さあ、オレに同情しろ！
換気扇に吸い込まれていく紫煙をぼんやりと眺めながら、スザクは黒く燻っていく肺のことを思った。昔、煙草は一本につき五分三十六秒だか、三分五十六秒だか寿命が縮むのだとルルーシュが言っていた。スザクは煙草など吸わなかったが、なにせ軍にいる人間ときたら酒は嗜む以上に飲み、女と遊び、身体を使う職業だというのに吸う本数は一日ひと箱以上という者がザラだ。これに打つが加わると、街を徘徊するろくでなし達と大して変わらないな、と自分のことを含めてスザクは自嘲する。
「百害あって一利なし」と嫌煙者は言う。そう、これは緩やかな自殺だ。酒は未成年なのでおおっぴらには飲めないし、さして酔える方でもない。これも一つの甘えだと咎める声も内側から聞こえている。ただ、つい手が伸びて深々と溜息を吐き出せるようになってからも、ルルーシュに吸うようになったことはずっと隠していた。
一日数本に抑えていても、髪や服に臭いがつくだろうかと気に掛かる。キスをする時も臭うだろうか。ルルーシュに吸っているとばれたらどんな反応をされるだろう。きっと、あの美しい顔を盛大に顰めて無遠慮に「臭い」と言うに違いない。そして心配そうに、あるいは困惑した表情でこう付け足すのだ、「お前、何かあったのか」と。
吸い続けていればやがて身体を壊す。そこまで解っていて何故吸うのか。やはり自殺だとスザクは思った。全身から死の気配が立ち上り、ルルーシュに気付かれることを懸念し、同時に密かな期待を覚えてもいる。
（なら、いつやめられるんだろう）
ニコチン依存症というほどでもない気がする。たぶん、まだ戻れるところにスザクはいる。本当にやめられなくなったらどうなるのかふと興味が湧いたが、スザクはその考えには気付かなかった振りをして吸い殻を灰皿に押し付けた。
