Lost Paradise 3(スザルル)




「スザク様が嫌じゃなければ……俺は嬉しいです。その……ずっとじゃなくても、少ない時間であっても、貴方みたいな人と一緒に暮らせるなんて」
 はたはたと瞬きながら、ルルーシュは照れ臭そうに告げてくる。
 俺はそれにも苦笑しながらルルーシュに尋ねた。
「貴方みたいな人って、どういう人なのかな」
「えっ?」
「君は俺に憧れてくれているらしいけど……君にとって、俺はどういう人間なんだ?」
「…………」
 幾ら嘘がつけないとはいえ、さすがにここまでストレートな尋ね方をされれば照れの方が先立つのだろう。ルルーシュはどうしようとばかりにおどおどしながら自分の腕をかき抱くようにして立ち竦んでいる。
「い、言えません。それは。それだけは……」
 そして、消え入るようなか細い声で「すみません」と呟いたきり、ルルーシュは俺から目を逸らした。
「…………」
 俺は少しだけ思案した後、そんなルルーシュを更に追い詰めようと、おもむろにルルーシュの顎を持ち上げる。
「あっ!?」
「言えないって、それはどうして?」
 続けてそう尋ねてやると、怯えた声を上げたルルーシュは一歩だけ後ずさり、凝視する俺の視線から逃れるようにぎゅっと目を瞑った。
「あのっ! ス、スザク様……。やめっ……やめて下さいっ!」
「君は俺に指図するのか?」
「や、ちがっ! そうじゃなっ……! ど、どうか離して……離して下さい……っ」
「君が素直に答えを言えば離すよ」
「……ぃ、や……。お願いです……」
「ルルーシュ」
「は、はい……」
「俺は正直な人が好きだ。解ってくれるか?」
「……っ」
 薄く目を開いて俺を見たルルーシュは、それでもやはり耐え切れない羞恥のためか頻りにカタカタと震え、俺の腕に手を掛けて何とか逃れようと顔を背けている。
 目尻に浮かぶ涙。震える長い睫の先や、戦慄く唇。
 恥じらいながらも弱々しく抵抗を示すそのさまは、さながら情事の最中を思わせるほどしどけない色香に満ちていた。
 誰にも屈しようとしない自尊心の塊のような、あのルルーシュが。――そう思うだけで腰の辺りが重くなり、異様なほど興奮を煽られる。
 俺は震えるルルーシュの指先を掴んで引き寄せ、逃れられないようわざと距離を縮めた。ルルーシュが小さく「あっ!」と叫びを漏らしたけれど、俺はそんなルルーシュに構わず耳元へそっと顔を寄せ、低く囁く。
「言っただろう? 君みたいな人に憧れていたと言われて不快に思う奴なんかいないって。それとも君は、俺の言ったことが信じられないのか?」
「ちがっ……!」
「なら言ってくれ。正直に……」
 肩を抱き寄せ耳元で囁きかけてやるたびに、抱えたルルーシュの肩がビクッと跳ね上がった。耳が弱いのは知っているが、それにしても随分と敏感な反応だ。
「ルルーシュ?」
 もう一度名前を呼んでやると、ふるりと一度大きく首を振ったルルーシュはとうとう観念したように怖々と瞼を開いた。
 懇願が受け入れられることを求め、ひたすら必死な面持ちで俺を見上げてくるいたいけな瞳。俺は今にも涙の零れ落ちそうなルルーシュの紫玉を舐めるような目つきで見定めながら、答えを促そうとルルーシュの唇から少しだけ離れた位置で口付ける真似をした。
 その途端、ほんの僅かにかかった俺の吐息に怯んだルルーシュがひゅっと息を飲む。
 これ以上無いほど大きく瞠られた紫玉に驚愕の色を浮かべたルルーシュは、とうとう堪え切れずに嗚咽を漏らしながら唇を開いた。
「……きです……貴方が……。ずっと、ずっと前から……貴方の姿を一目見たその時から……俺、貴方のことが好きでした……っ」
「ルルーシュ……」
 全身全霊で訴えられて絆されない男は居ない。
 言い得ようのない、そして抗いようも無い懐かしさといとおしさが怒涛のように込み上げ、俺は思わずルルーシュを強く抱きしめそうになっていた。
 心臓が締め付けられる。万力で挟まれるよりもまだ強く。
 愛しい。いとおしい。どうしようもないほどこの存在を手に入れたい。何を押しても欲しい。
 駄目だ。この男は俺の敵。――だけど。
 ルルーシュの告白はまだ終わらない。うっく、と時々えずきながらも、健気とも切なげとも取れる小さな声で必死に訴えてくる。
「お、お願いです。男なんかに好かれて気持ち悪いかもしれないけど……き、嫌わないで……。貴方に嫌われてしまったら、俺……俺は……っ!―――ん!」
 ほたほたと涙を零しながら乞い願うルルーシュに、俺はほとんど噛み付くような勢いで口付けた。
 敵だ仇だと言い聞かせてはみたものの、まるっきり無駄だった。
 一瞬で理性の全てが吹っ飛んだ。
 はっきり言って我慢の限界だ。いじらしいとか可愛らしいのを通り越して、寧ろ凶暴な感情の赴くままに、滅茶苦茶に踏み荒らして穢し尽くしてやりたくなる。
「んんっ……! ふぁ、ぅ!」
 思い切り深く口付け一頻り口内を犯しつくしてからようやく唇を離せば、その瞬間ルルーシュは酷く辛そうに瞳を細めて俺を見た。
 ぜいぜいと呼吸を荒げてくったりと俺の胸へとしなだれ掛かるその時も、焦点を失った虚ろな瞳からほろほろと涙を流しながら俺にか細い声で尋ねてくる。
「スザク様……」
「何?」
「これは……遊び、ですか?」
「え?」
 言いながら、今度は突然肩を震わせて激しく啜り泣き始めたルルーシュに驚き、俺は困惑しながらルルーシュの顔を持ち上げた。
「ど、して……こんな。本気では、ないでしょう……?」
「――――」
 俺は言葉を失った。
 つい感情先行で後先考えずに動いてしまったが、要は「本気でも無いくせに手を出すのか」と言いたいらしい。
「……遊びだと言ったら、君はどうする?」
 少し上の目線からわざと突き放す口調で冷たく言い捨ててやれば、俺を見上げるルルーシュの顔がくしゃりと悲痛に歪んだ。
「貴方は、酷い人だ……!」
 言うなりもうこれ以上立ってはいられないとばかりに、ルルーシュはその場にしゃがみ込もうとする。
 力を失って泣き崩れようとするルルーシュの腕を反射的に取り、俺は無理やり抱き寄せた。
「嫌だ……! やめて……も、やめてくださ……っ!」
 激しい抵抗を見せたルルーシュは、錯乱しながらも俺から逃れようと腕を突っ張る。俺はそんなルルーシュの手首を素早く捕らえ、もう一度強く引き寄せて至近距離からルルーシュの泣き顔を覗き込んだ。
「だったら、お前の本音を言え」
 気付けば口に出していた。
「――ぇ?」
「お前は、俺にどうされたいんだ?」
「――――」
「言え。ルルーシュ」
「――っ、う」
 ルルーシュは俺を見上げてぼろぼろと涙を零しながら、ふるふると首を左右に振った。
 相変わらず俺に怯え切っているようなその態度が酷く勘に触り、つい込み上げる苛立ちに任せて強い口調で詰ってしまう。
「なら本当に遊びで終わらせるぞ。それでもいいのか?」
「……っ!」
 ルルーシュはそれにもふるふると首を振り、激しい葛藤に苛まれながらも必死で何かを訴えてくる。
「や……いや、です!」
「だったら言えるだろ」
「だから俺はっ……! 貴方が好きだと!」
「それはもう聞いた。俺はお前の本音を言えって言ってるんだ。俺とどうしたいのか――お前が俺にどうされたいのかを言えと言ってる。意味わからないのか?」
 ぱっと顔を上げて言い募ってくるルルーシュに、俺は冷たい声音で吐き捨てた。
 カタカタと震えるルルーシュの手首に力を込めながら黙って見下ろしていると、ルルーシュはの震えはどんどん酷くなっていく。
 ――だからこいつは、どうしてここまで俺を怖がるんだ?
 そう思った瞬間、俺は又も次の言葉を発してしまっていた。
「言えよルルーシュ。正直に言えたら、お前の望み通りにしてやる」
「な、んで?」
「なんでも何も無いだろ。言うのか言わないのかどっちなんだ? お前俺のこと誤解してるみたいだけどな、俺は結構気が短いぞ。――五秒やる。だからさっさと言え」
 急かすためにも敢えて乱暴な口調を選んで言い捨ててやれば、ルルーシュは酷い動揺と混乱の中で瞳を大きく見開き頻りに揺らしている。
 5、4、3――と俺が秒数を数えだした途端、ルルーシュはいきなり俺へと取り縋り、そのまま首筋へと夢中で腕を絡めてしがみ付いてきた。
「俺は……俺は……っ! 貴方と遊びで終わらせるなんて出来ない! そんなの絶対に嫌だ……っ!」
「だから?」
「……お願いです。貴方を……俺に下さい」
「どれくらい?」
「全てです」
「――――」
 なんだ。その程度でいいのか。
 ルルーシュの台詞を聞き終えた瞬間、俺が感じたものは僅かな落胆と、それをも遥かに上回る苛立ちでしかなかった。
「それがお前の本音か?……お前、この期に及んでまだ俺に嘘ついてるんじゃないだろうな」
「…………」
「言っとくけど、俺は嘘吐きは嫌いだ。全部言ってないなら今のうちに言っとけよ? 後から言えませんでしたとか、そういう言い訳なら一切受け付けてやらないからな」
 すると、ルルーシュは震える唇を辛そうに噛んでから、こう答えた。
「俺は、貴方の心が欲しい」
「……それって、俺に愛されたいってことでいいんだよな?」
「――――」
 俺が尋ねた瞬間、弾かれたようにルルーシュが俺を見た。息を吸い込む音でさえも震えている。
「何だよ。違うのか?」
「ちが……違わない……」
 泣き濡れたアメジストと目が合った瞬間、ドクンと胸が高鳴った。
 ただこうして対峙しているだけで、全身が心臓と化したような強い動悸と共に強烈な眩暈を覚える。
 ――多分、ルルーシュも俺と同じだ。
 理由もなく確信してしまった。……だから、もう戻れない。
 脳内を占めるのは、最早渇望や焦燥にも似た強い飢餓感のみ。
 俺は飢えと乾きを満たしたい思いのまま、ルルーシュへと即座に言い放つ。
「じゃあ命令しろ。ルルーシュ」
「え?」
「俺に命令しろって言ってるんだ。俺が必ずお前の望みを叶えてやる」
「…………」
 俺が言い放った瞬間、茫洋としていたルルーシュの瞳に宿ったものは強烈な意思の力。
 同時に、ゾクリと背筋を駆け抜けていく感覚。――全身の血液が沸騰するような。
 言われなくても解る。
 これは、紛れも無い歓喜だ。
「俺はお前を裏切らない。信じろ。ルルーシュ」
 ――わかった。解ってしまった。
 俺が見たかったのは、この一年間ずっと求め恋焦がれ続けていたものは、おそらくこれだったのだと。

 ああ、ルルーシュ。
 俺の主。……俺の王。―――俺だけの、たった一人の。

 そう思った刹那、苦しげに歯を食いしばったルルーシュは決然と俺を睨みつけながら叫んだ。
「愛してる……! 俺を愛せ!」

プロフ

夕希(ユキ)

Author:夕希(ユキ)
取扱:小説・イラスト・漫画

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