだ幼い頃に二人とも亡くなっています。身寄りの無い俺を引き取ってくれたのがここの理事長で、それ以来、ずっと世話になっているんです」
「両親共って、事故か何か?」
「…………」
遠い目になったルルーシュが無言で身をすり寄せてくる。
「どうした?」
「いいんですか?」
「ん?」
「あまり愉快な話じゃない」
「いいよ。話してごらん」
「でも……」
おずおずと胸元に触れてくるルルーシュの指先は頼りない。握ったその手ごと背に回して抱き寄せてやると、愁いを秘めた菫色が不安げに瞬いていた。
別に訊かなくても知っていることではある。だが、信頼関係を深める為にも本人に直接語らせた方がいいだろう。
ルルーシュは沈黙したまま中々話し出そうとしなかった。何か声をかけてやろうとしたが、俺も言葉にならない。
代わりのようにきつく抱いてやれば、腕の中に納まる線の細い身体から徐々に力が抜けていく。今の今までずっと全身を強張らせたままだったのかと気付いたのはその時だった。
「俺の両親は事故で亡くなったんじゃない。殺されたんです」
「殺された?」
重い口をようやく開いたルルーシュが、こくりと静かに頷いた。
「俺はその現場を見てしまった。犯人の顔も」
「まさか……」
「ええ、俺も殺されかけました。長い髪を振り乱しながら刃物を振り翳している女性に」
「よく助かったな」
「追いかけてくる犯人から必死で逃げて、気付いたら病院のベッドに寝かされていて……奇跡的に怪我一つ無かったものの、記憶が曖昧で。それ以来、俺は女性が……」
「そうか」
それまで淡々と話していたルルーシュが辛そうに瞼を伏せた。
植え付けられた記憶を真実だと思っているルルーシュ。――寂しくはないのか。そう尋ねかけてから俺は思い留まった。
訊いてどうする。目覚められたら困ると思っているのは自分の方だろうに。
たとえ偽りの記憶とはいえ、彼が感じている痛みや苦しみは本物だ。
確かにルルーシュには罪がある。多くの人々を争いに巻き込んだ責任が。実際に殺された人々のことを思えば、ルルーシュの背負う苦しみなどちっぽけなものでしかないだろう。
……けれど、幾ら記憶を奪わなければならない理由があったとしても、これはあまりにも非人道的な手段ではないのか。
こんな風にじわじわと傷付けるやり方が正しいとは到底思えない。
心の内側で渦巻く迷いと共に、俺はルルーシュを強く抱きしめた。
彼の人生を歪ませ、こうまで狂わせてしまった元々の原因。それは一体どこに、そして誰にあるのだろう。ルルーシュ自身か。俺か。皇帝か。それとも世界なのか?
彼一人にここまでしてもいい権利など本当は誰にも無い。元はといえば、ゼロとしてのルルーシュを止められなかった責任は俺にある。そうも思った。
今更とは思えども悩みは尽きない。答えの返らない問いかけも。
けれど、ルルーシュをゼロに戻す訳にはいかないのだ。どうしても。だから肯定しなければならない。例えどんなに非道な手段を用いたとしても――。
思い悩む俺をじっと見つめていたルルーシュが、その時おもむろに口を開いた。
「初めて貴方を見た時、俺がどう思ったか知りたいですか?」
「…………」
「お話しますよ。俺が貴方に憧れていた理由」
悪戯っぽくも見える瞳の奥に映り込む不思議な色。
ルルーシュにこんな瞳で見つめられたことはあっただろうか。……嬉しそうで、幸せそうで、けれどそれでいて切なげな瞳。
「俺、テレビに映った貴方を見て、泣いてしまったんです」
「え?」
唐突な台詞に驚く俺に、ルルーシュは「変でしょう?」と笑った。
「見たことも会ったことも無い人なのに、何故か懐かしくて、酷く切なくて。まるで魂の半分を引き裂かれたような……。初めて貴方を見た時、俺はそんな気持ちで泣いていました」
「――――」
思いもよらない事実に俺は絶句した。
それは一体、誰の言葉なのだろうか。心臓の動悸が激しくなり、目の前にいるルルーシュと一年前のルルーシュの姿が重なっては剥離していく。
告白は尚も続いた。
「会いたかったんです。ずっと。一目でいいから会って話をしてみたくてたまらなかった。どうしてそんな風に思うのかは解らない。けれど、何か大事なことを伝えなければならないような、何かとても大切なことを忘れているような……。貴方を見ていると、何故かいつもそんな気持ちで一杯になるんです」
ルルーシュの赤裸々な告白。俺は戸惑いを隠せない思いで一杯だった。
まさかずっと、そんな想いを抱えていたとでもいうのだろうか? 俺に嘘を吐いて、裏切って、想いの全てを踏み躙ってきたルルーシュが?
まさか。有り得ない。でも……。
即座に打ち消しては困惑が生じる。これは、このルルーシュは一体誰なんだ?
「人に対してこんな思いを抱いたのは生まれて初めてです。勿論こんなことをしたのも……。本当に会えるだなんて思っていなかった。だから今、俺はとても嬉しいんです」
夢みたいだ、と呟くルルーシュの雰囲気は消え入りそうなほどに儚い。
不遜で毒舌で気が強くて、けれど誰よりも気高くて。そんな嘗ての面影など、もうどこにも――。
最後に見た歪んだ笑顔と悲痛な絶叫が耳の奥で木霊した。
封殺されたゼロ。闇の人格を取り除かれただけで、こんなにも変貌してしまうものなのだろうか。だとしたら、今まで俺が見てきたルルーシュは一体何だったというのだろう。
深呼吸したルルーシュが、ふっと笑みを零してから俺を見た。
「こう見えても、俺は今幸せなんです。一応勉強だけは出来たから、こうして面倒も見てもらえるし。将来は教師にでもなろうかと」
「――――」
あっけらかんと告げられた将来の展望。ルルーシュは無邪気に肩を竦めているが、俺はルルーシュであってルルーシュではない男の言葉に又も絶句する。
こういった素養が初めから全く無いものであるならば、どこを叩いても出てはこない筈だ。だから、一見全く別人のように見えたとしても、これはやはりルルーシュなのだろう。
そう思って納得するより他に、成す術は無い。
「それにしても、貴方は不思議な人だ。どうしてこんなに俺に優しくしてくれるんです?」
特に優しくした覚えは無いが、幾ら以前と比べて口が軽くなったとはいえ、そう易々と他人に過去を明かしてばかりいるとも思えない。
相変わらず純度の高い好意だけを伝えてくるルルーシュに、俺はなるべくさりげない口調で告げてみた。
「理由が無ければいけないことなのか?」
それとも、何か裏があるとでも? そう訊こうとして俺は瞬時に口ごもる。
鈍る頭の隅に浮かぶ台詞。……馬鹿なことを。裏があるのか無いのかと問われれば、答えなど疾うにはっきりしているのに。
「だって、メリットが無いでしょう? 俺には貴方に返せるものなんか何も無いのに」
ふわりと笑んだルルーシュが、布団の下で俺の背に抱きついたまま密やかな声で答えてくる。
幼少時と似たような物言いだ。理由の無い善意を容易く信じないその姿勢。
そして、彼を守ろうとしていたあの頃に持ちかけられた約束――相互扶助。
メリットやデメリットの問題じゃない。助けたいから助ける。守りたいから守る。そんな当たり前の好意でさえ、ルルーシュはすぐに受け取ろうとはしない子供だった。昔から。
「……俺にも友人がいたよ」
このルルーシュだろうと一年前のルルーシュだろうと、決して言いたいことでは無い。
にも関わらず、俺は気付けば話してしまっていた。
「友人?」
「ああ。とても大切な友達が」
「…………」
ルルーシュは物言わぬままじっと俺を見つめている。
確認するまでもないことだが、今のルルーシュには記憶が無い。これが演技ではないという確証などどこにも無いけれど、人格を操作された今の彼は隠したいことであればあるほど話してしまう。
人格を操作されている以上、俺に対して嘘が吐けないことだけは明白。たとえ記憶が戻りかけていたとしても、これであれば途中経過の時点ですぐに解る。
だから、俺は――。
Lost Paradise 3(スザルル)
3
「スザク様が嫌じゃなければ……俺は嬉しいです。その……ずっとじゃなくても、少ない時間であっても、貴方みたいな人と一緒に暮らせるなんて」
はたはたと瞬きながら、ルルーシュは照れ臭そうに告げてくる。
俺はそれにも苦笑しながらルルーシュに尋ねた。
「貴方みたいな人って、どういう人なのかな」
「えっ?」
「君は俺に憧れてくれているらしいけど……君にとって、俺はどういう人間なんだ?」
「…………」
幾ら嘘がつけないとはいえ、さすがにここまでストレートな尋ね方をされれば照れの方が先立つのだろう。ルルーシュはどうしようとばかりにおどおどしながら自分の腕をかき抱くようにして立ち竦んでいる。
「い、言えません。それは。それだけは……」
そして、消え入るようなか細い声で「すみません」と呟いたきり、ルルーシュは俺から目を逸らした。
「…………」
俺は少しだけ思案した後、そんなルルーシュを更に追い詰めようと、おもむろにルルーシュの顎を持ち上げる。
「あっ!?」
「言えないって、それはどうして?」
続けてそう尋ねてやると、怯えた声を上げたルルーシュは一歩だけ後ずさり、凝視する俺の視線から逃れるようにぎゅっと目を瞑った。
「あのっ! ス、スザク様……。やめっ……やめて下さいっ!」
「君は俺に指図するのか?」
「や、ちがっ! そうじゃなっ……! ど、どうか離して……離して下さい……っ」
「君が素直に答えを言えば離すよ」
「……ぃ、や……。お願いです……」
「ルルーシュ」
「は、はい……」
「俺は正直な人が好きだ。解ってくれるか?」
「……っ」
薄く目を開いて俺を見たルルーシュは、それでもやはり耐え切れない羞恥のためか頻りにカタカタと震え、俺の腕に手を掛けて何とか逃れようと顔を背けている。
目尻に浮かぶ涙。震える長い睫の先や、戦慄く唇。
恥じらいながらも弱々しく抵抗を示すそのさまは、さながら情事の最中を思わせるほどしどけない色香に満ちていた。
誰にも屈しようとしない自尊心の塊のような、あのルルーシュが。――そう思うだけで腰の辺りが重くなり、異様なほど興奮を煽られる。
俺は震えるルルーシュの指先を掴んで引き寄せ、逃れられないようわざと距離を縮めた。ルルーシュが小さく「あっ!」と叫びを漏らしたけれど、俺はそんなルルーシュに構わず耳元へそっと顔を寄せ、低く囁く。
「言っただろう? 君みたいな人に憧れていたと言われて不快に思う奴なんかいないって。それとも君は、俺の言ったことが信じられないのか?」
「ちがっ……!」
「なら言ってくれ。正直に……」
肩を抱き寄せ耳元で囁きかけてやるたびに、抱えたルルーシュの肩がビクッと跳ね上がった。耳が弱いのは知っているが、それにしても随分と敏感な反応だ。
「ルルーシュ?」
もう一度名前を呼んでやると、ふるりと一度大きく首を振ったルルーシュはとうとう観念したように怖々と瞼を開いた。
懇願が受け入れられることを求め、ひたすら必死な面持ちで俺を見上げてくるいたいけな瞳。俺は今にも涙の零れ落ちそうなルルーシュの紫玉を舐めるような目つきで見定めながら、答えを促そうとルルーシュの唇から少しだけ離れた位置で口付ける真似をした。
その途端、ほんの僅かにかかった俺の吐息に怯んだルルーシュがひゅっと息を飲む。
これ以上無いほど大きく瞠られた紫玉に驚愕の色を浮かべたルルーシュは、とうとう堪え切れずに嗚咽を漏らしながら唇を開いた。
「……きです……貴方が……。ずっと、ずっと前から……貴方の姿を一目見たその時から……俺、貴方のことが好きでした……っ」
「ルルーシュ……」
全身全霊で訴えられて絆されない男は居ない。
言い得ようのない、そして抗いようも無い懐かしさといとおしさが怒涛のように込み上げ、俺は思わずルルーシュを強く抱きしめそうになっていた。
心臓が締め付けられる。万力で挟まれるよりもまだ強く。
愛しい。いとおしい。どうしようもないほどこの存在を手に入れたい。何を押しても欲しい。
駄目だ。この男は俺の敵。――だけど。
ルルーシュの告白はまだ終わらない。うっく、と時々えずきながらも、健気とも切なげとも取れる小さな声で必死に訴えてくる。
「お、お願いです。男なんかに好かれて気持ち悪いかもしれないけど……き、嫌わないで……。貴方に嫌われてしまったら、俺……俺は……っ!―――ん!」
ほたほたと涙を零しながら乞い願うルルーシュに、俺はほとんど噛み付くような勢いで口付けた。
敵だ仇だと言い聞かせてはみたものの、まるっきり無駄だった。
一瞬で理性の全てが吹っ飛んだ。
はっきり言って我慢の限界だ。いじらしいとか可愛らしいのを通り越して、寧ろ凶暴な感情の赴くままに、滅茶苦茶に踏み荒らして穢し尽くしてやりたくなる。
「んんっ……! ふぁ、ぅ!」
思い切り深く口付け一頻り口内を犯しつくしてからようやく唇を離せば、その瞬間ルルーシュは酷く辛そうに瞳を細めて俺を見た。
ぜいぜいと呼吸を荒げてくったりと俺の胸へとしなだれ掛かるその時も、焦点を失った虚ろな瞳からほろほろと涙を流しながら俺にか細い声で尋ねてくる。
「スザク様……」
「何?」
「これは……遊び、ですか?」
「え?」
言いながら、今度は突然肩を震わせて激しく啜り泣き始めたルルーシュに驚き、俺は困惑しながらルルーシュの顔を持ち上げた。
「ど、して……こんな。本気では、ないでしょう……?」
「――――」
俺は言葉を失った。
つい感情先行で後先考えずに動いてしまったが、要は「本気でも無いくせに手を出すのか」と言いたいらしい。
「……遊びだと言ったら、君はどうする?」
少し上の目線からわざと突き放す口調で冷たく言い捨ててやれば、俺を見上げるルルーシュの顔がくしゃりと悲痛に歪んだ。
「貴方は、酷い人だ……!」
言うなりもうこれ以上立ってはいられないとばかりに、ルルーシュはその場にしゃがみ込もうとする。
力を失って泣き崩れようとするルルーシュの腕を反射的に取り、俺は無理やり抱き寄せた。
「嫌だ……! やめて……も、やめてくださ……っ!」
激しい抵抗を見せたルルーシュは、錯乱しながらも俺から逃れようと腕を突っ張る。俺はそんなルルーシュの手首を素早く捕らえ、もう一度強く引き寄せて至近距離からルルーシュの泣き顔を覗き込んだ。
「だったら、お前の本音を言え」
気付けば口に出していた。
「――ぇ?」
「お前は、俺にどうされたいんだ?」
「――――」
「言え。ルルーシュ」
「――っ、う」
ルルーシュは俺を見上げてぼろぼろと涙を零しながら、ふるふると首を左右に振った。
相変わらず俺に怯え切っているようなその態度が酷く勘に触り、つい込み上げる苛立ちに任せて強い口調で詰ってしまう。
「なら本当に遊びで終わらせるぞ。それでもいいのか?」
「……っ!」
ルルーシュはそれにもふるふると首を振り、激しい葛藤に苛まれながらも必死で何かを訴えてくる。
「や……いや、です!」
「だったら言えるだろ」
「だから俺はっ……! 貴方が好きだと!」
「それはもう聞いた。俺はお前の本音を言えって言ってるんだ。俺とどうしたいのか――お前が俺にどうされたいのかを言えと言ってる。意味わからないのか?」
ぱっと顔を上げて言い募ってくるルルーシュに、俺は冷たい声音で吐き捨てた。
カタカタと震えるルルーシュの手首に力を込めながら黙って見下ろしていると、ルルーシュはの震えはどんどん酷くなっていく。
――だからこいつは、どうしてここまで俺を怖がるんだ?
そう思った瞬間、俺は又も次の言葉を発してしまっていた。
「言えよルルーシュ。正直に言えたら、お前の望み通りにしてやる」
「な、んで?」
「なんでも何も無いだろ。言うのか言わないのかどっちなんだ? お前俺のこと誤解してるみたいだけどな、俺は結構気が短いぞ。――五秒やる。だからさっさと言え」
急かすためにも敢えて乱暴な口調を選んで言い捨ててやれば、ルルーシュは酷い動揺と混乱の中で瞳を大きく見開き頻りに揺らしている。
5、4、3――と俺が秒数を数えだした途端、ルルーシュはいきなり俺へと取り縋り、そのまま首筋へと夢中で腕を絡めてしがみ付いてきた。
「俺は……俺は……っ! 貴方と遊びで終わらせるなんて出来ない! そんなの絶対に嫌だ……っ!」
「だから?」
「……お願いです。貴方を……俺に下さい」
「どれくらい?」
「全てです」
「――――」
なんだ。その程度でいいのか。
ルルーシュの台詞を聞き終えた瞬間、俺が感じたものは僅かな落胆と、それをも遥かに上回る苛立ちでしかなかった。
「それがお前の本音か?……お前、この期に及んでまだ俺に嘘ついてるんじゃないだろうな」
「…………」
「言っとくけど、俺は嘘吐きは嫌いだ。全部言ってないなら今のうちに言っとけよ? 後から言えませんでしたとか、そういう言い訳なら一切受け付けてやらないからな」
すると、ルルーシュは震える唇を辛そうに噛んでから、こう答えた。
「俺は、貴方の心が欲しい」
「……それって、俺に愛されたいってことでいいんだよな?」
「――――」
俺が尋ねた瞬間、弾かれたようにルルーシュが俺を見た。息を吸い込む音でさえも震えている。
「何だよ。違うのか?」
「ちが……違わない……」
泣き濡れたアメジストと目が合った瞬間、ドクンと胸が高鳴った。
ただこうして対峙しているだけで、全身が心臓と化したような強い動悸と共に強烈な眩暈を覚える。
――多分、ルルーシュも俺と同じだ。
理由もなく確信してしまった。……だから、もう戻れない。
脳内を占めるのは、最早渇望や焦燥にも似た強い飢餓感のみ。
俺は飢えと乾きを満たしたい思いのまま、ルルーシュへと即座に言い放つ。
「じゃあ命令しろ。ルルーシュ」
「え?」
「俺に命令しろって言ってるんだ。俺が必ずお前の望みを叶えてやる」
「…………」
俺が言い放った瞬間、茫洋としていたルルーシュの瞳に宿ったものは強烈な意思の力。
同時に、ゾクリと背筋を駆け抜けていく感覚。――全身の血液が沸騰するような。
言われなくても解る。
これは、紛れも無い歓喜だ。
「俺はお前を裏切らない。信じろ。ルルーシュ」
――わかった。解ってしまった。
俺が見たかったのは、この一年間ずっと求め恋焦がれ続けていたものは、おそらくこれだったのだと。
ああ、ルルーシュ。
俺の主。……俺の王。―――俺だけの、たった一人の。
そう思った刹那、苦しげに歯を食いしばったルルーシュは決然と俺を睨みつけながら叫んだ。
「愛してる……! 俺を愛せ!」
拍手レスです。
波のまにまに☆さん>
ブログ感想も置いておきますね。反転でーす(`・ω・´)
テラ長くなっちゃったので追記に置いてあります。
拍手レスです☆
拍手ぱちぱち有難うございます!
※有・無に関わらずちょう励みになっております☆
近いうちにアンケなんかもやってみたいと思っておりますので、その際には是非答えてやって頂けると嬉しいです。
コメ返し、反転してます(`・ω・´)
波のまにまに☆さん>
記憶喪失ルル欲しがって頂いて有難うございますwww
実はこれ、R2・中華連邦でのクーデター発生時、ミレイ会長の安否について学園でかかったアナウンスにて「ナイトオブセブン・枢木スザク様が……」って様付けで呼ばれてたことにはげもえしてたら出来たお話なんです☆
「ルルーシュにも言わせたいな、それ」ってwww
割とさっくり仕上げで終わるお話になる予定ですので、よろしければ最後までお付き合い下さいませww
Lost Paradise 2(スザルル)
2
生徒会室を出た後も、ルルーシュは俺の隣に並んで歩こうかどうしようかと微妙な距離を取り続けていた。
それに気付いた俺が背を軽く押すことで隣に来るよう促してやれば、ルルーシュが「あっ」と小さな声を漏らして足を縺れさせる。
「おっと」
咄嗟に腕を差出し、前につんのめりかけたルルーシュを支えてやると、腕にしがみついたルルーシュは「すみません」と言いながら胸元を軽く押さえて俺を見上げてきた。
不意の接触にもいちいち過敏な反応を示すそのさまですらいじらしく、そして初々しい。
「ごめん、転ばせるつもりじゃなかったんだ」
「いえ、別に! だ、大丈夫です」
自分から送ると言い出しておきながら、何を話せばいいのかわからないのだろう。ルルーシュは先程から口を開きかけては閉じるというもじもじした態度を崩せずにいるようだった。
「まだ緊張しているのか? 俺と君は同学年だろ」
「そうですね……初対面の方に対して人見知りしてしまうのは、俺の昔からの悪い癖で」
「そうなのか?」
「はい。それに、本当は俺なんかがお会い出来るような方ではないと思うと、つい……。お恥ずかしい限りです」
常に物怖じしない尊大な態度で人と接していた頃が嘘のように、今のルルーシュは萎縮していた。
原因は言わずもがな、この俺だ。
今のルルーシュは、俺に関する記憶の一切を失っている。幼馴染だったことも、嘗て友人同士であったことも、そして敵として互いに対峙し合っていたことも。
しかし、ルルーシュの態度を見ていても解るとおり、ルルーシュが俺に対して抱いているのは明らかに通常、他人に対して抱く範囲を遥かに超えた好意――つまり、憧憬に基づく恋心だった。
とはいえ、皇帝は「枢木スザクに恋焦がれろ」などという馬鹿げたギアスは勿論かけていない。
「それより、さっきは会長が変なことを言ってすみません」
「変なことって?」
「だからその、俺が貴方に憧れていたとか……。嫌ですよね、男の俺なんかからそんなこと言われても」
「…………」
俺が黙っていると、それを肯定と受け取ったらしいルルーシュは途端にしゅんとなったように表情を曇らせる。
ルルーシュは先程から、既に三回ほど自分を卑下する発言を連発していた。
言うに事欠いて「俺なんか」とは。
「そんなことを言うものじゃない。君みたいな人から憧れていたと言われて、不快に感じる人なんかいないよ」
「え……?」
俺の発言に戸惑ったのか、思いつめた顔で俯いていたルルーシュが揺れる瞳で俺を見た。
「さっきも会長に聞いたけど、君は成績も優秀だし容姿も端麗で、生徒たちからとても人気があるんだってな。けれど、そんなに優れたところを持っているのに、なんだか君は自分に自信が無いみたいだ。それは何故?」
「そんな……」
恐縮です、と呟いたきり、ルルーシュは俺の質問にすぐには答えず黙り込む。
しかし、ずっと黙っているのも失礼だと思ったのか、やがて言いづらそうに口を開いた。
「実は俺、女の人が少し苦手で……」
「苦手? 会長とはあんなに親しげに話していたのに?」
「はい。会長は俺が昔からお世話になっている人なので大丈夫なんですが、面識の無い女性との接触がとても怖くて……。頭では平気だと解っているんですけど、どうしても駄目なんです。もしかすると、知らず知らずのうちにそれがコンプレックスになってしまっているのかもしれませんね」
「女性が、怖い?」
「はい」
「学園の生徒たちは? たとえば、君と同じ生徒会の人たちとか」
「それはまだ、何とか……」
「そうか」
「いえ、でも、やっぱり女性は……その……」
「…………」
ルルーシュの性格が大きく変わってしまったのには訳がある。
皇帝がルルーシュにかけたギアスは三つ。
一つ目は、皇族だった事実に関する記憶、ギアスに由来する記憶についても全て失くすこと。
二つ目は、女性との接触を怖がるようなトラウマの植え付け。
そして三つ目は、好意を抱いた相手に嘘がつけなくなるという偽の記憶の植え付けだった。
皇帝のギアスはルルーシュのギアスとは違って、絶対遵守の命令は下せない。あくまでも、その効果範囲は対象の記憶を改編するのみに留まっている。
だが「自分は元々そうだった」という記憶を強く刻み込むことによって、対象の性格そのものを変えてしまうことは可能だ。
一つ目のギアスによって、ルルーシュはC.C.とのことは勿論、嘗て日本へと送られ俺と友人になった記憶をも失くし、俺とは初対面だと思い込んでいる。
問題は二つ目からだ。C.C.を釣り出す餌にするためとはいえ、ルルーシュにはゼロとしてブリタニアに反逆していた頃の記憶を思い出させる訳にはいかない。そして、ギアスのことも。
これは、俺から皇帝へと直接進言したことだった。ユフィを失った今、ルルーシュがゼロとして再び活動を始めてしまえば、贖罪のためにブリタニアへと忠誠を誓った俺の道は今度こそ完全に閉ざされてしまう。
かといって、皇帝が自身の目的を遂げるためには、ルルーシュをC.C.と接触させぬままにしておく訳にもいかない。
……ゆえに、皇帝はルルーシュがC.C.と接触した際、自分に寄って来る見知らぬ女性を怖がって誰かに助けを求めるよう、面識の無い女性との接触を恐れるギアスをかけたのだった。
今学園にいる生徒はブリタニアの息がかかった監視員でもある。もしルルーシュがC.C.と接触するようなことがあれば、女性を恐れるルルーシュは間違いなく逃げた上で身近な相手にC.C.のことをすぐに話す。
そうすれば、C.C.が余程強引な仕掛け方でもしてこない限りルルーシュが記憶を取り戻すことは無く、C.C.と接触したことについても、監視として学園に送り込まれている生徒を通じて、即、報告されるという訳だ。
そして三つ目。
どこまでもオープンな今のルルーシュは、俺への好意を隠しもしないどころか、普通の感覚の持ち主であっても易々とは話さないであろう自身の秘密についてまで簡単に打ち明けてくる。
しかしながら、ルルーシュは元々、自分の気持ちを他人に対して率直に打ち明けるような性格ではない。ましてや、初対面の人間相手に自分のコンプレックスについて話すという愚かな真似など絶対にしなかった。
ルルーシュは徹底した秘密主義者な上にプライドが高い。自分の弱味を他人に握らせるようなヘマを踏むことなど死んでも拒もうとする難しいタイプだ。
何か悩み事がある時にもたった一人きりで抱え込み、決して人に話すことは無い。たとえ、それが好意を抱いている友人相手であっても――いや、関係の深い友人であればあるほど、ルルーシュは心配をかけまいとして尚のこと口が堅くなる傾向にあった。
……だが、ことC.C.と接触してもらう上では、それだと少々困るのだ。そして勿論、ルルーシュの記憶回復具合を調べる上でも。
本来俺は、ここエリア11へと送り込まれる予定ではなかった。監視に当たっている他の生徒のうちの誰か――例えば、親しくしている友人相手にあれこれ話すようにでもなってくれれば、それで全てことは済む筈だったのだ。
ところが、ここで予想外の事態が発生。
機情から上げられてきた監視報告によって明らかになったのは、なんとルルーシュはこの俺、ナイトオブセブン・枢木スザクに尋常ならざる想いを抱くようになっているということで……。
これでは、並の好意を抱いている相手よりも好意の度合いが上の相手、つまり、俺にしか悩みが出来た時に話さなくなるのではないかという可能性が出てきたのだった。
全くもってイレギュラーにも程がある話だが、ルルーシュが一体何故そうなってしまったのかは今もって謎のままだ。
しかし、ルルーシュと実際に再会してみて解ったことは、女性に対する恐怖心から男性としての自信が少々欠如しているということ。
更に、好意の対象は当然異性ではなく同性――つまり、男性へと向かうようになったということだ。
俺は思った。
それで、よりにもよって何故その対象が俺なのかと。
確かに、一年前のルルーシュと俺は「そういう関係」ではあった。でも、今のルルーシュにその頃の記憶は無い筈だ。既に記憶が戻っているのかと疑ってもみたが、演技にしてはやりすぎな上、実際再会してからのルルーシュの態度は明らかに度を越えている。
それに、ブラックリベリオンでの顛末を考えれば、あのルルーシュがわざわざこんな屈辱的な設定を自らに課してまで俺に仕掛けてくる筈が無い。
にも関わらず、ルルーシュが何故「こう」なってしまったのか、俺は結局探りに来ざるを得なくなったという訳だ。
「言い辛いことを言わせてしまったみたいだけど、打ち明けてくれて嬉しいよ。これからは友人同士になるんだ。君の相談についても乗らせてもらう。どんな些細なことであっても聞くよ。だから、何でも隠さず俺に打ち明けてくれ」
出来るだけ優しく見えるよう微笑んでやれば、ルルーシュもようやく緊張がほぐれてきたようだ。心なしか潤んだ瞳を俺へと向け、本当に嬉しそうな表情でうっとりと微笑み返してくる。
「あ、有難う……ございます」
そんなルルーシュの様子に、俺は思わず苦笑した。……だから、なんで俺なんだ?
幾ら記憶が抜けているからといって、腑に落ちないことこの上ない。
もし、これが演技だったとしたら――。そう考えるだけで俺は肝が冷える思いだった。
「ちょっと、いいかな」
「何でしょう?」
「敬語はやめだ。ルルーシュ」
「えっ?」
ルルーシュはポカンとした顔で俺を見た。
「だって、さっきも言ったが俺と君は同学年だろう? 部屋だって君と同じ所に住むことになるんだ。それだとおかしいだろ」
「同じ!?」
ルルーシュは初耳だったのか、心底驚いたように目を丸くしている。
「ああ、聞いてなかったのか。俺は君と同じようにクラブハウスの一室を借りて住むことになっている。学校でも、プライベートでも、君は俺とほとんど一緒だ」
すると、ルルーシュは手で口元を押さえてかあっと赤くなった。
「えっ――? え? スザク様と、俺が……ですか?」
「そうだ、ルルーシュ。俺と一緒は嫌か?」
俺が畳み掛けながらニコリと微笑みかけると、困惑したルルーシュは「違います!」と叫んでから首を振り、紅潮した顔を俺から覆い隠そうと頬に手の甲を当てていた。
「そんな……。だって俺……嘘でしょう?」
「嘘なもんか。寮に空き部屋が無かった訳じゃないけど、あそこはクラブハウスの部屋と比べて決して広くはないし、俺を他の生徒と同じ扱いにする訳にはいかないって会長が……。それに、君は生徒会副会長だろう? クラスも同じになる訳だし、俺の世話をするにはその方が何かと都合がいいんじゃないかって彼女が言ってくれたんだ。実際通学するようになるのは来週からだけど、実は三日後には越してくることになっている」
「三日後!?」
思いも寄らない告白に動揺したのだろう。挙動不審に陥ったルルーシュはへどもどと言葉を返していたが、三日後にはほぼ同居になるという事実を聞かされて完全に気が動転したらしい。
真っ赤になって口をぱくぱくさせているルルーシュに苦笑を浮かべた俺は、少し申し訳なさそうな顔を作りながらルルーシュへと問いかけた。
「急な話で悪いが、迷惑かな。俺もその方が助かるんだけど、君は嫌か?」
「い、いえっ! 嫌とか迷惑だなんてそんな……。決してそういう訳では……」
「じゃあ、緊張する?」
「……は、はい……」
困り果てたように瞼を伏せたルルーシュだが、それでもとろん、とした顔つきで俺を見上げてくる。
こうまで明け透けな態度をとられるのも、好意を抱いた相手には嘘が吐けないというギアスの影響なのだろうか。
「実を言えば、俺もずっとこの学園に居続けられるかどうかは解らない。陛下からの召集があれば、すぐ本国に戻らなければならなくなるしな」
「そ、そうなんですか?」
居なくなるかもしれないということを匂わせてやれば、ルルーシュは「それは嫌だ」と言わんばかりにすぐ眉を寄せて考え込んでいた。
思考が全部筒抜けだ。……本当に、解りやすいことこの上ない。
ずっと一緒に居られないのなら、せめて共に居られる間だけは一緒に居たい。
おそらくはそういう結論に達したのだろう。まだ俺に対する緊張を隠し切れてはいないようだったが、ルルーシュは突然意を決したようにパッと顔を上げてきた。
らくがき。
ごめんなさい。
Lost Paradise 1(スザルル)
※はじめに。
・ルルーシュ記憶喪失IFネタです。
・ルルーシュくんが、完全なるお花ちゃんです。
・しかもスザク様ファンな上に女性恐怖症でオドオドしています。
・スザクさんの一人称は、常時「俺」です。
・子スザの時みたいな喋りになる上に基本俺様で僕成分に著しく欠けています。
・人格・設定捏造っぷり半端ないので、ご注意下さい。
Lost Paradise.
1
ルルーシュが俺の記憶を無くした。
皇帝と俺との間で交わされた密約。残る他の記憶についても改竄されている。
ただ、文書で報告されている情報についてしか知らされていない俺は、丸一年ほど会っていないルルーシュが以前とどう違っているのか具体的には知らない。
――だから、一年ぶりに再会したルルーシュの激変振りには言葉も出なかった。
「ナイトオブセブン、枢木スザク様……ですか?」
「――――」
今、なんと言った? この男……。
再会早々、俺を様付けで呼んできたルルーシュに絶句し、俺は思わず歪みそうになる顔を押さえるのに数秒分の労力を要した。
一方、生徒会室に入ってくるなり俺の姿を見とめて「えっ!?」と叫んだルルーシュは、件の台詞を口にしてからというもの、ずっと入り口で棒立ちになったまま硬直し続けている。
呆然としながら俺を見つめる眼差しには傍から見てもそれと解るほどの高揚と歓喜が浮かんでおり、剣が無く年相応に表情豊かなそのさまは、洗練された高雅さよりも幼さをより強く連想させた。
「そうよー。一目見ただけでよく解ったわね。さすがだわ、あんた」
場に居合わせたミレイ会長に呆れた声で呟かれたルルーシュは、そこでようやく我に返ったのか、驚きにあんぐりと開けていた口を慌てて引き締めた。
「そんな偉い方が、どうしてここに……?」
「来週からこの学園に入学されることになっているの。その前に一応挨拶をってことで、わざわざこちらまで足を運んで下さったのよ」
俺の紹介も兼ねて、ミレイ会長がルルーシュに事情を説明する。ルルーシュと同様、彼女を始めとする生徒会や学園の面々も一年前の記憶を既に改変されていた。
「ルルーシュとも同じクラスになるから、ご挨拶しておいた方がいいと思って今日は呼んだの。あ、席もあんたの隣になるからね?」
「えっ!? そ、そうだったんですか……。驚いたな」
ルルーシュはまだ驚きが覚めやらないのかどもりまくっていたが、俺がちらっと向けた視線に気付くと「あ」と声を漏らし、少しはにかむような笑みを浮かべながら「ルルーシュ・ランペルージです。初めまして」と手を差し出してくる。
「初めまして。枢木スザクです。よろしく」
「こちらこそ……。よろしくお願いします……」
握手した瞬間、俺に手を握られたルルーシュは、いっそ見事なほどあからさまに頬を赤く染めていた。
語尾に向かうに従って小さくなっていく声。握った掌越しに伝わってくる緊張。――照れているのが丸解りだ。
手を握ったまま笑いかけてやると、ルルーシュはハッとしたように目を泳がせてから、かあっと染まった頬を更に赤くして俯いた。
「その、お会い出来て、とても嬉しいです。まさか帝国最強の十二騎士である枢木卿と、俺なんかがクラスメイトになれるなんて……すごく光栄だ。あ、俺は、一応生徒会で副会長をやっています。学園のことで何か質問があったら、いつでも俺に訊いて下さい」
見る者全てを魅了するような、柔らかく甘い微笑み。
過去の軋轢やわだかまりの全てが一瞬で吹き飛びそうになるのを辛うじて防ぎながら、俺はルルーシュに頷いた。
「わかった。では、何かわからないことが出来たら君に聞かせてもらう」
「!……はい!」
申し出に了解の意を返されたことが余程嬉しかったのか、ルルーシュが心底幸せそうに破顔する。
俺への好意と敬意全開のとろけるような笑顔。憧れの存在と懇意になれる喜びに満ちたその表情は、皇族としての記憶があった頃とは打って変わって警戒心の欠片も無い。
――これは本当にルルーシュか?
あまりの変貌振りに内心唖然としていた俺がそう思うのも無理はなかった。
報告書に記載されていた情報について知っていたとしても尚、驚きと困惑の方が上回る。それどころか、少しでも気を抜こうものなら今にも顔面が引き攣りそうだった。
このルルーシュに対する強烈な違和感を払拭するほどの質問など瞬時に思い浮かぶ筈もないと解っていながら、俺は更なる反応を色々と引き出してみるために幾つか質問しようと試みる。
「君はすごく頭がいいそうだな。今度俺に勉強を教えてくれないか?」
「えっ? 俺のことを知って……?」
「ああ、さっきミレイ会長から」
何か、なんでもいい。以前のルルーシュと共通する反応を見せたりすることはないだろうか。そう思って、以前のルルーシュなら「当然だ」とでも言いそうな質問を選んではみた。
しかし、ルルーシュはただ目をぱちくりとさせただけで、俺と接する上での低姿勢ぶりについては相変わらず変えようともしてこない。
それどころか――。
「でもその、勉強って……俺が、ですか?」
「駄目かな」
「い、いえっ! そんな……俺で良ければいつでも」
「君がいい」
「――――」
握手した手を離さずに真っ向から目を合わせてそう言ってやると、ルルーシュは無防備そうな顔に朱を乗せたまま大きく見開いた瞳を黙って揺らしていた。
嫌悪の色でも僅かに浮かべば、俺としてもまだ救いがあったものの……。けれど、穴が開きそうなほど熱心に見つめてくるルルーシュの顔は、やがて俺にぼうっと見惚れるようなものへと変わっていく。
どぎまぎしていることを隠しもしないその態度は、まるで恋する対象と相対しているかのようだ。――とても演技とは思えない。
「良かったわねー、ルルーシュ」
赤面するルルーシュの様子をにやにやしながら眺めていたミレイ会長が、即座に横槍を入れてくる。
「な、何がですか……」
「あんた、前から憧れてたんでしょう? 枢木卿に。大ファンだったんですよー、この子。テレビにスザク様の姿が映るたびに全機能停止して魅入っちゃうくらいに!」
「なっ……!」
え、と呟いた俺を一度だけ見遣ったルルーシュは、一気に狼狽しながら必死で会長を往なし始めた。
「や、やめてくださいよ、何言ってるんです会長! よりにもよってスザク様の前で……」
「なーによー。照れることないじゃない。ホントは枢木卿に誘ってもらえて嬉しいんでしょう?」
「―――っ! いい加減にしてくれないと本当に怒りますよ!?」
からかわれたルルーシュは俺に向かって「すみません」と訴えながら、ミレイ会長にあたふたと言い返している。
なんだろう。物凄く複雑な気分だ。
いっそからかわれているのは俺の方なんじゃないだろうかとさえ思いながら、何とか平静を装った俺はルルーシュへと尋ねた。
「憧れだなんて……俺の方こそ光栄だ。君、それは本当?」
「い、いや俺はっ……そのっ!」
ぼわぼわと顔を赤くしてうろたえるルルーシュの様子は、ルルーシュに思いを寄せていたシャーリーの姿そのものだ。いつもつんと取り澄ましている顔以外碌に見せようとしなかったルルーシュが、まさかここまで開けっ広げな性格になるなんて。
本当に呪わしい力だ。――ギアスとは。
心の中で苦々しく呟きながら、俺はゆっくりと席を立つ。間が抜けていると言い換えてもいいくらい和やかなこの場の空気に、そろそろ本気で耐えられそうにない。
「それじゃ、俺はまだ仕事が残っていますので。今日はもうこの辺で……」
「あ――」
すると、会長と言い争いを続けていたルルーシュが俺の方に振り返ってきた。
まだ仕事が残っているというのは当然嘘だったが、明らかに落胆しているその顔には「もう行ってしまうのか」とハッキリ書いてある。
「あのっ……スザク様!」
「何?」
「俺、途中までご一緒してもいいですか?」
名残惜しい。まだ話していたい。少しでも一緒にいたい。
でも、しつこくするのも気が引ける。
そんな感情の全てを惜しげもなく俺へと晒しながら、ルルーシュがおずおずと尋ねてくる。
「その……ご迷惑じゃなければですけど。玄関までお送りします」
「…………」
これからのことを考えれば、わざわざ拒絶するのも面倒だ。
前へ前へと出て行こうとする積極的なところは一応変わってないんだな、と少し安心にも似た感情を芽生えさせながら俺は鷹揚に頷いた。
「いいよ。出来れば帰りがてら、校内も少し案内してくれないか?」
まだ色々と聞いてみたいことはある。
そう思っての俺の提案に、しかしルルーシュが示した反応は予想以上のものだった。
「はい! 喜んで!」
ぱあっと花が咲いたような笑顔を見せたルルーシュは、ぱたぱたと俺の傍まで駆け寄ってくる。
……こんな人懐っこいルルーシュなんて見たことが無い。
皇族という出生の頚木から解放されるとこうなるということは、元々簡単に人慣れするような素質があったということなんだろうか。
それとも、対象が俺だからこそ、こういう態度になっているだけなんだろうか……。
他人に対して警戒や注意を向ける反面、無関心でもあったルルーシュは、一度好意を抱いた相手に対しては甘いと言っても過言ではないほど優しい部分を持っていた。
ただ、俺の記憶の中にいるルルーシュは自分から積極的に友人を作りに行くタイプでもなく、外面は良くても本質的には内向的な性格だ。
よっぽどのことが無い限り、決してこんな風に面識の浅い他人に対して心を開くような人間ではない。
けれど――。
確かに、ルルーシュは人間の醜い部分に対して激しい拒絶反応を示すことはあっても、決して人嫌いではなかったのだと俺は不意に気付く。
同時に、ズキリと胸が疼いた。
生まれに関する悲劇さえなければ、ルルーシュもこうして自分から好意を抱いた相手に歩み寄ろうとすることもあったのだろうか、と。
何だか少し不憫に思えてきた俺は、憐れみとも慈しみともつかない感情に翻弄されるまま、気付けば自然とルルーシュに微笑みかけながら切り出していた。
「君とはほんの少ししか話せなかったから丁度いい。席も隣になるみたいだし、来週登校してくる前に、是非交流を深めておきたい」
仲良くしよう、という意図を込めてやんわりと微笑んでやれば、ルルーシュは俺を見上げたまま、またほんのりと頬を染めていた。
信じられないくらい正直で素直な反応だ。
しかも、今度は耳まで赤い。
「あの……俺も実を言うと、もう少し貴方とゆっくりお話がしたくて。本当にご迷惑ではありませんか?」
「迷惑だなんてとんでもない。俺も君と話をしたいと思っていた。嬉しいよ」
「それ、本当ですか?」
「ああ、有難う。言い出してくれて」
「――っ!」
きゅっと唇を噤んだルルーシュが、はぁっと安堵の溜息を漏らす。次いで、またはにかむような淡い笑みを浮かべながら上目遣いで俺を見上げてきた。
きらきらした瞳に僅かな興奮と期待の色を乗せているさまは、完全に恋する乙女の様相だ。記憶を無くす前のルルーシュがこんな自分を見たら、おそらく卒倒するか憤死するだろう。
ルルーシュに対する怒りや憎しみを忘れた訳ではない。
俺は自分にそう言い聞かせながら、内心傑作だとルルーシュを敢えて嘲弄し、事の成り行きを見守っていたミレイ会長へと頭を下げる。
「じゃあ、来週から宜しくお願いします、ミレイ会長」
「こちらこそ歓迎させて頂きますわ、枢木卿。それじゃあルルーシュ、後は頼んだわよー。くれぐれも失礼の無いようにね!」
「わかってますよ、言われなくても!」
むっと膨れながら言い返すルルーシュをじっと見下ろしていると、ルルーシュは俺の視線に気付いたのか慌てた素振りで取り繕おうとする。
まるではしたないところを俺に見られるのが嫌だったとでも言いたげなルルーシュに「じゃ、行こうか」と声をかけると、ルルーシュは愛くるしい笑みを浮かべながら「はい」と素直に頷いた。