オセロ 第18話(スザルル)

※大したこと無いので畳んでませんが、一部BL的描写がありますのでご注意下さい。





18


 目を合わせないルルーシュの様子を横目で伺っていたスザクは、遠い記憶に思いを馳せるように茫洋とした眼差しで空を見上げていた。
「僕と離れている間、君は泣いたかい?」
「……お前はどうだったんだ?」
 全身に拒絶の空気を纏わせたまま、質問に質問で返すルルーシュを見て、スザクが僅かに目を伏せる。
「僕は、泣けなくなったよ」
 君と離れてから一年間、ずっとね。
 ぽつりとそう漏らした後、スザクがするりと視線を逸らした。
「そうか」
 酷く耳に残る台詞だ。
 だが、今のルルーシュにとっては、この問いかけに答える意味などさして無いようにしか思えない。単に、それはそうだろうと他人事のように思うだけだった。ユーフェミアを殺された恨みと憎しみで、身も焼き尽くさんばかりだったに違いないと。
「あの日、どうして泣いてたの?」
「何が?」
「はぐらかさないでよ。……泣いてただろ。君」
 記憶が戻っているかどうか探りを入れる事だけが目的ではないと察してはいたが、それにしても……。
(このしつこさには本当に恐れ入る)
 今更それを聞き出してどうしようというのか。
 辟易とする思いをひた隠したまま、ルルーシュは無言で俯いた。
 一年前、ルルーシュがスザクに心底傾倒し、依存していたのをスザクは知っている。
 まだこちらに好意が残っていると見込んだ上で仕掛けてきたのだろうとは思っていたが、会話の糸口としてチョイスする話題が一年前の関係についてとは……。とんだ悪趣味もあったものだ。
 スザクとて同じ思いではあるだろう。確かに、円滑な友達ごっこを続ける為にも避けて通れない話題ではある。
 だが、どのみち例の関係については、もう終わっているのだと強調しておかねばならない。
(自惚れるなよスザク。調子に乗るのも大概にしろ)
 あんな別離の後で、深く掘り返す話題でもないだろう。
 この期に及んでどういうつもりか知らないが、ユフィの件さえ持ち出せば、その話題に関する追求は恐らくクリアされる。
(大体、今のお前が俺に執着する理由など、とっくに無くなっている筈だ)
 スザクが『縛り付けておきたい』と口にするほどルルーシュに執着していたのは、ブリタニアに隔意を抱いていたルルーシュが、いつか自分と同じ父殺しになるのを恐れていたからだ。
 そのルルーシュがゼロだったと知った以上、嘗て『僕と同じになって欲しくない』と言っていたスザクの想いは完全に裏切られた事になる。
 だから、『本当の俺』を露にした今のスザクが、まだルルーシュに対して執着する理由があるとしたら、只一つ。
 ――ユフィを殺した仇に対する恨みでしかない。
(いや、だからこそ、か……)
 もし記憶が戻っているとしたら、敢えて以前の関係を引き合いに出して友達ごっこを仕掛けられた方が、ルルーシュにとってのダメージも大きいと判断したのだろう。
 規模は小さいものの、正に復讐にはうってつけだ。記憶が戻っていても、いなくても、甚振るという意味合いでなら、さぞかしいい嫌がらせとなるに違いない。
 いやらしい戦法だ――と、そこまで思った所で、ルルーシュの背筋にひやりとしたものが走った。
 記憶が戻っていると仮定した場合、揺さぶりをかける意味でこの話題を持ち出すのなら確かに効果的かもしれない。
 だが、記憶が戻っていないと判断した場合、スザクはどうフォローする気でいるのだろう。
(まさかとは思うが、もうとっくに終わっているあの関係を継続させるつもりでいるのか?)
 ……だとしたら冗談ではない。
 幾らなんでも有り得ない展開だ。ルルーシュは即座にその予想を打ち消した。
 ちらりと過ぎった考えに悪寒が走る。今更スザクに抱かれてやるなど、言語道断だった。
「どうして今更そんな事を訊くんだ? お前にとっては、もう関係ない事の筈だろう?」
 長らく俯いたまま黙り込んでいたルルーシュは、口にするどころか思い出す事さえ辛いとでも言いたげに、いかにも沈痛そうな面持ちでスザクに尋ねた。
「関係ない?」
「ああ、そうだ」
「どうして?」
「お前は、ユーフェミア副総督と……その、恋人同士だったんだろ?」
 さりげなくユフィという愛称を避けたルルーシュは、スザクに向かって悲しげに笑んでから目を逸らした。
 上手くいったと聞かされたのはナナリーからだ。
 だが、今その名を口にする事は決して許されない。――ただ、誰よりも愛する妹の名を呼ぶ事ですら。
 水面に落とされた一滴のインクが波紋を広げていくように、ルルーシュの胸中に黒い染みが滲んでいった。
「誰かがそう言ったのかい?」
 もう終わったことだと言わんばかりに論点をずらそうとするルルーシュを、スザクは無表情で見つめていた。
「当時噂になっていただろう。お前も知ってたんじゃなかったのか?」
「知ってたよ」
「だったら、」
「付き合ってるって、本気で思ってたのか? 皇女だったユフィと、イレブン出身の騎士が。……随分、君らしくない発想だな」
 台詞の続きを遮るように尋ねられ、ルルーシュが一瞬口ごもる。
「……では、あれが只の下世話な噂だったとでも?」
 スザクは何も答えなかった。
 ルルーシュに対して一線引いていたスザクが、心の中での拒絶を解いてみせたのはユフィに対してだけだ。
 すぐに否定してこない事こそ肯定の証と捉えながら、ルルーシュは続けた。
「違うだろ? 少なくともお前は好きだったんだ。それを只の噂だなんて……。決してそうじゃなかったって事くらい、俺にだって見てれば解る」
 その間スザクは何か考え込むように口を閉ざしていたが、ルルーシュもまた無言だった。
 携帯をポケットに仕舞い込む姿が、視界の隅に映る。
(このまま番号を教えなければ、終わりだという意思表示にもなるだろう)
 ……だが。
 そこまで考えた時、突如視界が暗くなった。
「!」
 目前へと伸びてきたスザクの手に前髪を一房掬い取られ、驚きに硬直したルルーシュがびくりと全身を強張らせる。
 唐突、かつ前触れの無い接触に声も出ない。
「……逃げないの? ルルーシュ」
 毛先に絡ませた指で髪を遊ばせていたスザクに尋ねられ、ルルーシュは咄嗟に逃げを打とうと上半身を捩った。
 しかし、指先が髪からするりと離れた瞬間、素早くフェンスの両サイドを掴んだスザクの手に閉じ込められ、あっさり唇を塞がれてしまう。
「やめっ……!」
 首を振って抵抗する間に叫んだ抗議の声も、深く重ねられた唇に掻き消される。
 いつの間にか背丈を追い越されていたらしく、スザクの目線はやや上にあった。
 撓らせた背がフェンスに当たる。下手を打ってバランスを崩せば落下しかねない体勢だ。
「落ちるよ?」
 僅かな息継ぎの合間を縫うように、低く囁いたスザクが背中に腕を回してきた。
 パワーゲージに差がある事は知っていたが、力任せに両肩をかき抱く腕があまりにも屈強すぎて抗えない。絡んでくる舌を追い出そうと顔を背けても、角度を変えるごとに口付けの深さは増していくばかりだ。
(この男……一体何を考えている!)
 執拗に絡んでくる舌を追い出そうと試みながら、横暴な手段もあったものだとルルーシュは思った。
 言葉で陥落出来ないなら、実力行使も辞さないという訳か。
「……っは、お前……っ! いきなり何をする! ――っう!」
 ようやく唇を離され、荒げた息を整えようとしたのも束の間、襟にかけた手を後ろに引かれて仰向いた首が絞まりそうになる。
「じゃあ質問を変えようか」
「何っ!?」
「あの日君が泣いていたのは、僕のせい?」
「……っ!」
 ルルーシュは驚きに目を瞠った。
 その質問には答えられない。現時点でのルルーシュは、ゼロとしての記憶を失っている筈だからだ。
 ルルーシュがゼロで、スザクはユフィの騎士で。互いの道が違ってしまったのはどちらの所為でもない。
 ゼロだった事も、ブリタニアへの反逆を引き起こした事も、ルルーシュに後悔するつもりなど更々無かった。
 スザクの想いを知った時でさえ、謝ろうとは微塵も思わなかったルルーシュだ。……というのも、その行為が結局、自身の生き方全てを否定する事にしか繋がらないと割り切っていたからこそだったのだが。
(こいつ……この俺にどう答えろというんだ!)
 去年の12月5日に関するスザクとの記憶は、ほぼ手付かずのまま残されていた。
『特区に参加しないか』とスザクに尋ねられた時、結局断った流れに関しても事実に則している。
 ただ、本来の理由についての詳しい記憶が抹消されているだけだ。
「答えられないのかい?」
 歯を食いしばって睨み付けるルルーシュを、スザクは何の感慨も抱かない目つきで見下ろしていた。
 襟元を引いていた手は離されると同時に頬を辿り、人差し指と中指で挟み込むように耳を愛撫してくる。
「……ぅ!」
 途端、ぞくりと背筋を駆け抜けていく甘やかな疼きに、ルルーシュは心底総毛立った。
(これも俺の記憶回復を確かめる為の手段だというのか。こんな事が!)
 今のルルーシュの記憶に欠落箇所があると、スザクとて解っているだろう。皇帝との間でどういったやり取りがあったか知らないが、口裏合わせの為に最低限の情報くらいは得ている筈だ。
 何故特区に誘われた時に拒んだのか。
 ブリタニアに対する根拠の無い敵意と嫌悪。それを理由に断った。確かそんな流れだった筈だ。
(この場合、俺に打てる手はこれしかない……!)
 残る逃げ道はただ一つ。――ユフィに対する嫉妬だけだ。
 それだって、どのみちスザクとは離別せざるを得ない状況だったと匂わせておいたのに。
 しかし、追い詰めるスザクは一切容赦しなかった。
「あの日の事が君の中でどう捉えられているのか、これで大体解ったよ。でも、僕の中では違うから」
「何が言いたい!」
 お前だって泣いていただろうと叫びたくなるのを、ルルーシュは辛うじて堪えた。
 あの日泣いていたのはルルーシュだけではない。スザクだって泣いていたのだ。
 互いの間に別離の意思が込められていたのは明白だった。……それなのに、スザクは自分が流した涙の理由まで無かった事にするつもりなのだろうか。
「僕は、君を手放すつもりなんかない」
「―――っ!」
 耳元ではっきりと告げられたスザクの台詞に、一瞬頭が真っ白になる。
(正気か、スザク!)
 ユフィの喪が明けてから、まだ一年しか経っていない。
 にも関わらず、スザクは元の関係と全く同じ付き合いを続ける気でいるのだ。
 信じられない男だとルルーシュは思った。あの日の事を持ち出される事はあっても、憎しみも冷めやらぬ内に、またこうして手を出してくるなど誰が想像するものか。
(目測を誤ったのか、俺は!?)
 思えば、最期に会った日もそうだった。
 自分たち兄妹ではなくユーフェミアを選んでおきながら、最期に抱かれたあの日でさえも。
(だがそれは、あくまでも別離の意思があっての事だった筈だ!)
 ユフィの死に立ち会って尚、スザクがルルーシュとの関係を強要する動機などどこにも無い。
 あの日スザクがルルーシュを抱いたのも、それが最期の逢瀬だったから。……そう、解釈していたのに。
「理由は知らないけど、君はブリタニアが嫌いなんだろう? 出来れば軍を抜けて欲しがってたのも知ってるよ。でも、僕は軍属でいる事を選んだ。ユフィの騎士である道を。只の友達以上の関係はもう終わりだと君が思い込んだのは、それが理由かい?……だとしたら、間違ってるよ」
「なっ……」
 淡々と語られたスザクの言い分にルルーシュは絶句した。説得力の欠片も無い。
 ああまで穏やかになった顔を見せ付けておいて、只の皇女と騎士以上の関係ではなかったと言い通すなど、あまりにも無理がありすぎる。
「どこが間違ってるっていうんだ! さっきも言った筈だろ! お前が好きだったのは……本当の意味で心を開いたのは、俺ではなく皇女殿下の方だったんじゃないのか!?」
 心理的な面でスザクに拒絶されていた記憶もそのままだ。
 実際、スザクから直接ユフィとの件に関して聞いた事はない。
 けれど、スザクが本当に心を許していたのはユフィに対してだけだった。それだけは解る。
「誰よりもプライドの高い君だ。こんな事、正直に言ったところで信じる訳ないよね。いいよ。解った。だったら、口で言うより有効な手段を使わせてもらう」
 言うなり乱暴な手つきで制服の前を肌蹴られ、ルルーシュは一気に青ざめた。
「や、やめろ、こんな所で! 誰かに見られたらどうする!」
「言っておくけど、ここには誰も来ないよ。さっき君の弟が探してたみたいだけど、察した会長たちに引き止められていたからね」
「お、まえ……!」
 その台詞は嘘だとすぐに解った。
 おそらく自分からロロを足止めするよう周りに言い含めたのだろう。……何故なら屋上に向かう前、ルルーシュはすぐ戻れるよう、教師に呼び出されているとリヴァルに言っておいたからだ。
(クソッ、何が察しただ! スザクめ、最初からそのつもりだったのか!)
 とんでもない用意周到さだ。一年前と同じ人物とは到底思えない。
「知ってるだろ? 僕がどれほど君に執着しているかって事。只の友達以上の関係を持ちかけてきたのが君じゃなくても、僕はいずれ同じ事を君にしていたかもしれない。それなのに、ユフィとそういう関係だと思われてたなんて凄く心外だよ。……思ったよりずっと馬鹿だったんだな。君は」
 かっとなったルルーシュが即座に言い返す。
「馬鹿なのはお前の方だろ! 何考えてるんだ! 恋人を失って気でも狂ったのか!?」
 しかし、激しく暴れながら罵倒するルルーシュの腕を掴んだスザクは、付き合っていられないとでも言いたげに首を振り、目を閉じたまま軽く鼻で笑い飛ばした。
「何がおかしい! 離せ、この馬鹿がっ!」
 頭がおかしいのもスザクの方だ。憎しみに駆られて殺されるならまだ解るが、こんな形で陵辱されてやるつもりなどルルーシュには全く無かった。
「だから、ユフィとは付き合ってなかったって言ってるだろ?」
「うるさい! 信じられるかそんな事! このっ……離せと言ってるだろ!」
 スザクに体当たりを食らわせたルルーシュは、続けて蹴りを入れようと勢い良く足を振り上げた。
「頑張ってるね。でも、無駄だよ」
 苛立ったように目を眇めたスザクが、蹴り上げたルルーシュの足を肘で払い除ける。同時に、残る片足も同じように足で真横に払われ、バランスを崩したルルーシュの体が大きく傾いた。
「……っ!」
 もつれ合い崩れ落ちたルルーシュの体を仰向けに引き倒したスザクが、呆れたように溜息をつきながら覆いかぶさってくる。
「力で僕に敵うと思ったのかい? だとしたら、君はやっぱり大馬鹿だ」
「黙れよスザク。お前の気持ちはどうなんだ。例えそういう関係じゃなかったとしても、お前は皇女殿下の事が好きだったんだろう?」
 幾ら嫌がらせの為とはいえ、嘘をつくのも大概にしろというのだ。
 ……だが。
「確かに敬愛はしてたよ。でも、それは君が思ってるような感情じゃない。少なくとも、ユフィにこういう事をしたいとは思ったりしなかったしね。君を一年間もほったらかしにしてた事、怒ってたんなら謝るよ。ごめんね? ルルーシュ。……これでいいかな」
 ルルーシュの問いに返されたのは、完全に棒読みの謝罪だった。
 心などまるで篭っていないのを隠そうともしていないスザクの台詞に、ルルーシュは激怒した。
「ふざけるなっ!」
 起き上がって殴りつけようとしたが、逆に振り上げた腕を取られて地面に張り付けられてしまう。
「ふざけてなんかいないよ。だって、それ以外で君が僕に対して怒る事なんか、何も無いだろ?」
「何もって……!」
「無いよな? ルルーシュ……」
「―――っ!」
 息もかかりそうなほど間近で低く凄まれ、ルルーシュはそれきり沈黙した。
 互いの間にこれ以上わだかまりは無い筈だと断言されてしまえば、ルルーシュに返す言葉など、確かにもう有りはしないのだ。
 驚愕に目を見開くルルーシュを見て満足したのか、スザクは膝裏にかけた足で股座を大きく割り開いてくる。
「や、嫌だ……」
 ルルーシュは怯えながら首を振った。
 首筋に吸い付くスザクの唇の感触。早く逃げろと頻りに脳が命令を発している。
 けれど、どう考えた所でスザクを拒む理由など残されていない。竦み切ったルルーシュの体は、最早全く動こうとしなかった。
「どうして? 一年ぶりだから、怖いのかい?」
「ちがっ……!」
 違うと言いかけた台詞を遮ったスザクに「優しくするよ」と続けられ、ルルーシュはぎゅっと目を瞑った。
 一年前、スザクに抱かれた記憶が頭を駆け巡っていく。またあんな風にあられもなく身悶える姿を、今のスザクに見られるなんて死んでも御免だった。
「ルルーシュ」
 首筋を舌で嬲っていたスザクが顔を上げ、改まって名前を呼んでくる。
 ルルーシュが閉じていた目を恐々と開くと、真っ向から見下ろしてくるスザクの深緑が其処にあった。
「いつか君に言おうと思ってて言えなかった事、これから君に教えてあげるよ」
「! 何をだ……」
 訊き返したルルーシュを見て動きを止めたスザクが、昏い目をしながら呟いた。
「……僕が、君に執着しながら拒んでた、本当の理由だよ」

オセロ 第17話(スザルル)

17


 異変はすぐに訪れた。
 ゼロが現れたと知るや否や、エリア11配属となったスザクが学園に編入してきた為だ。
「久しぶりだな、スザク」
「会えて嬉しいよ、ルルーシュ」
 ルルーシュの弾けるような笑みとは対照的に、スザクが浮かべたのはどこか控えめな笑顔だった。
 本当なら今すぐ胸倉でも掴んで問い詰めたい位だろうに、昔に比べて随分と演技が上手くなったものだ。
(授業中にまで真隣で監視とは……。ご大層な事だな)
 ずっと隣が空席だったのはこういう理由だったのかと妙に感心した。
(根回しの良い事だ。これがお前の言っていた『本当の俺』という訳か)
 ブリタニア本国に連行される時に言われた台詞を思い出したルルーシュは、腸の煮えくり返るような思いを抱えたまま隣席のスザクに柔らかな笑みを向けた。――さながら、談笑出来るであろう休み時間が来るのを待ち切れないとでもいうかの様に。
 返されたのは、懐かしさと切なさの入り混じった淡い微笑みだった。スザクは嘗て、ルルーシュが壊した『僕』の仮面を、学園内でもう一度かぶる事にしたらしい。
 元々、童顔で柔和な雰囲気の漂う甘い顔立ちのスザクだ。大体の人間ならその微笑で充分騙せるだろう。
 ……だが。
(まだまだだな)
 目が、笑っていない。
 ルルーシュはテキストを開いて前を見た。
 演技の腕前ならこちらの方が遥かに上だ。なにせ、年季そのものが違っている。
 これで機情のトップはスザクになった。
 ロロは既に掌握済みだが、問題は、もうギアスの効かないヴィレッタをどう扱うかだ。そう考えていた矢先、もっと厄介な相手がやってくるとは。
(……とはいえ、こいつもまた、本性を隠して7年間仮面を被り続けてきた男だ)
 嘘の程度は違えど、偽っていたのはお互い様だろうに、一年前はすっかり騙されていた。
 これからたっぷり本性を拝ませてやるという事なのだろうが、何を仕掛けてくるか全く気が抜けない。
 学園内に仕掛けられたカメラの台数は、部屋にあるものも含めれば軽く百を越えていた。集音・録音マイクの数も半端ではない。
 ギアスの件も含め、ルルーシュの出自を知るスザクは、ある意味皇帝と秘密を共有し、結託している関係だ。恐らくエリア11配属となる前から、ルルーシュの監視報告は受けていたに違いない。
(さあ、楽しいお芝居の時間といこうか。……スザクめ。この俺を出し抜けると思うなよ)
 こうしてがんじがらめにしておく事がお望みだったとは。
 ゼロという人格を抹殺し、只の人形として自分の監視下に置く。ルルーシュが絶対受け入れられないであろう首輪とリードどころか、ご丁寧にも学園という名の巨大な檻まで用意して。
 昼休みになった途端、スザクは一斉に駆けつけてきた生徒達に囲まれていた。
 情報操作の為だろう。入れ替えられた教師や生徒達の中で、丁度一年前スザクが学園にいた事実を知る者は少ない。
 偽の平穏。作り上げられた偽りの世界。……だが、今のルルーシュからすれば、その作り自体かなり杜撰としか言いようがなかった。
 スザクが元生徒会役員だった事を知っているのも、同じ生徒会の面々だけだ。クロヴィス総督殺害の容疑者に挙げられていた事も、嘗てイレブンとして差別され、陰湿ないじめを受けていた事も……。
 中庭に移動して談笑し合っている最中、丁度向かいに座っていたスザクと目が合った。
 僅かに視線を逸らし、さりげない動作に見せかけながら、スザクが制服の襟を引く。
(……!)
 八年前に二人で決めた合図――『屋根裏部屋で話そう』
 皇族だった事に関する記憶は消されていたが、スザクと幼馴染だった部分は何故か消されていなかった。
 だが、いつ、何の為にそんな合図を決めたのかという所だけ綺麗に消されている。――同時に、屋根裏部屋でスザクと話していた内容も。
(早速仕掛けてきたか……。せっかちなこいつらしい選択だな)
 つくづくふざけた捏造もあったものだとルルーシュは思った。
 曖昧な点が多すぎる。
 よくここまで辻褄の合わない記憶のまま、何の疑問も抱かず丸一年間も生活してこられたものだ。
(いっそ交通事故に遭って記憶を失くしたとでも言われた方が、まだ納得出来たかも知れないな)
 記憶が戻る事も織り込み済みだったという事は、恐らく皇帝がかけたギアスの効果は永続的なものではなかったのだろう。
(つまり、自力で解こうと思えば解く方法もあったという事だ。……それなのに、俺は!)
 全てを忘れたまま安穏と過ごしていた日々を思い、ルルーシュは手元の飲み物に刺さっていたストローの先を無意識に噛み潰していた。
 不自然に欠落した記憶を抱えたまま、いつも感じていたやり場の無い焦燥と苛立ち。何故か拭えずにいた皇帝や祖国に対する生理的嫌悪。
 しかし、時々感じる違和感に対するもどかしさはあっても、原因にまで思い至る事だけはどうしても出来なかった。
 皇帝もスザクも許しがたいが、何よりそんな自分自身に一番腹が立つ。
 ベンチから立ち上がったルルーシュはひっそりと自嘲した。
 特に接点も無い中流階級のブリタニア人が、日本首相の息子宅に住むようになる理由など何処にも無いではないか。
 バカンスに来るような土地でもなければ、そんな時世でも無いのにだ。
 記憶が戻った時は、心底馬鹿にしていると思った。
 幾ら当時10歳とはいえ、理由も解らぬまま侵略戦争の渦中にあった土地に追いやられて、その後の親子関係が険悪にならずに済むものか。
 ――勿論、そうならなかったのも、後に反逆の原因となった父や祖国に対する憎しみそのものを忘れられるよう、もっと別の方向から記憶をねじまげられていた所為だ。
 何にせよ、スザクの合図に気付かなかった振りをする訳にもいかない。
 ルルーシュは空になったカップをベンチの近くに置かれていたゴミ箱の中へと苛立ち紛れに放り込み、そのまま輪を離れようと踵を返した。
「あれ? どこ行くんだよルルーシュ」
「ああ、ちょっとな。追試の件で先生から呼び出されてるんだよ。すぐ戻る」
 声をかけてきたリヴァルに適当な返事を返しながら、ルルーシュは先に一人で屋上へと向かった。
(面倒な話になりそうだな)
 すぐ帰ってこられるよう一応牽制をかけておいたが、二人きりで話すような用事となれば想定出来るルートは限られている。
(どうせなら、スザクとの関係ごと記憶を消されていた方が便利だったものを)
 幼少の頃も含めた記憶を敢えて消さなかったのも、出会い方を変える等、あまり入り組んだ設定にしすぎると、後に接触するであろうスザクの記憶との整合性に欠ける恐れが出てくる為だろう。
 そもそも、あの男――皇帝が、ルルーシュの感じるであろう戸惑いにそこまで配慮する筈も無い。
 その証拠に、記憶の抜け方、変え方は驚くほど大雑把だった。
 皇帝のギアスには、頭そのものに暗幕をかけるような効果もあったのだろう。辻褄の合わない箇所に疑問も抱かず過ごせていたのも、恐らくはその所為だ。
(この俺を散々コケにし、かけがえの無い宝まで奪った事を必ず後悔させてやる!)
 階段を一段踏みしめるごとに、どす黒い殺意が湧き上がってくる。
 性懲りも無く、こうして安易に接触を試みてくるスザクにも。
 忌々しい事この上ないが、記憶を失っている間、ルルーシュはほとんどロロと二人きりで暮らしてきたという風に記憶が改竄されていた。
 両親はブリタニアで働く中流階級の人間。エリア11が矯正エリアから途上エリアに昇格したと同時に、母と懇意にしていたアッシュフォード家に預けられ、社会勉強も兼ねてこちらで生活しているという設定だ。
 一年前、スザクが学園にやって来てからの記憶は概ねそのままだったが、あろうことか八年前の開戦時には、ロロ共々一時帰国した事にされている。
(あの男……。絶対に殺してやる)
 現皇帝である実父シャルルの顔と、書き換えられた記憶の中にある父の顔は全くの別人だった。
 当然だ。実父の顔と皇帝の顔が同じである訳が無い。
 二重三重に侮辱された気分だった。……本当に、許しがたいにも程がある。
 どうやってあの中から抜け出したのか、屋上に上がって暫くしてからスザクがやってきた。
 屋上全体を取り囲むフェンスに寄りかかりながら、ルルーシュは開いたドアの向こうから顔を覗かせたスザクへとにこやかに笑いかける。
「よく抜け出してこられたな。大変だっただろ?」
「まあね。予想はしてたよ。学校に来るのも、一年ぶりだったから……」
 歩み寄ってきたスザクが隣に来るのを待ってから、ルルーシュは遠景を見渡すようにフェンスの外側へと目をやった。
「いつかの時と逆だね」
「ん?」
「僕が、初めてこの学園に入学してきた時と」
 視界の端で、スザクがこちらへと顔を向けてくる。ルルーシュも応じて視線を合わせた。
「ああ、俺もそう思ってた」
 小声で「懐かしいね」と呟きながらフェンスの外へと視線を巡らせるスザクに合わせて、ルルーシュも「そうだな」と静かに相槌を打つ。
(何が「懐かしいね」だ)
 よくもまあ、いけしゃあしゃあと言えたものだ。
 学園で無事再会し、近況を語り合ったあの時の記憶とて改変されている。
 ゲットーで助けられた事も、CCと出会ってギアスを授けられた事も全て忘れ、スザクが軍人になっていた事実でさえ、ここで初めて聞かされた事にされていたというのに。
「こうして君と話すのも、去年の誕生日以来かな」
 よりにもよって、いきなり切り出してくるのがその話題とは。
(節操の無い男だ)
 デリカシーに欠けているのは知っていたが、その点に関しては相変わらずという訳か。
 ゼロとしてスザクと対峙した記憶が失われている以上、書き換えられた通りの流れからいけば、最後にスザクと会ったのはルルーシュの誕生日という事になる。
 一番触れられたくない過去が一気に蘇り、ルルーシュは苦々しい気持ちを表に出さぬよう無言で通した。
「ゼロを捕まえた後、すぐラウンズに昇格して、そのまま本国に居る事になっちゃって……。君とは、ちゃんとした挨拶も碌に出来ないまま、別れる形になってしまった。今までずっと連絡出来ないままで……ごめん」
 答えないルルーシュを一瞥したスザクは、逸らした目を伏せたまま話し続けた。
「いいさ。気にするな。忙しかったんだろ?」
 記憶が戻っていなくても、最後に会った日の事を持ち出された時の反応は変わらない。
 そう判じたルルーシュは、気まずい気持ちを押し隠す演技を続けていた。
「うん……。それもあるけど、ずっと本国にいたから、君の携帯番号解らなくて」
 言いながら、スザクがおもむろにポケットから携帯電話を取り出して見せた。
「まだ仕事以外では、一度も使ったこと無いんだ。この携帯」
 軍の人以外誰の番号も入ってないよ、と続けるスザクに、ルルーシュも「そうか」と軽く頷く。
 名誉ブリタニア人は携帯の所持を認められていないが、ラウンズに昇格した事で持てるようになったのだろう。
 ゼロを――ルルーシュを、皇帝に売り渡した褒美として。
「君の番号、聞いてもいいかな」
「え?」
「入れておきたいんだ。出来れば、君のを。学園の中にいる友達の中で……一番最初に」
 向けられたのは一年前とそっくりな、真摯で真っ直ぐな瞳だった。
 こんな目をしたスザクに幾度絆され、篭絡され続けてきたことか。……だが、一連の会話によって大体の意図は読めた。
(最悪の仕掛け方だな。スザク)
 今更そんな台詞を言われた所で、こちらが喜ぶとでも思っているのだろうか。
 すぐには応じない。
 まだあの日の悲しみを引きずっている風に装いながら、ルルーシュは愁いを含んだ瞳でスザクを見返した。
「またすぐに、ブリタニアに帰るのか?」
「任務で暫くはこっちにいるよ。……ゼロが、現れただろ?」
 携帯電話を握り締めたままゼロの名を口にしたスザクの声が、ワントーン低くなる。
 ルルーシュは「そうだよな……」と呟きながら、気遣わしげに眉を寄せてみせた。
 力の篭ったスザクの手元を横目で眺めているだけで、冷ややかな思いが胸に広がっていく。
「じゃあお前も忙しいだろ。良かったじゃないか。また学校に来られるようになって」
 そうだね、と答えるスザクの声が、心なしか硬くなった。
 フェンスに肘を付き、遠くへと目をやりながらルルーシュは続けた。
「でも、ゼロはとっくに処刑されたんだろ? だったらあれは、やっぱり別のゼロなのか? まさか実は生きてた、なんて事は無いに決まってるしな」
 スザクが発する声の硬質な響きに気付かない振りをしながら、ルルーシュは敢えて思慮を巡らせている風を装って訊き返した。
 決して話の流れとして不自然ではないものの、これはルルーシュを疑っているスザクからすれば、グレーゾーンな質問どころかはっきりと地雷だ。
(だが、自分がゼロだと知らない俺ならどうかな? なあ、スザク?)
 ここでゼロの話題を避けるのもはぐらかしたように見えるだろうし、まだ記憶が戻っておらず、ゼロに無関係なルルーシュであれば、当然抱くべき疑問だろう。
「ゼロの処刑は完了してるよ。だからあまり詳しい事は言えないけど、今調べてるんだ。……あの仮面の下にいるゼロが、一体誰なのかって事をね」
 案の定、スザクの声は更に硬く、そして低くなった。
 予想通りの反応に、ルルーシュは内心ほくそ笑む。
「そうか……。まあ、テレビ見た時は驚いたけどな。でも安心したよ。お前がラウンズのままで」
「……それ、どういう意味?」
 切り返すスザクの声が僅かに尖った。
「そりゃそうだろ。せっかく無事処刑も終わったのに、捕まえる度に新しいゼロが出てくるんじゃ、お前の功績にだって傷が付きかねない。ゼロを捕まえたい奴なんて、それこそごまんといるに違いないだろうからな。片っ端からラウンズに昇格なんて事になったら、いずれ自作自演する奴だって出てくるかも知れない」
 皮肉を皮肉と思わせず、あくまでもスザクの身を案じているからこそ思いついた事だと言わんばかりに、ルルーシュは冗談を交えた穏やかな口調で話してやる。
「…………」
 スザクは苛立ったような溜息をついてから沈黙した。
 聞きようによってはシニカルにも感じられる台詞の意図をどう捕らえるべきか、判断に迷っているのだろう。
「黒の騎士団の連中も、確か全員死刑が確定してる筈だよな。そいつらも、ゼロに触発されるような事が無いといいんだが……」
「触発って……。逃がしたりなんかする訳ないだろ。今も監視されてるよ。厳重にね」
「ふうん……監視か。それなら安心だ。こんな言い方はお前に悪いが、一般庶民としては、さっさと安心したいってのが本音だからな。国防の為にも頑張ってくれよ? 昔ながらの友人が皇帝直属の騎士だなんて、俺としても鼻が高いんだからな?」
 本心から誇らしく思っていると見せかける為、嬉しそうに微笑さえ浮かべながら話してやれば、苦笑したスザクも何とか気を取り直そうと強張った顔つきを改めてくる。
「ありがと。君のご期待にも添えるよう、精一杯努力させてもらうよ」
 結局、どうとも判断付かなかったのだろう。
 複雑そうな笑みを浮かべたスザクを見て、ルルーシュは心の中で嘲笑った。
「ルルーシュ」
「うん?」
「もうやめよう? こんな話は。ここは学園であって、軍じゃないんだし……。それに、今の僕はナイトオブセブンじゃなくて、只のスザクだ」
 フェンスに両肘をかけて背中を凭れ掛からせたスザクが、一度天を振り仰ぐように上を見た後、同意を求めるように視線を投げかけてくる。
 一体どの口が言うのかと思いながら、フェンスの外側に向かって肘をついていたルルーシュも柔らかく頷いて見せた。
「ああ。お前の仕事にさし支えると良くない。悪かったな。つい興味本位であれこれと聞いてしまった」
「いいよ、そんな事気にしなくて。……君と僕の仲だろ?」
 スザクの台詞に滲む友好の意思。
 いっそあからさまなほど明け透けな台詞に対しても、今は寒々しいものしか感じない。
 だが、ルルーシュは一見照れ笑いにも見えるような困り顔を浮かべ、どうにか居心地の悪さを紛らわせた。
「全く、お前って奴は……。たった一年で少佐からラウンズにまで大出世したってのに、全然変わらないんだな。こういう場合、普通はもっと鼻にかけたり、偉そうになったりするもんなんじゃないのか?」
 わざと騎士候という呼び方を避けた事に気付いたのだろう。スザクがふと、真顔に戻った。
「ルルーシュ」
「何だ?」
「訊いてもいいかな」
「? 何をだ……」
「うん。一年前のこと。君は、覚えてるかなと思って」
 二人の間に、奇妙な沈黙が下りた。
「……どういう意味だ」
 一度はぐらかした質問を蒸し返すしつこさも、一年前と何も変わってはいない様だ。
 明らかに変化した場の空気は、この話題から逃げた所でどうしようもない事を物語っている。
 解っている筈の事だった。
 去年の誕生日で記憶が途切れているならば、スザクとは、まだきちんと終わっていない事になるのだと。


オセロ 第16話(スザルル)

※DV警報発令中。一部暴力的な描写がありますのでご注意下さい。





16


 目覚めた今がいつなのか解らなくなったのは何度目の事だろう。
 覚醒と同時に、ルルーシュは枕元に置かれた携帯で日時を確認した。早朝かと思ったが、時刻は既に夕刻だった。
(夢、か……)
 頭から水を被ったように、全身がじっとりと汗で濡れていた。
 何もかも、夢から覚めたと思っていた自分が見た夢だったと気付いたのは、おぼろげになっていく夢の欠片を繋ぎ合わせる事にどうにか成功してからだった。
 そう遠くはない過去の反復。
 記憶が混乱し、現実を認識するのに時間がかかる。そう思っている間にも、見た夢の内容は薄れ、今にも消えていこうとしている。
 ルルーシュの部屋には今、何台もの監視カメラが取り付けられていた。
 軍に監視を受ける家畜の生活。だが、肝心の家畜が改竄された記憶を回復させ、王としての力まで取り戻している事など誰も知らない。
 ルルーシュは震える掌を無言で握り締め、荒々しくベッドサイドの壁を殴りつけた。
 照明を落とした部屋の中では、さすがに何をしているのか解るまい。
 盗聴器が仕掛けられているのも知っているが、電話その他の回線にだけだ。起き抜けに沸き立つ怒りのまま壁を叩き続ける音は、さすがに画面からは聞き取れないだろう。
 一年前のルルーシュが実際に見た夢。それが悪夢の始まりだった。
 目覚めたと思ったその後の展開も、全て現実に起こった事だ。スザクとの距離をどうにかして埋めたくて、夢の話を切欠にスザクを追い詰め、一歩も引けぬ本気のゲームを仕掛けた事でさえも。
(まさか、あんなふざけた夢が現実になるとはな)
 今となっては、消したくなるほど屈辱的な記憶の最たるものでしかない。
 ルルーシュ自身、想像さえしていなかった。……よりにもよって、自分から仕掛ける流れになろうとは。
 執着しているのを知りながら、そんな自身の気持ちに気付かぬ振りを続けようとするスザクが許せなかった。わざと拒めない形で『只の友達』以上の関係を強要したのもその所為だ。
 本当は、拒む事だって出来た筈だ。
 例えルルーシュを失う事になっても、内面に踏み込まれる事を本気で恐れていたのなら。
 けれど、スザクはそうしなかった。わざと距離を置こうとしながらも、初回から所有印まで残すほど強い執着を見せたのはスザクの方だ。
 そこまでしておいて、誘ったルルーシュだけに非があるとは到底言えまい。
 体の関係を持つような意味合いの「好き」ではない事くらい知っていた。それでも、一度関係したその時から、二人で転げ落ちるようにして深みへと嵌っていったのだ。
 まさか、二人して倒錯した性の快楽だけに溺れていた訳でもあるまい。どちらか一方だけではなく、互いの間に何らかの想いが無ければ、絶対に続かない関係だったと言える。
(チェスというより、オセロだな)
 まだ布団の中から一歩も動けず、ズキズキと痛む米神を押さえながらルルーシュはひとりごちた。
 仕掛けた時点で、背水の陣。必ず白のナイトを捕ると、チェックをかけるつもりで賽を投げた。
 けれど、嘗て望みのまま白く埋め尽くした筈の盤面は、今はもう黒一色だ。……まるで、がらりと色を変えてしまったスザクの心そのものの様に。
 夢の中のスザクは白かった。そして、あの頃のスザクも、まだ。
 勝負は互角。生まれて初めて、喉から手が出そうなほど、心の底から欲した相手。
 正真正銘、本気だった。
(愚かだな)
 こうして夢の中で過去の所業を反芻する度、未だに上手く息もつけぬほど激しい愛憎に塗れている自分に気付く。捕らわれているなどと思いたくなくても、只の憎悪だと割り切るにはあまりにも複雑すぎる感情だった。
 記憶が戻って以降、睡眠の質はガタ落ちだ。夢見が悪い分、最近は特に安定した睡眠をとるのが難しくなった。
 ゼロだとばれ、皇帝の前へと引きずり出された時以降、スザクとは一度も会っていない。時折テレビで姿を見かける事でさえ苦痛で、記憶が戻ってからというもの、見ない訳にはいかないニュースは全てネットでチェックしている。
 当時のスザクは、言い得ようのない歪んだ執着と愛情、それらと相反する拒絶を心の内側で交錯させながら、激しい葛藤に苦しんでいた。
 それでもそんな自分から目を逸らして欲しくなくて、出来る事なら求めて欲しいと恋焦がれ続けた日々。
 最後まで打ち明けられる事の無かった拒絶の理由も、今のルルーシュは気付いている。再会してから――いや、する前から、何故か過剰に美化され続けていた理由にも。
(スザクは、いつ俺がゼロだと気付いたんだ?)
 今となっては確かめる術も無いが、恐らくユーフェミアを殺すもっと前から疑念は抱かれていたのだろう。
 マオに心を暴かれた時、居合わせたルルーシュ以外知りえない父殺しをゼロに知られていたのだから。
 それ以降も、スザクは幾度かクラブハウスに来ていた。顔を合わせれば優しく笑いかけてくれたし、体を重ねれば互いに激しく求め合いもしたけれど、スザクからの心理的な拒絶がより明確化したのは、今思えばあの頃からだったように思う。
 ――スザクは何故、内面に踏み込まれる事をああまで恐れたのか。
 知られたくなかったらしい父殺しを知られてしまってからでさえ、まだ拒絶が続いていた理由。
 ルルーシュにとって解らない点はそこだけだった。
 戦争を止める為だけに父を殺し、それが結局開戦の引き金になってしまった事を悔いるあまり、軍に属し、戦って死ぬのを受け入れる事で償いに生涯を捧げるつもりでいながら、同時に、死そのものに救いを求めていた事も、あの時点でのルルーシュは既に知ってしまっていたというのに。
『僕と同じになって欲しくない』
 初めて気持ちをぶつけた時、スザクに言われた台詞の意味だけが、当時のルルーシュにはどうしても解らなかった。
 ただ、死に急ぐスザクの生き方を知って冗談ではないと思った。だからこそ、軍を辞めさせようと決意したのだ。ナナリーの騎士に据える事で、いずれスザクにとってもその道が新しく生きる為の意義になればと。
 今になって思う。あの時もまた、重要な運命の分かれ道だったのだ。
 技術部の者がクラブハウスへとスザクを呼びに来た時、去り際のスザクにルルーシュは『話がある』と言った。――『とても、大切な話だ』と。
 返ってきたスザクの返事はこうだった。
『何だい? 怖いな』
 スザクは本能的に警戒したのだろう。
 マオの件に関しては、お互い暗黙の了解的にタブー視している節があった。後々その判断が致命的な仇になるとも知らず、避けて通れない話題と知っていながら敢えてその話題には触れまいと。
 だが、ユフィがスザクを騎士に任じた事によって、状況は一変した。
 スザクが断れる立場に居ないと解っていながら、白兜のデヴァイサーがスザクだと知ったショックも相俟って、ルルーシュは運命の皮肉にただ笑うしかなかった。
 道が本格的に分かたれ始めたと意識したのも、この頃だったように思う。
 絶対にかけないと決めていたギアスも、とうとうかけてしまった。
 ただ、その件に関してだけは後悔していない。スザクを死なせないためにはそうするしかなかった。
 どう考えても、他に選択肢は無かったのだ。
 キュウシュウ戦役で初めてスザクとの共闘を果たした時、自決覚悟だったらしいスザクにユフィが想いの丈を打ち明けていたのも知っている。……何故ならあの時、切れたエナジーフィラーを補充させようと待機していたガウェインの中で、ルルーシュは二人の会話を聞いていたのだから。
 頑なに閉ざされていたスザクの心の扉を開いたのは、ルルーシュではなく、ユフィだった。
 彼女がスザクに言い放った台詞を、今でも覚えている。
『自分を嫌いにならないで』
 ユフィは、スザクにそう言ったのだ。
 あの後もスザクは学園に顔を見せてはいたが、ルルーシュはスザクと鉢合わせないよう徹底的に避けた。
 学園祭中も放送室に篭ったきり一歩も出ず、指示を出す以外極力人と顔を合わせないようにしていたというのに、一体何の因果だろうか、まさか皇女殿下本人が学園に来ているとは露知らず、外へ出た時に会ってしまったのだ。
 スザクと完全に道が分かたれたと悟ったのは、特区日本設立宣言を聞いたあの時だ。
『スザクと上手くいった』
 テントの中でナナリーからユフィと話した事を聞いた瞬間、目の前が真っ赤に染まった。
 全てを奪われた。そう思った。
 その瞬間をもって、ユフィはルルーシュにとって最悪の敵となった。最早その存在自体が罪としか思えない。
 善意から生まれる、悪意そのもの。
 それでも、一番腹が立つのはユフィに対してではなく、無論、スザクに対してでもなく。
 ギアスを得て尚、無力で無価値な己自身に腹を立てている。……そう、思いたかった。
 神根島でゼロだとばれる前、最後にスザクと会ったのは12月5日。ルルーシュの誕生日だ。
 祝いにやってきたスザクと、その日だけはわだかまり無く過ごすつもりだった。
 久しぶりに顔を合わせたスザクは、この上なく穏やかで満たされた、まるで精神そのものが安定したような顔をしていた。
 そんな顔が出来るようになったのか。
 自分ではなく、ユフィの傍だからこそ、スザクは……。
 その時感じた想いを、一体どう表現すればいいのだろう。――諦観、とでも呼べば良かっただろうか。
 切なさや痛みとも違う、静かな諦めと落胆。
 あれは嵐の前の静けさだったのか。そうでなければ、もしくは凪か。モノクロームの世界の中、たった一人きりで立ち尽くしているような壮絶な孤独。
 ただ、静かにたゆたう川の流れの底に、ヘドロにも似た大量の澱が沈んでいる事にだけは気付いていた。
 食事も済み、穏やかな歓談が続く最中、スザクは僅かな緊張を浮かべた顔で切り出した。
『君も、特区日本に参加しないか』と。
 不安を感じているというより、その時のスザクは、既にある種の覚悟を決めてから駄目もとで切り出しているように見えた。
 出来れば聞き入れて欲しいけれど、これが聞き入れられないならば別離も辞さない。そんな顔だったように思う。
 その時のスザクはもう、ルルーシュがゼロなのではないかという疑念を確立させていたのではないだろうか。
 ルルーシュがブリタニアという国に根深い反感と恨みを抱いているのを知っているからというより、もしルルーシュがゼロであるならば、この手以外に歩み寄る術など無いと思い詰めていた可能性はかなり高い。
 実際、その場にもそういった空気が流れていた。
 まだ信じていたいと思っていたのかも知れないが、恐らく決定打に欠けていたから詰め寄らなかっただけの話だ。
 だからきっと、あの申し出は、スザクなりの最後通牒だったのだろう。
 来るだろうなと予想はしていた。スザクと同じ学園に通っていると知られてしまった以上、ゼロがルルーシュだと知っているユーフェミアなら、恐らく誘う事を思い付くだろうと。
 勿論、ユーフェミアがスザクにゼロの正体など明かす筈は無い。だから、スザクの申し出に裏が無く、まだ完全に正体を知られた訳でない事だけは確かだと思った。
 ユフィに頼まれたというより、スザク個人の思い付きだったのだろう。
 ……それでも、スザクは知らない。悪意の欠片も無く、ただ高みから差し伸べられる裏の無い善意に、反吐が出そうになっていたルルーシュの思いを。
 申し出を断った事で、スザクはてっきりそのまま帰るだろうと思っていた。
 理想を共に出来ない以上、同士ではないと判断されても不思議では無い。ユフィと上手くいったというのも本当なのだろう。スザクの表情がそれを物語っている以上、疑う余地も無い。
 互いの間に、もうこれ以上話す事など何も無い筈だった。それなのに、スザクはまだナナリーも居るリビングでいきなりルルーシュの腕を捕り、強く抱きしめてきたのだ。
 息も止まりそうなほど激しい抱擁。離れようともがく体は背に回された腕できつくかき抱かれ、叫びたくても声にならなかった。
 既にユフィがいるというのに、一体どういうつもりなのか。問う唇は言葉そのものを阻むように塞がれ、抗う間も無く部屋の中へと連れ込まれた。
 決別の意思が込められていたのか、名残を惜しまれていたのか、もしくはその両方か。
 自室のドアが閉まった直後、降らされた嵐のような口付け。溢れた涙はいつしか互いの間で混じり合い、どちらのものなのかさえ解らなくなり……その後はもう、お互いただ無言で貪り合うだけだった。
 狂ったように突き上げられ、声にならない嗚咽を漏らしながら、最後に途切れる意識の狭間で幾度も思っていた事。
(あんなゲームなど、仕掛けなければ良かった)
 過去を悔いる事に意味など無いと解っていても、今でも夢に見てしまう。――例えば今日のように。
 あの日から繰り返し、繰り返し、ルルーシュは永遠に覚めない悪夢の中に居続けていた。
(スザクにとっての神を殺した俺を、あいつは決して許さないだろう)
 取り返しのつかない悲劇が起こったのは、その五日後。
 暴走したギアスの力に翻弄され、完膚なきまでに破壊し尽されたルルーシュの義妹は、尊いその命を儚く散らした。
 スザクを切り捨てる。そう決めた後でさえ、まだ心のどこかで信じていた。
 信頼とは、信じて頼るという意味だ。たった一人、自分の背中を預けられる存在として認める。そういう事だと思っていた。
 ……けれど。
 ルルーシュが唯一誰よりも信じていたスザクは、追い詰めたその先で、躊躇う事無く銃の引き金を引いたのだった。

『ずっと、酷いって思っていたよ。君の事。
 見たくもない俺の姿ばかり見せ付けて、君は本当に残酷だって。

 僕はね、ルルーシュ。
 もっと綺麗で、もっと正しい形で、君を愛していたかった。
 だって、誰も望んでなんかいなかったんだ。君が、盤上に上がってくる事なんて。
 世界も、ナナリーも……そして、誰よりも僕自身が……そして俺が、こうなってしまう事を一番恐れていた。
 でも、もう決まっていた事だったんだな。もう、とっくに。
 再会する前、いや、本当は七年前に、君と別れたあの日から。

 見たかったんだろ?
 これから見せてあげるよ。
 君がずっと見たがっていた本当の俺を。

 ――嫌だったのに。怖かったのに。
 それなのに、君はとうとう僕を壊してしまった。
 だから今、とても君の事が憎いよ。……満足かい?』

 操縦桿を握り締めながら淡々と語るスザクの口調は、今にも底冷えしそうな響きだった。
 聞いた事も無い程どす黒い憎しみと、降りしきる雪のような寂しさを孕ませて。 
 意識的か、それとも無意識か、話すスザクの一人称がころころ変わる。……僕と俺、どちらの呟きなのか解らない。
『……満足か、だと? 今そんな話を蒸し返す事に、一体何の意味がある!』
 吐き捨てたルルーシュを一瞥したスザクは、殺せと続けたルルーシュの髪を掴んでゆっくりと引き上げた。吐息がかかりそうな程近くに顔を寄せられ、一言一言区切るようにして語られた言葉。
 明らかな狂気を声に滲ませながら、スザクは言った。
『殺してなんかやるもんか。……だって、友達だろう? 俺たちは』
 掴んだ髪を離されるなり、烈火の如く燃え上がる怒りのままルルーシュは怒鳴った。
『何を今更勝手な事を……! もう終わったんだよ、お前とは! 先に俺を否定したのはお前だろう!! それで何が友達だ。ふざけるなっ!! お前はもう、俺にとっては只の敵でしかないんだよ!』
 火を吹くような一喝。
 しかし、あらん限りの憎悪を込めて睨み付けたルルーシュの頬を、スザクは握り締めた拳で躊躇い無く打った。
『言っただろ。本当の俺を教えると。知りたがったのはお前だ。たった今言ったばかりなのに、もう忘れてしまったのか?』
 操縦席で無様に転がったルルーシュを見下ろす、スザクの無機質な眼差し。再会して以来、こんなスザクの姿を見るのは初めてだった。
 それでも、心のどこかで知っていた。気付いていたのだ。暴力的で獰猛なスザクの本質。その片鱗に。
『ふん、成程な。お前が俺に見せたがらなかったのは、こういう姿だったという訳だ』
 切れた唇の端を庇う事なく、ルルーシュはスザクの足元に蹲りながら嘲笑混じりに吐き捨てた。
 ――これにてようやく解禁か。そう思った。
 スザクが使う『俺』という呼称は、七年前に封印された筈の一人称だ。あの雨の日以来、何故かスザクは自分の事を俺とは一切呼ばなくなっていた。
 それからずっと被り続けていた『僕』という仮面を、ルルーシュがとうとう剥ぎ取ったのだ。
 いっそ愉快でたまらなかった。全く、とんだ臆病者もいたものだ。
 最早只の欺瞞としか思えなかった。何故そこまでして、本来の自分から目を逸らそうとし続けていたのか本気で理解出来ない。
『解せないとはこの事だな。お前にとって、自分の本質を偽り続ける事に、一体どれほどの意味があったんだ? 今までお前が何を恐れて隠してきたのか知らないが、こんな姿を見せ付けられたくらいで怯む俺だとでも思っていたのか。……だとしたら、俺も随分なめられたものだな』
『…………』
『答えろよスザク。お前は俺に、ただ守られるだけの存在でいれば良かったとでも言うつもりだったのか? 反逆など起こさず、鳥かごのような偽りの平穏の中で暗殺に怯えながら、ただ死んだように生きていろと? お前は一体、どれだけ俺を見下し、貶めれば気が済むんだ?』
 スザクは無言だった。
 話す価値も無いと思っているのか、操縦桿を握り締め、前を向いたまま微動だにしない。
 ルルーシュはそんなスザクに構わず話し続けた。
『それでは意思の無い只の人形と何も変わらないだろう。お前と同じように、過酷で残酷な現実から目を背け、お優しい嘘で塗り固められただけの理想の世界を求めろとでも? ……違う。間違っているぞ、スザク。それもまた支配に過ぎないと認め、抗う事こそ必要だ!』
『黙れ』
 低く呟いたスザクが、足元に這い蹲るルルーシュを見た。
 向けられたのは、ぽっかりと口を開いた黒い穴のような、がらんどうの瞳。
 いつか見たその瞳の奥に見えるものは、底無しの悲哀と失意、絶望――そして、憎悪だった。
『ずっと嘘を吐いていたくせに……本当に懺悔する事の意味すら知らないくせに……知ろうともしていないくせに!! そんなお前に、他人の嘘を責める資格があるのか? 只の偽善だ、理想だと、笑いたければ笑えばいい。でも、お前に言える事なんか何も無い筈だ。……何が意思の無い只の人形だ。英雄を装って悲劇を撒き散らす人殺しになるよりずっとマシだろ!』
『はっ……! 人殺しなのはお前だって同じだろ。軍に居て、今までずっと人を殺さずにきましたとでも言うつもりか? 随分とお綺麗な事だな』
『……それでも俺は、お前の言い分など認めない』
『では、お前はブリタニアの支配を受け入れ、夢物語のような理想と一緒に心中でもしてやるつもりだったのか、この馬鹿が!』
『黙れ……! 和解の道なら他にもあった筈だ。戦わず、殺さずに済んだ筈の道が! 今更方法論について語る権利がお前にあるとでも思っているのか! ユフィを殺したお前に!』
『……っ!』
 ルルーシュを撃って『許しは請わない』と言っておきながら、スザクはルルーシュを激しく詰った。
 激昂するスザクの剣幕に怯んだのではない。理想主義者のスザクに、これ以上何を言った所で無駄だと悟ったのだ。
 嫌悪に顔を歪めたルルーシュが黙り込む姿を冷ややかに見つめながら、スザクは続けた。
『こうなってしまった以上、責任はとってもらうよ。こんな最悪の結末を引き起こした、全ての責任を。お前が拒もうが関係ない。……償ってもらう。絶対に』
 どこかが壊れた風情だ。心の中の、とても大切などこかが。
『……ルルーシュ』
 暫しの沈黙の後、欠け落ちた硝子が立てる音のように、感情の抜けた声でスザクが名前を呼んできた。

『本当に、もっと早く、君を縛り付けておけば良かったよ……!』

 力任せにルルーシュを殴りつけておきながら、搾り出した語尾に嗚咽が混じる。
 肩を震わせながら滝のように滂沱するその姿こそが、ルルーシュが『僕』としてのスザクを見た最後になった。


オセロ 第15話(スザルル)

15


 バスルームから戻り、すぐにシーツを取り替えたルルーシュは、朝食も摂らぬままベッドの上へぐったりと横たわった。
「体力無いなぁ……」
 呆れたように呟くスザクを無視していると、部屋で摂った朝食のトレイを小脇に抱えたまま、制服に着替えたスザクが振り返ってくる。
 今すぐ出られそうな格好だが、一方ルルーシュに起き上がる気配は無い。
「誰の所為だと思ってるんだ」
 バスルームで湯あたりでも起こしたのか、余計疲れが増した気がする。
 変な事はするなと警告したのに、大声でも出してみる? とからかわれ、困るのは僕じゃないと答えてきたスザクに案の定散々弄られた。
(さっさと学校に行け!)
 遠慮はしないと予め言われていたものの、それが翌朝にまで及ぶとなると文句の一つも言いたくなる。
 嫌な予感が的中した事に腹を立てながら、ルルーシュは怒気も露にむっつりと黙り込んだ。
「そういえば、今夜は居るの?」
 遅刻だと知りながらも律儀に登校しようとしているスザクは、トレイと鞄を手にしたまま悪びれもせず尋ねてくる。
「ああ、居る。出掛ける用事も特に無いしな。夜にまた来るなら夕食を用意しておくが、お前は今日どうするんだ?」
「…………」
 軍務があるのかどうか確認しただけのつもりだったが、スザクは何故か無言だった。
 トレイと鞄を机に置いた後、踵を返して歩み寄ってくる。
「それ、本当?」
 ベッドサイドに立って見下ろしてくる視線は、心持ち険しいものだった。
(成程な……)
 質問の意図に気付いたルルーシュはそれを真っ向から受け止め、首を傾げながらスザクを見上げた。
「本当だ。賭け事の予定がオフなんでな」
「いつも出掛けてる用事って、それなんだ?」
 詰問してくるスザクの抜け目無さが少々意外に思える。
(案外油断ならないな)
 気まずくなるのを恐れていただけで、どうやら訊き忘れていた訳ではないらしい。
(全く、こいつは……。正直で素直な所が取り得だとばかり思っていたのに)
 もしかすると侮り過ぎていたのだろうか。スザク相手にこんな腹芸を楽しむつもりなど毛頭無いが、この分だと認識を改めた方が良さそうだ。
 ようやく観念した風に見せかけながら、ルルーシュは困り顔で笑って見せた。
「しょうがない奴だな。まだそんな事気にしてたのか? お前もリヴァルから聞いてるだろ」
「聞いてるよ。陰で悪い事ばかりしてるって」
 しょうがないのは君の方だと言わんばかりに、むっとしたスザクが嫌味を織り交ぜてくる。
(迷彩ってのは、こうして普段から掛けておくものなんだよ、スザク)
 ルルーシュは表情も視線も変えぬまま言葉を続けていた。この迷彩がどこまで通用するかは解らないが、そう易々とボロを出してやるつもりはない。
 とはいえ、勘のいいスザクの事だ。この程度の嘘で全ての疑惑を払拭するのは無理があるだろう。
(新しいシナリオを用意しなくてはならないな)
 冷酷なもう一人の自分が呟いた。
 行き過ぎた理性に、つくづく嫌気が差す。
「最近は特に、一世一代の大勝負ばかりでな。お陰で、毎日生きてるって感じがするよ」
「貴族相手に?」
 平たい目つきで尋ねてくるスザクは、まるで犯人に自白を迫る刑事の様だ。
「……貴族相手じゃない事もある」
 目を伏せて話す様子は、いかにも言い辛い事を白状し、渋々重い口を割った風に見えている事だろう。
 その証拠に、答えた瞬間ぴりっと空気が尖ったような気がした。……だが。
(それは、本当だ)
 ルルーシュはつらつらと嘯きながら、最後の一言だけ心の中で呟いた。
「大方、お前はそれを心配していたんだろ? 場所が何処なのかも聞きたいか?」
 ゲットーに行く事もあると暗に匂わせつつ、非難されるのも承知の上で柔らかく微笑んでやれば、きつく眉を寄せたスザクがベッドに手をついて乗り上げてくる。
「やっぱり行ってるんだな、ゲットーに。……あんなに注意したのに、どうして昨日の内に言わなかったんだい?」
「言えば止めるだろ、お前は」
「当たり前だよ」
 鬼の首を取ったようなスザクの答えに、追求を回避出来たのだと確信する。
 だが、今回ばかりは、ほくそ笑む気にならない。
(嘘を重ねれば重ねる程、お前との距離は遠ざかるばかりなのにな)
 ――いつか、本当の事を言える日は来るのだろうか。
 その時の、スザクの反応は?
(俺に嘘を吐かれていたと知ったお前は、一体どんな顔をするんだろうな)
 派手に詰られるだけならいい。
 だが、それでも軽蔑されたくないと思うのは、やはり勝手な言い分なのだろうか。
「君は退屈なのか? そうやって、いつも危ない事ばかりして」
 スザクは顔つきだけでなく、口調まで剣呑なものに変えてしつこく訊いてくる。
 嘗て退屈だった事を否定するつもりは無いが、それが反逆を始めた理由かというとそうではない。
「何なら、お前も今度一緒に来るか? 結構愉しいぞ?」
「行かないよ。賭け事なんかに興味は無いもの。……君も、もう二度と行っちゃ駄目だ」
「さあ。毎回俺が場所を指定出来る訳ではないからな。……それに」
「それに、何?」
 言いながら詰められた距離には、明らかに何らかの意図が垣間見える。
 既に解り切ったその意図を敢えてかわすように、ルルーシュはすい、と顔を背けて横目でスザクを見た。
「軍人が傍に居れば、俺が危ない真似など出来なくなるとは思わないのか?」
 スザクの体重に沈むベッドが、ギシリと軋みを立てる。膝を曲げたまま挑発的な視線を逸らさずにいると、目の前で屈んだスザクが顎の先に指を這わせてきた。
「君が大人しく家に居れば済む事だよ」
「嫌だ、と言ったら?」
 間近からかかる吐息がくすぐったい。
 肩を竦めながら妖艶に笑むルルーシュを見て、スザクが僅かに息を飲む。
「人の気も知らないで」
「どんな気だ? 言えばいいだろう」
 出来れば詳しく、と促してみた所で、スザクが口を割る訳も無い。一番訊きたい所でいつも黙り込むスザクを、本当にずるいとルルーシュは思った。
(言えないくせに)
 肝心なその部分だけ、まだ隠しているくせに。
 踏み込んできて欲しいのか、欲しくないのか。恐らく両方なのだろう。
「君は本当に、僕を困らせるのが上手いよね。だから、縛っておきたくなるのかな」
「俺に訊くなよ」
「退屈なら素直に遊んでって言えばいいのに。ホント、そういう所、猫みたいだな」
 繰り返されたその比喩は、確か行為に踏み切る前にも聞いた覚えがある。
 スザクは本当に、猫が好きだ。
「そうか。では、言ったら構ってくれるのか?」
 出来ないだろう? と言わんばかりの台詞に、スザクが大きな溜息を吐く。
 逸らした顔を引き寄せるように、顎へと添えられた指先に力が込められた。
「こっち向きなよ」
 ルルーシュは抵抗しなかった。
 向き直った正面にある一対の翠玉。今朝方まで欲を滲ませていたその翡翠に真っ向から貫かれても、ルルーシュは動じたりしない。例え幾ら咎められたとしても、既に踏み出した道を引き返すつもりなど無いのだから。
「お前は猫が好きなんだろ?」
「うん。好きだよ?」
「だったら解るだろ。猫は、リードも首輪も嫌うものなんだよ」
 つんとした顔で告げてやれば、スザクは呆れたように笑いを漏らした。
「知ってるよ」
 猫に似ていると言われて良かったと思ったのも、これが初めてだ。
(スザクと一緒に居ると、初めての事だらけだな)
 経験の無い事にばかり遭遇させられる。初めて出会った七年前からずっと。
 知らなかった事ばかり知ってしまった。友情も、会えない間に募らせた思慕も、そして、今感じているこの切なさも。
 心ならとっくに縛られ、捕らわれているというのに、スザクはなんて鈍感な男なのだろう。
(知っててやってるとしたら、大したタマだな)
 そう思う自身とて、無論人の事など言えないが。
「スザク」
「何?」
「俺の手なら、もう打ったぞ」
「……だから?」
「次はお前の手だろう、と言っている。……意味、解るよな?」
 顎にかけたまま伸ばされたスザクの親指が、薄く開かれた唇の上を掠めていく。
 スザクのしたいようにさせておきながら、ルルーシュはどこか昏い光を宿らせたスザクの瞳を平然と見返した。
「ルルーシュ、それ以上僕を煽ると、後悔するよ?」
「しないと言っただろう」
「いいや、するよ。いつか必ず」
「何故だ?」
「そのうち解るよ。だって君は、まだ本当の僕を知らないから」
 シーツの上で握り締めていた拳に力が篭った。静かな声で知らないと告げられ、ツキリと痛んだ胸を押さえたくなる。
(知らないんじゃないだろ)
 こちらが知りたいと望んでも、スザク本人が決して応じようとしていないだけだ。
 治り切らぬままじくじくと膿み始めた傷口が、またしても開いてしまったような気がした。
「言えよ、スザク」
「……言わないよ」
(ほら、こんな風に)
 不毛なやり取りに思えて、ルルーシュはそれきり無言で目を閉じた。
 胸が酷く痛む。感じたことの無いこの痛みだけで、今すぐ窒息出来そうだ。
(お前はいつも、そればかりだな)
 人には自白を強要するくせに、おいでと手招いておきながら、近付こうとする度にいつも目の前でここまでと線を引かれてしまう。
 例え最も選びたくない選択肢であっても、手に入らないと解れば潔く切り捨ててしまえるのに。
 でも、スザクはそんな道を選ぶ事すら許してくれない。
 望みがあると思える限り、いつまでも縋り続けてしまう。こんな風に翻弄され、振り回されるのは嫌なのに。
 いっそ詰ってしまいたい。そう思って開きかけた唇も、近付いてきた柔らかな感触であっさりと封じられてしまう。
「ん……」
 息が詰まり、鼻にかかったような声が漏れた。
 求められていると錯覚させるような、このキスがいけない。身を捩り、首を振って逃れようとする度に、重ねる角度も深さも変えられていく。
 蕩ける程甘いこの口付けに、これから幾度絆される事になるのだろう。
(長考タイプと打つのは、本当に面倒だ)
 こんな難しいゲームなどした事も無い。ただ近付こうとしているだけなのに、どうしてこんなにも遠ざかってしまうのか。
 嘘の汚さなどとっくに知っているつもりだったのに、嘘の悲しさまで知ってしまって、本当にどうしたらいいのか解らない。
 こんな日々は、決して長くは続かない。スザクはいつか遠い所へ行ってしまう。ルルーシュの手など届かない、どこかとても遠い所へ。
 安っぽいペシミズムなんかとは無縁の筈なのに、どうしてそんな悪い予感から逃れられずにいるのだろう。
「ルルーシュ」
「……ん? ……っ」
 キスの合間を縫うように名を呼ばれ、また深く口付けられては返事が途切れる。
「学校終わったら、また来るから」
「んん……っ」
 軍の仕事は? と尋ねかけたが、呼吸ごと飲み込まれて声にならない。
「帰ってきたら、もう一回君を抱くよ。……いいね?」
 尋ねておきながら、返事をさせるつもりなど更々無さそうだ。
 断る訳も、理由すらも無い。拒まず受け入れてくれるのが、今はもう、この唇だけだというのなら。
「な、んで……」
「遊んでほしいんだろ? だったら僕が、退屈なんか感じないようにさせてあげるよ」
 最後に深く重ね合わせた唇が唐突に離され、名残惜しさに喉が鳴る。答える代わりに、ルルーシュも再度自分からスザクへと口付けた。
(俺も登校してしまおうか)
 不埒な思考に呆れてしまう。一分一秒でさえ、スザクと離れていたくない。
「だからそれまで、ゆっくり眠ってて……?」
 ベッドの上へと仰向けに引き倒され、甘い囁きを耳元に落とされた途端、それまで痛んでいた筈の腰がずくりと疼いた。
 どんどん節操を無くしていく自分の体が恐ろしい。
 狂わされていくと解っていても、構いはしない。こうして触れ合っていられるのなら、そんな些細な事などもうどうでも良かった。
「それじゃ、僕はもう行くよ。おやすみ、ルルーシュ」
 ふわりと笑んだスザクの顔が、目元まで引き上げられた上掛けに隠されて見えなくなる。部屋から出て行くスザクの姿を見ていたくなくて、ルルーシュはそのまま目を閉じた。
 ぱたりと閉まったドアの音が聞こえた瞬間、何故か閉じた瞼の裏が熱くなった。
(お前の笑顔なんか、見たくもない)
 触れ合う肌のぬくもりや、その感触しか本物だと感じられない。こうして離れてしまった途端、スザクを遠く感じてしまうのだってその所為だ。
 スザクの笑顔が壁であるのと同様、こちらの笑顔もまた偽物だと知っていても、卑怯な程欲する気持ちをどうしても止められない。
 自分の背中を預けられる相手はスザクだけ。
 幼い頃より、もしかすると今の方が、ずっとその想いが強まっているような気がする。
 もし、スザクも同じように思ってくれているのなら、今すぐにでも傍に来て欲しい。
(こんな自分は嫌だ)
 みっともない執着だと解っていても、どうにもならなかった。情けない事この上ない。
 どうしてこんな風になってしまったのだろう。何にも縋らず、一人きりで立つと決めていた筈なのに。
 けれど、いつだって、二人一緒にいて出来なかった事など何も無かった。……だからこそ、常に寄り添うように自分の隣に。
(俺の傍には、いつもお前に居て欲しい)
 そう、言えたなら。
 もしも願いが叶うなら、真っ先にスザクが欲しいと望むだろう。
(皮肉なものだ。命令すれば手に入らないものなど、叶わない望みなど、何も無いこの俺が)
 スザクにギアスは使えない。目の見えないナナリーを除く他の誰に命令出来たとしても、唯一、スザクにだけは。
 ギアスとて制約はある。いくら強い力であろうと、決して万能ではないと知っている。
 けれど、何より一番欲するものが、命令する事では決して手に入れられないものだったなんて。
 スザクの心の扉は固い。とても固くて開けられないのに、隙間から垣間見えるものだけがこんなにもルルーシュの心を惹き付け、捕らえ、離さない。
 しかも、嘘を重ねる度に、その扉までもが目の前からどんどん遠ざかっていく。
(せめて鍵を探すけれど、それすら見付からないんだよ。どうすればいい?)
 空白の七年間の中で、どこかに落としてきてしまったのか、無くしてしまったのか。それとも、スザク自身がどこかに捨ててしまったのだろうか。……これはもう、要らない物だと。
(なあ、スザク。俺は、お前の心が欲しい)
 まだ持っているというのなら、今すぐそれを俺にくれないか?
 そう言い出してしまいそうな程には。
(人生とは、どこでどう転ぶか解らないものだな)
 そう思うルルーシュの頬へと、無意識のうちに涙が伝っていった。
 この涙の意味が解らない。そう言えたらどんなに良かったか。
 意味が解らない。疾うに狂わされていたという訳か。そんな風に、誤魔化してしまえたら。
(まさか、同性相手に本気で愛を乞う日が来ようとは)
 霞んでいく意識の中で自嘲しながら、ルルーシュは唐突に理解した。
 本当の意味でスザクに恋をしていると気付いたのは、多分、今、この瞬間だったのだと。


オセロ 第14話(スザルル)

14


 衣擦れの音と共にベッドの軋む音がして、ルルーシュはゆるりと瞼を開いた。
 いつの間に眠ってしまったのだろう。閉まったままのカーテン越しに差し込む陽の光と、窓の外から聞こえてくる鳥の囀りが朝の訪れを告げている。
「あ、起きた?」
 隣からかけられた声に顔を向けてみれば、起き上がったスザクがこちらを見下ろしながら緩く笑みを浮かべていた。
「おはよう」
「…………」
 今何時なのだろう。
 ぼんやりと霞む視界の中で、ルルーシュは無意識に時計を探して視線を彷徨わせた。
 起き抜けで全く思考が定まらない。異常な程疲労した全身が、鉛の様な重みと共に各間接の軋みを訴えてくる。
「まだ眠い?」
 柔らかい声で問いかけられて、ようやくこくんと頷いた。
 少しでも気を抜こうものなら、すぐにでもとろとろと眠りの中へ落ちて行きそうだ。今こうして瞼を開けているのでさえ、正直やっとの状態だった。
(何故、こいつは裸なんだ……?)
 上半身裸のスザクを不思議に思いながら、寝落ちるまでの出来事を反芻する。
 夜中の嬌態にまで記憶が及んだ所で、見事に脳がフリーズした。
「……あ、」
 下肢の奥に残る違和感。その原因に思い至り、ようやくこれが夢では無いのだと正しく認識する。
 さして時間も経っていないのに、かなり間の抜けた事を考えていたらしい。昨日見た夢も相俟って、記憶そのものがごちゃ混ぜになってしまったかの様だ。
 大きく見開いた瞳を揺らしたまま顔面を紅潮させていくルルーシュを見て、スザクも「あ」と呟いた。 
「あの……。そういう反応される方が、逆に照れるんだけど」
「う、るさい……。言うな……」
 弱々しく呟いたルルーシュは、気まずげに視線を逸らしてから瞼を伏せた。
(本末転倒とはこの事だな)
 シーツで顔を覆ってしまいたくても、指先一本動かすのも億劫だ。
 朝起きた時に顔を合わせ辛くなるのは嫌だと思って行為に踏み切ったのに、結局どんな顔をすればいいのか解らない。
 耳まで赤く染めたルルーシュの様子に苦笑していたスザクが、困ったように目を泳がせてからチラリとこちらを見た。
「しちゃったね」
 ぽそりと呟かれて、思わず沈黙する。
「後悔してない?」
「……していない。一体何度同じ事を言わせれば気が済むんだ、お前は」
「そうだったね」
 まだ体の奥に残る異物感に眉を顰めたまま、それでも『只の友達』では無くなった事に悔いは無いと本音を漏らせば、くすりと笑ったスザクは何か考え込むように俯いていた。
「君は……男らしいんだかそうじゃないんだか、よくわかんない奴だな。時々すごく驚かされるよ。……でも、これで僕達、普通の友達……では、なくなっちゃったんだよね」
 なんだその口ぶりは、と思ったが、ルルーシュは敢えて口を噤んだ。
「後悔してるのか?」
 話しているうちに、段々思考がクリアになっていく。まごついた口調を揶揄するようにわざと意地悪く尋ねてやれば、スザクは緩く首を振った。
「いや、そうじゃないよ」
「そうか」
 そいつは良かった、と言いかけてやめておく。ここで否定されなければ恐らく殴っていただろう。 
「それより、どうしてこんなに違和感が無いのかなって、思って……。そっちの方に、驚いてるんだけど」
 途切れ途切れに、かつ慎重に言葉を選びながら話すスザクが、「考えてもしょうがない事なんだけどね」と続けてくる。
「初めてでも無いくせに、そんな事を俺に訊くのか?」
 寝転がったまま、ルルーシュは呆れも隠さず呟いた。
 この行為に違和感が無かったというのなら、今までしてきた相手とはどうだったというのか。
 今までどんな相手と、どの程度行為を重ねてきたのか知らないが、さすがに一度や二度の経験で済まない事くらいは察している。
「違和感が無いのは俺も同じだが、この行為に違和感しか感じないのだとしたら、する意味も必要も、最初から無いに等しいだろうな」
 巧妙に核心を避けた答えを返すルルーシュは、向けられたスザクの表情を見て口を閉ざした。
 真摯な反面、惑う心を隠し切れていない、どこか思い詰めたような顔。
「どうしてなのか、訊いていい?」
「……は?」
「だから、随分と思い切った事したよね。……どうして、僕に抱かれようって、思ったの?」
 尋ねたくなるのは尤もだが、それはあまりに無粋な質問だ。
 意図を図りかねたように、ルルーシュも問い返した。
「どうして、とは?」
 この段になって何故かなど、潔くない事を訊く。
「言っただろ。お前になら任せても後悔しないと」
「そういう意味じゃなくて」
 懲りずに尋ねてくるスザクに溜息が出そうになった。
(答えられて困る事になるのはお前だろ)
 墓穴を掘るのが趣味なのか。こんな尋ね方をするなんて、らしくもない。
 思い切って仕掛けた行為に同調した上、既に行き着く所まで行き着いておきながら、事に及んだ理由にだけ都合良く知らん振りを決め込むつもりなのだとしたら、随分ムシのいい話もあったものだ。
(解っていて受け入れたくせに、よく言う)
『只の友達では無くなる』と、最初に言っていたのはスザクの方だ。
 真に迫った回答がお望みならくれてやってもいいが、物事の決定において必要不可欠な好機などとっくに逸している。
「何だよ。もしかしてお前、俺に抱かれたかったのか?」
「だから、そうじゃないって」
 焦れたスザクが睨んでくるのを平然と見返しながら、ルルーシュは毒食わば皿までだと、温く思った。
(お前を失くさなくて済んだ事には心から感謝しているが……もう遅いんだよ、スザク)
 拒否出来ないよう仕向けた自覚は充分ある。――断るならば、その先は無い、と。
(だが、気付いた上で一線越えてきたのなら、お前も「受け入れるしか無い」と腹を括るべきだろう?)
 勝手な事だと解っていても、謝るつもりなど微塵も無い。
 Alea jacta est.――賽は投げられた。
 投げたのはルルーシュだ。それに気付くも、気付かないも、スザク次第。
「一番違和感の無い方法を選んだだけだ。お前に怪我させるのは拙いと思ったからな。だったら、俺が抱かれる側に回った方が合理的だろ?」
 冗談めかしてピントのずれた答えを返し続けていると、表情を消したスザクが無言で視線を向けてくる。
 ようやく黙り込んだスザクに悪戯っぽく笑いかけながら、ルルーシュは言葉を続けた。
「言っておくが、まだチェックはかけていないからな」
「さあ、どうだろうね」
 不貞腐れたように呟くスザクの様子に、ルルーシュはいたく満足した。
「しらばっくれても無駄だ。……確か、ちょっとハマりそう、だったか?」
 思い出した台詞を口にしてやれば、スザクがうっと口ごもる。
(ざまあみろ)
 精々煩悶すればいい。改めてそう思った。
 だが、スザクはさすがに少し機嫌を損ねたようだ。
「大したギャップだな。どっちがホントの君の顔?」
「俺は俺だ。別に裏表など作った覚えは無いな」
「そうか。……だったら、君には絶対、近いうちに、もう一回泣いてもらう」
「悪趣味だな」
「その方が早そうだからね。それに、悪趣味なのは君だろ」
「逆にその気が失せるかと思ったんだが……まあ、そうだな。否定はしない」
 今の発言に関してだけはな、と付け加えながら、ルルーシュは戯れのように繋ぎ合わせたスザクの手の甲へと口付ける。
「だが、そうだな。こんな事でさえ、俺はお前相手じゃなきゃ出来ないんだよ。……そう言ったら信じるか?」
 流した視線の先にあるスザクの口元を眺めながら、一応ご機嫌を伺ってやる。
 唇が開くのを待っていたが、スザクは何も言わなかった。ただ、返事の代わりだろうか。繋いだままだった手の甲を、もう一度自分からルルーシュの唇にくっ付けてくる。
 かなり上等な返事だ。現時点では。
 但し「チェックをかけていない」という台詞については、残念ながら大嘘なのだが。
(一々待ってなどいられるものか)
 内面に深入りされる事を拒むスザクが、自分から心の裡を話してくる日などきっと来ない。
 それは、理屈云々を越えた部分で得た確信だった。
 いつか手遅れになる日が来そうで怖いのだ。大体、何らかのトラウマさえありそうな様子なのに、人一倍怖がりらしいスザクが自分から話せる訳も無い。
(それに、悠長に打ち明けられる日を待っている訳にもいかないんだよ、俺は……)
 ならば、例えどんなに進みの悪い駒だとしても、一歩でも多く先に進めておくしか無いではないか。
 防御よりも攻撃を選ぶ。それもまた本性だというのなら。
 そもそも、いつまで学園に居続けられるのかさえ解らないのだ。ゼロの仮面を被り、選んだこの道を進み続けている限り――そして、スザクが軍に留まり続けている限りは。
 軍属など辞めてしまえばいい。ルルーシュはこの時、心の底からそう思った。
「それより、今何時だ?」
「学校ならとっくに遅刻だよ」
「ナナリーは?」
「もう出たみたいだよ。良かったね、部屋まで入って来られなくて。咲世子さんに呼ばれた時、一応答えてはおいたけど?」
「何て……」
「ん? ルルーシュはまだ寝てるから、後で学校連れて行きますって。僕だって何度も起こしたのに……相変わらず、君は朝が弱いんだな」
 はぐらかされた苛立ちか、それとも単なる腹いせか、むっとしていたスザクが上掛けをべりっと剥ぎ取った。
「な、何をする! ―――……っ!」
 隠すものが無くなったルルーシュが慌てて体を起こした瞬間、あらぬ所に鈍痛が走る。
 体の奥からとろりと流れ出す昨夜の名残。内腿へと伝う濡れた感触があまりにも不快だ。
 恥じ入ったルルーシュは自分の体を抱きかかえるようにして蹲りながら、端正なその顔を盛大に歪めた。
「……ごめん。今のは僕のミスだ。一応言っておくけど、そんなつもりじゃなかったよ」
 屈んで突っ伏したルルーシュの様子に何かを悟ったのか、スザクは決まり悪そうに視線を逸らした。
「謝るくらいなら最初からするな!」
「それ、謝らない君には言われたくないかな」
「スザク!」
「わかったよ。ごめんごめん」
 スザクは降参するようにホールドアップの姿勢をとっていた。
 ぞんざいに謝られると余計腹が立つ。行為中にも思った事だが、紳士的な反面、スザクは時々やけに動作が乱暴だ。
(やはり変わっていないな。そういう所は……)
 お互い様かも知れないが、随分と難解な性格に育ったものだ。
「本当に悪いと思ってなければ謝らないよ」
「どうだろうな。ごめんで済むなら警察は要らないと思うが」
 ついでに軍も消えて無くなればいい。出来れば国ごと。
 心の中でひとりごちたルルーシュは、憤然と嘆息した。
「もういいから、さっさとシャワーを浴びて来い」
「君は?」
「後から行く」
 言い切った所でスザクに手を引かれ、何事かと驚いたルルーシュが繋がれた手へと目を向ける。
「なんだ?」
「なんだじゃないだろ。君も一緒に行くんだよ」
「何故一緒に入る必要がある」
「……いいのかい? 中のそれ、処理しなくても」
 露骨な表現にルルーシュの眉が寄った。
「じ、自分で出来るからいい!」
「ああ、それは無理だ。手伝うよ」
 全力で抗議してみたものの、さっくりと言い切ったスザクに聞く耳を持てと言った所で、大人しく聞き入れる気など更々無さそうだ。
 慌てて振り解こうとした手はしっかり握り込まれ、押しても引いても離して貰えそうにない。
「この、怪力がっ……!」
「何で逃げるの……。ほら、行くよ、ルルーシュ」
 どうしてこうも強引なのか。
 腕を引くスザクに腰まで抱えられ、ルルーシュはよろよろと立ち上がった。
(ちょっと待て。手伝うって……具体的に、何を、どうするつもりなんだ?)
 はた、と気付いて青ざめる。手伝うと言うからには、ただ流すだけでは済まないのだろう。
 不穏な表現に、嫌な予感を隠せない。
「お前は学校に行くんだろ? だったら先に入れよ」
「え、君は休むの?」
「まあな」
 休まず行けと言うのなら、もっと加減というものを覚えるべきだ。
「うーん……まあ、初めてじゃ仕方ないと思って、かなり加減はしたんだけど……そんなに、体きつい?」
「……見れば解るだろ」
 天然過ぎる答えに脱力を禁じえない。
(加減していたのか、あれで……)
 聞き間違いだと思いたいが、今「かなり」と言わなかっただろうか。
 痛みこそ無かったものの、濃厚過ぎる上に初っ端からあれこれと無体を働かれたような気もしていた為、全くもって信憑性に欠ける台詞なのだが。
 しかし、比較対象の居ない現状では比べようも無い。
 心配そうに尋ねてくるスザクに初めてで悪かったなと思いながら、ルルーシュは往生際悪くバスルーム連行を阻もうと抗い続けた。
「いいから、お前だけ先に行け」
「そういう訳にはいかないよ。何の為に君が起きるの待ってたと思ってるんだよ」
 もしかして、この為だったとでも言うつもりだろうか。
 こうして拒まれる事自体心外だとでも言いたげなスザクの台詞に、ルルーシュは危うく、今まで一体何人と寝てきたんだと怒鳴り付けそうになった。
 全ての行為に関して言える事だが、手慣れているにも程がある。
「スザク、気を回してくれるのは有難いんだが……その、本当に、自分で出来るから結構だ」
「何言ってるんだよ。本当に意地っ張りなんだから。今更遠慮なんかしないでよ」
「だから、そうじゃなく……!」
「ああ、もう。いいってば」
 遠慮しているのではなくハッキリと拒否しているのだが、それ以上言うのも面倒くさくなったのか、スザクは引けたルルーシュの腰を抱えるなり、ぐいっと片手で持ち上げてくる。
「なっ……!!」
 よっ、という掛け声と同時に横抱きにされ、ふわりと体が宙に浮く。
「……っ、おい! よせ! 何をする!!」
「そのままじゃ歩けないだろ? この方が早いかなって思って。君、軽いし」
「そういう問題じゃないだろ! 下ろせ、今すぐに!」
 腕を突っ張ってじたばたと暴れてみたが、つい先程払い除けられた上掛けをばさりと被せられ、有無を言わさず室外へと連れ出された。
「ほら、暴れちゃ駄目だってば。舌噛んじゃうよ。落とされたくなかったら黙ってて」
 誰かに見られたらどうするのかと思ったが、幸い廊下は無人だった。
 下半身にだけ寝巻きを身に着けていたらしいスザクを見て、あの女よりは遥かに慎みがあるのだと妙に感心する。
(待て。それは本来当然の事だろう)
 貞操観念に関しても言える事だが、破綻しつつある倫理に頭が痛くなる。
 すたすたと歩を進めるスザクにそのままバスルームまで運び込まれ、脱衣所でようやく下ろされた。
 数回泊まった経験があるからか、バスタブに湯を張る動作に慣れが見える。
「お湯溜まる前に、体、洗っちゃおうか」
「ああ」
 天井に反響したスザクの声が耳を打つ。もくもくと立ち込める湯気が足元に漂ってくるのを見つめながら、ルルーシュは纏っていた上掛けを床に落として躊躇い無く全裸になった。
 ふと視線を感じて顔を上げれば、戸口に立つスザクに一連の動作を見られていたらしいと気付く。
「何だよ。……何見てる」
 問いかけてみても、スザクは凝視するのをやめようとしない。
 昨夜あれだけの事をしておいて、今更物珍しげに見るものでもないだろう。不審に思って尋ねてみれば、スザクは「ここ」と言いながら、トントン、と指先で自分の首筋を示していた。
「跡、残っちゃったね」
「!」
 晒された首から鎖骨にかけて散った赤い点について指摘され、ようやく見られていた理由を悟った。
 咄嗟に首筋を覆って鏡を見ようとしたが、それも今更だと思って手を外す。
「偶然付いた、みたいな言い方だな。……これは、自然に付くものじゃないんだろ?」
 問いかけながら、ルルーシュは思案した。
 一日二日で消えるだろうか。リヴァル辺りに見られたら何を言われるか解ったものではない。
 制服の襟で隠せればいいが、残念ながら、目敏い者が他にも約一名同居している。
 残ったのではなく残したんだろうと暗に指摘してやれば、言い回しの意味に気付いたスザクは意外にもこくりと頷いた。
「それに関しては、謝らないよ」
 所有印だとあっさり認めたスザクにおいでと手招きされ、ルルーシュはバスルームへと踏み込んだ。
 見慣れている筈の浴室が、やけに明るく感じられる。
 横を通り過ぎる時に息を飲む気配が伝わってきたが、わざと気付かぬ振りをした。


オセロ 第13話(スザルル)

※性描写を含みますので畳みます。R18ですのでご注意下さい。
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……えっと、今更ですが、今回はちょっと長めです。
今更ですがFNまでがっつりいってますので、苦手な方は全力でリターン推奨^^ (ほんとに今更ですね……。)



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色鉛筆

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久しぶりに使った…。
色鉛筆たのしい。
しかし根気足りないのでくじける。

いつもEROな絵ばかり描いてる訳ではないです(・ω・)
小説はEROシーンが続いてしまっているのでどこで切ったらいいのか解らないよ!w

スザクがなかなかやめようとしないので困ってます。
だが明日までには13話うpします。
今からパソコン立ち上げる!

自分パソコンでないので、パパンに返却する時データ消さないと窓からロープレスバンジーするしかなくなるwww

しかしお腹が痛い…!痛いよ!

またやっちゃったよ…。

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パソコンが謀反起こしてるので、とりあえずらくがきでもうpしてみまー^^
毎度いかがわしくてスミマセンww

もいっちょw

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イキ顔描くの好きです。
それにしても、携帯からだと、ホント上手い具合に局部隠れますよね…。

オセロ 第12話(スザルル)

※性描写を含みますので畳みます。R18ですのでご注意下さい。
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あらら…。

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悪逆皇帝というより、これでは完全に皇帝ちゃんである。
ポーズ間違えたな確実に…(笑)
ルルーシュらしくなくて逆に萌えないコレwww
自分の絵では元々萌えないとはいえこれはひどい\(~o~)/

スザクさぁん( ´∀`)

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携帯からなので全身像じゃないですが、上半身裸のラウンズスザク様。
まだ下絵です(・ω・) カラーで描くお!
違うポーズで描くからとりあえずこっちと、可愛いバージョンの浴衣ルルだけ携帯からアプしてみます。

全力で背後注意!




一晩中こんなんばっか描いてました。
タイトル通りですので気を付けて下さい。
それにしても堕落している…!ww

昨日ツイッターで頂いたリク絵も描いてましたが、そっちはパソコン直ってからアップします^^
上半身裸なラウンズスザク様と浴衣ルル(可愛いバージョン)と浴衣CC(お色気バージョン)、あとはスーツなルルは描き終えました。
個人的にラウンズスザク様はポーズ変えてもう一枚描きたいwwのでソレと、あとは眼鏡スーツなスザクと浴衣ルル(お色気バージョンw)を描く予定…。

楽しいな…(´Д`)♪

連載小説の方も書き進めたいし短編もストックしてあるネタが全然消化し切れてないので早く描きたいですおー。
しかも長編小説、連載と別口で2本並行して書いていたりします。
そして、更にその2本の他に、実はライスザルルまで書いているという…。
漫画も含めて全部まだ途中なので、自分だけが収拾付かない事になっててスッキリしない事この上なく。
サクサク消化したい!ww

それなのに新たにネタが沸き上がる辺り、スザルルはホントに恐ろしいジャンルですね。
全然アウトプットが追い付かないよー。

かきかき。

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一期っぽい二人(笑)
イチャイチャである…ww

moblog_75531da7.jpg
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二枚目からは繋がってますので背後注意です。
いかがわしいラクガキだよ!(´∀`)
三枚目は二枚目の顔アップです。
そろそろフィニッシュ的な?(何が…)

早くパソコン直らないかなぁ(・ω・;)
なんもできん…!

もういっちょー

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携帯画像荒くてスミマセンー(・ω・;)
もっと画素数ある携帯欲しい…。
しかも首傾けないと見られないとか二重の意味ですみません。

ルルーシュ見てると



こういう事したくなります。
ごめんなさい通報しないで!(笑)

パソコンはハードがイカレた様で、修理に旅立ちました。
ツイッターの方で素晴らしいネタ投下して頂いたので、とりあえずイラスト描きつつ場もたせしたい所存。

連載の方も一応書き進めておきますー^^
なんかリクありましたら受け付けますので、ブログ拍手とかから気軽に投下してみて下さいww

ちなみにツイッターの方はスザルラーの方であれば無条件でフォロー返しさせて頂いてます。
スザルル友達周りにいないので、萌語りしたくても出来ない状況に脳内パーンしそうです(´∀`)アハハ!

うあああー!

moblog_924a1b59.jpg

パソコンいじれないのでロスカラリトライ中でした。
徹夜で黒の騎士団ルート再攻略完了。

ちょ…!このラストいいよ最高だよなにこれ!(涙)
ライGJー!!!

わああん!
ルルーシュー!!可愛すぎるー!

プロフ

夕希(ユキ)

Author:夕希(ユキ)
取扱:小説・イラスト・漫画

スザルル大好きサイトです。版権元とは全く関係ないです。初めましての方は「about」から。ツイッタ―やってます。日記作りました。

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