オセロ 第11話(スザルル)
※性的な表現がありますので、今回は畳みます。
18歳以上の方のみ、下記のリンクからどうぞ。
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11
「……何故謝る?」
謝らなければならないのはこちらの方だ。
例えどんなに譲れない理由の下であろうと、裏切っているのだ。他でもないスザクの想いを。
(大切な者を守りたいという、俺自身のエゴの為に)
必要悪を肯定しているからこそ、大小に関わらず、必要だと判じればどんな嘘だって躊躇わずに吐く。それを悪い事だとも思わない。……そのつもりだった。
それでも、たった今ズキリと心が疼いたのだ。
だからこそ気付いてしまった。本当の意味で、罪悪感が芽生えつつある自身の心に。
「うん。どうしてだろうね」
握り締めたルルーシュの手に視線を落としながら、スザクがぽつりと呟く。
「答えになってないだろ」
「そうだね。いつか言うよ。怖いけど。……でも君には、言わなくちゃならないと思ってた事があるんだ。本当は、ずっと昔から」
「そうか」
「だから、ごめんね」
「……………」
躊躇いがちに、だがはっきりと謝罪の言葉を口にしてきたスザクに、ルルーシュはそれ以上何も言う事が出来なかった。
無理に聞こうとは思わないし、お前が自分で話してくれない限りは知ろうともしない。昔の自分なら何の迷いも無くそう答えただろう。
しかし、それも結局は嘘なのだ。決して本心ではないと知っている。
叶わない望みの前で、願いの前で、こうしていつも膝を折る。何度も、何度も。
その度に、押し殺した欲は膨らんでいった。まるで際限無く増殖していく澱みの様に。
(だからこそ、俺は力を欲したんだ)
これからも、もっと多くのものを切り捨てていかなければならなくなる時が来る。そんな現実から目を背けてはいられないから、前へ進むと決めてしまった。……人ならざる力を手に入れて。
(俺は、お前にこんな風に扱ってもらえるような人間じゃないんだよ、スザク)
愛しげに指を絡め、撫でられている自分の手。
とてもではないが、見ていられない。後ろめたい思いごと、何とか目を逸らしたくなってしまう。
スザクが浮かべている笑みはあまりにも穏やかで、どれだけ大切に思われているか一目瞭然だった。わざわざ口になど出されなくても、見れば解る。解ってしまう。
美化されている。寧ろされすぎているとさえ思う。
けれど、今スザクが握っているのは、既に数多の血で汚してしまった手なのだ。期待に適う姿を演じることは出来ても、決して元には戻せない。もう二度と。
(俺は、全くもって薄情だ)
スザクを、たった一人の友人を相手に、嘘を吐いている。これからも吐き続ける。だから多分、この記憶は消えない。
只の予感ではない。
たった今目にしたスザクの笑顔は、きっと一生脳裏に焼き付いたまま、永遠に消える事は無いだろう。
「スザク。一つ質問してもいいか」
「ん、何?」
「どうして、裸だったんだろうな。俺達は」
静謐にさえ思える薄闇の中で、自分だけが知っている筈の問いを投げかけた。
「夢の中で、君も?」
「そうだ」
これ以上話してやる気は無いが、それだけ知ればもう充分だろうという意図を含めて視線を向ければ、スザクは甘える様にルルーシュの肩口へ頬を寄せながらふふ、と笑った。
「うん。それは、僕にも解らないけど……でもきっと、安心したかったからだと思うよ?」
「そうだな」
スザクの答えにゆるりと頷きながら、ルルーシュは思った。
今夜は思いがけず、随分綺麗なものを見た。
(だったら、俺はせめて、この痛みだけでも覚えておく事にするさ)
自分の本性が悪なのだと思い知るのは、例えばこんな時だ。
嫌でも気付く。見せ付けられる。脳裏に浮かぶ妹の姿。これだけが自分に残る人間性であり、この世と自分とを繋ぐ最後の縁。そんな風にさえ思えてくる。
こうして何かを考える度に、自分の中に残る善性など、疾うに一つきりでしかないのだと。
(いつもそうだ)
冷静を通り越した冷酷な一面に気付く度、そんな自分自身に派手に傷付く。
「これで気は済んだか?」
「まだ聞いてない」
「何を」
「君が出かけてる理由」
もうとっくに拘束を解いているのに、スザクはまだ強情を張るつもりの様だ。
「頑固だな。呆れた奴だ」
根負けした風に見せかけながら、ルルーシュは天を仰いだ。
(確かに、こうして繋がれた手の方が、さっきみたいにされるよりは遥かに拘束力が強いのかも知れないな)
北風と太陽。ふと、そんな言葉が頭を過ぎった。
命令よりも懇願を欲する。それもまた、本性の一部なのだろうか。
「俺にはごめんと言ったくせに」
言外にずるいと責めながら、余った片手でスザクの頭を撫でてやれば、犬が懐く様にすり、と鼻先を寄せられる。
耳元にスザクの吐息がかかる度、ぞくりと体に震えが走った。乗せられた顎で剥き出しの首筋を辿られる感覚にも、不思議と嫌悪を感じない。
「我侭言えるのは、君にだけだから」
甘やかな声で囁かれると、頭がぼうっとする。
脳髄が痺れる様なスザクの声。倒錯した感覚に溺れそうになり、ルルーシュは堪えるように瞼を閉じた。
「そうか……。なら、仕方ないな。……でもお前、僕を甘やかしてもいい事は無い、とか何とか言ってなかったか?」
「うん。それは本当」
このままではほだされてしまう。駄目なのに。
(ああ……。俺は本当に、こいつにだけは弱いな)
折角一度は主導権を握れたと思ったのに、とことん勝手なスザクにだけは結局立場を逆転されてしまう。
「……でしょ?」
同意を求めてくるスザクの髪が首筋にかかった。ふわふわした栗毛がくすぐったい。
(振り回されるのは嫌なのにな)
しかし、スザクが相手では、最初から勝負はついている。
あまりにも正直過ぎて笑ってしまうが、君にだけ、と言われてしまえば、もう負けてやる他無かった。
「そうかもな」
溜息混じりに肯定してやれば、確信犯的に笑ったスザクがぐいっと距離を詰めてくる。ぴったり重ねられた胸と胸の間で、ルルーシュは互いの鼓動が重なる音を心地良く感じていた。
(俺もヤキが回ったな)
正直、そういうのは嫌いじゃない。……寧ろ好きだ。甘えられるのは。
「酷い奴だ」
「うん。でも責めないで?」
「仕方の無い奴だな。お前は……」
「そうだね」
男二人で、何をやっているんだか。まだ残る理性的な部分が、限りなく沸いた思考の片隅で囁く。
(涙が出れば良かったのに)
せめて嘘泣きでも出来れば、まだ違っていたのだろうか。
再び二人の間に引かれてしまった線を悲しく見つめながら、ルルーシュは一人と一人で二人では無く、二人で一つになりたいと思う人の業を思った。
「なあ、スザク」
「ん?」
「お前、俺が好きか?」
「うん。好きだよ」
鼓膜にじわりと滲み、広がっていくスザクの声。――どうしようもなく、この声が好きだ。
(何を考えてる。俺は……)
どういう意味の「好き」かなど聞くまでも無い。
……それなのに、たった一言聞いただけで、あっさり覚悟が決まってしまった。
「そうか。俺もだ」
「うん。有難う」
「だから俺は、今から、人生で一番頭の沸いた事を言うぞ」
「……え?」
顔を上げてきたスザクの頬に掌を這わせたルルーシュは、薄く開かれた口の端にそっと唇を落とした。
絶句しているスザクに構わず、そのまま二度、三度と唇を重ねてみる。
(こちらから歩み寄ったのに、一度ならず二度までも拒んだ事、必ず後悔させてやる)
スザクの都合など最早知った事ではなかった。意趣返しくらいさせて貰わなければ、到底割に合わない。
「ルルー、シュ……?」
呼び掛けられる声に、察しろよと思う。まだるっこしいのは好きではない。
「このまま眠ってしまったら、朝起きた時、どんな顔をしてお前と向き合えばいいのか解らないからな」
「……………」
「どうせ今から寝ても、二、三時間しか眠れない。お前の所為で寝不足決定だ。……だから、付き合え」
不敵な笑みを浮かべながら畳み掛けてみれば、スザクは明らかに困惑していた。
ぱちくりと目を瞬かせているスザクが、次に何を言うのか楽しみだ。
(駄目だなんて言ってみろ。絶対にぶん殴ってやる)
頭の固いスザクの事だ。貞操観念云々言い出しかねないが、体力差がある事などこの際どうでもいいとルルーシュは思った。
殴るどころか、ベッドから蹴り落とした時点で永久追放だ。もう二度と家になんか入れてやるものか。ナナリーにだって合わせない。学校でも無視だ。
答えないスザクに内心焦れながら、首を傾けたルルーシュはもう一度確認の意を込めてスザクに尋ねてやる。
「……意味、わかるよな?」
不遜な口調で問いかけてみると、それまで茫洋としていたスザクの目がすっと細まった。
「後悔しない?」
経験があるらしいスザクは、見事に空気を読んだ。
(上出来だ)
こちらに引く気が無い事を悟ったのだろう。
普段は空気など全く読まないくせに、動物的な本能や勘の鋭さにかけて鋭い辺りはさすがだな、と舌を巻く。
「自分でも酔狂の極みだと思ってるさ。だが、後悔なんかするつもりは無い。相手が、お前ならな」
スザクが話してくれるまで待てないと叫ぶ自分が居る。
(欲しいものは、欲しいんだ。欲が深いんだよ、俺は)
交わす言葉に限界があるというのなら。……どうしても解り合えないと、いうのなら。
「この身体ごと、半分はお前にくれてやる。有難く思えよ」
「半分?」
聞き返してきたスザクの首に腕を回しながら、艶然と笑んだルルーシュはベッドに横たわった。引き寄せられるまま覆い被さる体勢になったスザクが、体重が掛からない様ベッドに掌を付く。
横目で眺めたその手も取り上げ、首に絡めるよう誘導すると、少し迷ったスザクは腕枕をする様に首の裏側へと腕を差し込んできた。
「そうだ。半分だ。もう半分は、俺とナナリーのものだからな。全部寄越せと言うのなら、お前も俺に捧げてみせろ。それがルールだ」
「……………」
「だがな、スザク。お前がそれを望まない事くらい、俺も解った上で言っている。だから精々優しくしてくれ。……先に言っておくが、俺は一応初めてだ」
女を抱いた事は勿論、男に抱かれた事も無い。そう告げてやれば、スザクは少なからず驚いた様だった。
「只の友達じゃなくなっちゃうよ? それでもいいの?」
眉を寄せながら心配そうに言う反面妙に冷静だが、瞳の奥には見た事も無い色がゆらゆらと燻っている。
(そんなツラをしながら言う事か)
笑い出したくなるのを辛うじて抑えたルルーシュは、わざと音を立てながら首の裏に回されたスザクの腕に口付けた。
思わぬ面を見たとは思うが、悪くはない。例えどんな形であったとしても、欲されていると解るのは酷く気分が良かった。
「構わない。それに、お前は俺に恥をかかせたりしないだろ?」
一歩も引かない意思を秘め、誘う眼差しをスザクに向ける。
望むところ、どころか、寧ろそれこそが望みなのだと言ってやったらスザクは驚くだろうか。
(断るだなんて許さない。逃げるというなら、力尽くでも手に入れてみせるだけだ)
そう。例え、どんな手段を使っても。
(やってやる。仕掛けてやるさ。俺からな)
何故なら、それが自分だからだ。
裸にして縛り付けておきたい位の執着にさえ自ら背を向けようというのなら、後戻りなど出来なくなるよう退路を断つまでだ。気付いて煩悶すればいい。自信はなくとも、幸いプライドだけなら叩き売る程有り余っている。
「本当に、いいんだね?」
「当然」
同性だから、友達だから、何だというのか。引き返せない道を進んでいるなんて今更だ。
(だったら、この歪な関係ごと、全て飲み込んでやる)
既に人ならざる道を歩んでいるのなら、せめて悪魔らしく。この混沌とした心の中で、丸ごと溶けてしまえばいい。
(俺は、欲しいものは絶対手に入れなきゃ気が済まない主義なんだよ)
業も深ければ欲も深い。そんな事はとっくに自覚していた。
互いの顔に吐息がかかる程の至近距離で、付き合わせた鼻先を戯れの様に触れ合わせてみる。
絡んだ視線に篭る熱の存在に気付いた先は、もう、言葉は不要だった。吸い寄せられる様に目を閉じれば、互いの間に開いていた距離が完全に消滅する。
「………っ!」
先に仕掛けてきたのはスザクだった。
噛み付く様に口付けられ、割られた口腔内を好き勝手に舌先で荒される。深く唇を重ねては舌を絡め取られ、角度を変えて口付けられる度に互いの唇から湿った水音が響いた。
残る理性をも根こそぎ奪われそうな口付けに、たちまち全身から力が抜けていく。
「う……っん! ……ふ」
絡めた舌を引き抜かれる程強く吸い上げられ、くぐもった呻きが喉から漏れた。
電流でも流されたのかと思う程強い快感が背筋に走る。自分から仕掛けた事とはいえ、既に羞恥で死にそうだ。
舌先でしつこく口腔内を嬲られているうちに、くだけた腰から下が妙に疼き始めた。
(溺れそうだ)
身体の奥からぞくぞくと這い上がって来る甘い疼きに胸を震わせながら、ただそれだけを思う。
繰り返される口付けに拙い動きで応えていると、弛緩していく下半身とは裏腹に、まだ誰にも晒した事の無い中心にゆるゆると熱が集まっていく。
「ふ………ぁう」
一際きつく吸い上げられ、絡め合った舌先がじんと痺れた。
どちらからともなく漏らされた切なげな吐息が、開かれた互いの唇の間で混ざり合う。
ようやく開放されたというのに、いざ離れてしまうと物足りない。離れていくスザクの舌を名残惜しげに目で追えば、視線に気付いたスザクが情欲を滲ませた眼をこちらに向けてきた。
「ルルーシュ……それ、無意識?」
「………!」
物欲しそうな顔に見えたのだろう。ハッと気付いたルルーシュの頬にさあっと朱が走った。
慌てて顔を背けてみるも、半開きになっていたらしい唇を親指で撫でられ、また元の方向に引き戻される。
「そんな顔するんだ?」
「わ、悪かったな……」
「ううん、ちょっと驚いただけ」
熱を帯びたスザクの囁きが心地いい。いつもよりトーンの低い声に異様なほど欲が煽られる。
お前こそ、と言い掛けて止まってしまった。カチリと合わせられた視線に、それ以上何も言えなくなる。
「唇、赤いね……。口、もっと開いて?」
一瞬躊躇ってからおずおずと口を開き、チラリと舌先だけ覗かせてやれば、誘われた様に顔を寄せてきたスザクがきゅうっと吸い付いて来た。
「んぅ……」
返す声が飲み込まれ、言葉にならない。
熱に浮かされた様に口付けを交し合いながら、ルルーシュは背中に回した腕に力を込めた。
突っ張った足が浮いた僅かな隙間を見逃さず、スザクは膝裏に掛けた足で大きく股を開かせてから身体を割り込ませてくる。
重ねられた体の重みで上がった息さえ飲み込む様にぴったりと唇を塞がれ、閉じた目の縁に涙が滲んだ。
「んん……っ、ぅ!」
緩やかに撓った腰の下へと滑り込んだスザクの手が、寝巻きの内側に入り込んでいく。
素肌越しに広がる体温が生々しい。丸みを帯びた臀部を伝い、尻の割れ目に沿って這わされた掌で内腿をぞろりと撫でられると体にぞくりと震えが走った。
「う、ぁっ……!」
ビクンと跳ねた体を抑え付けようと、スザクが体重を掛けてくる。
内腿をまさぐる掌と反対の手でしっかりと顎を固定され、口を閉じる事さえ適わない。もどかしげに腰を捩れば、察したスザクが下半身を覆っているズボンをゆっくり足から引き抜いた。
上半身に纏っていた着衣にも手が伸ばされ、焦らす様に一つ、また一つとボタンが外されていく。
「ふっ……んぅ」
乱れた息を整える間もなく与えられ続ける口付けに、意識が朦朧とした。
(頭が……くらくらする)
慣れているのかと思えば少々癪だが、経験が無くとも巧みだと解るキスだった。じんと痺れた唇ごと舐め上げられ、また深く入り込んでくる舌にどこまでも翻弄される。
「んぁ……っ」
乱れた襟元から覗く首筋を突然強く吸われ、陶然となったルルーシュの鼻から抜けるような吐息が漏れた。
きつく吸い上げてはねっとりと舐られる度に、頭の芯から正常な思考の全てが抜け落ちていく。
不意打ちの様に上向いた顎の裏や反対側の首筋までも舌でなぞられ、過ぎる刺激に閉じられている筈の視界が白く染まった。
「ルルーシュって、何だか凄く、いい匂いするよね……」
耳元で囁くと同時に、スザクは耳朶と耳の内側まで舌先で嬲ってくる。
「ひ、ぁ……そゆこと、い、うな……! 馬鹿ッ!」
「ここも、あと、ここも。凄くいい匂いだよ」
「―――ッ!!」
耳の裏をちらちらと擽っていた舌先で項まで一気に舐め下ろされ、全身がビクビクと痙攣した。
思うように言葉を紡げないまま、再び重ねられた唇で続く声まで封じられ、行き場も無い程追い詰められたルルーシュは布団の上で身も世も無くのたうった。
「駄目だろ、逃げちゃ」
抱き込む様に回された腕でがっちり腰を固定され、逃げを打つ身体が易々と捕らえられる。
会話の合間でさえも縫う様に歯列をなぞられれば、身の裡にじっとりと溜まる快感が更に膨らんでいく様だった。
不意に、スザクの手が肌蹴た胸元へと伸ばされる。
「ひぁ……っ!」
つんと尖った胸の突起を軽く捻られた瞬間、信じられない程の快感が体中を駆け抜けていく。
「やめろ! そんな所……っ!」
「どうして?」
慌ててスザクの手を払い除けようとしたが、逆にぞんざいな手付きで跳ね除けられてしまう。
「う、く……っん、んん……あぁ、ぁっ」
尚も甚振る様に摘んだ胸の突起を何度もこりこりと押しつぶされ、耐え切れずに上擦った声が漏れ出した。断続的に甘やかな刺激が背筋を走り抜けていく。
(女じゃあるまいし、冗談じゃない……!)
はしたない喘ぎなどこれ以上聞かれたくない。
口元に翳した手の甲を強く噛んで何とか声を噛み殺そうとするものの、伸びてきたスザクの手に手首を取られ、呆気なく口元から外されてしまう。
「な、にする……っ!」
「声、我慢しないで」
抗議の声など物ともせず、スザクはしつこく胸ばかり弄ってくる。
「……っ、あ、くっ……!」
首を振ってやり過ごそうとしても、漏れる喘ぎは噛み殺しきれない。
「ほら、ちゃんと聞かせて?」
たった一点から齎されるじくじくとした疼きは、やがて漣の様に全身へと広がっていった。
(も、駄目だ……!)
本格的に身体が変だ。理性で声を止めようと試みても制御が効かない。
「あぁ、や……や、ぁ……も、嫌だ、や、めろ、スザク……!」
荒い呼吸の所為で合わない顎がガクガクと戦慄き、開きっぱなしになった唇から絶えまなく和えかな喘ぎが漏れる。
胸の突起を弄るスザクの手を止めようと、ルルーシュは必死で抵抗を試みた。
既に袖しか通していない着衣の間は完全に肌蹴られ、用済みになったズボンが衣擦れの音を立てながらベッド下へと落とされる。
裾が左右に寛げられて露になった胸元に圧し掛かると、スザクはまだ残る指先の感触も去らないうちに、今度は薄く色づいた部分を舌先で攻め始めた。
「ひぁ……っ! あ、ああぁっ!」
「ルルーシュ……。もしかして、ここ感じるのは変だとか思ってる?」
呆れた様にクスリと笑ったスザクが、今まで捏ねていた突起を指先でぴんと弾いてくる。
「あ……ッ!!」
「敏感だね」
突然与えられた強い刺激に耐え切れず、ルルーシュの身体が大仰に跳ねた。
ようやく離された唇に息を切らしながら見上げてみれば、露になった腹部に手を這わせながら、スザクがじっとこちらを見下ろしている。
「後悔しない? って、聞いたよね」
「はっ……してる訳ないだろ……。俺から誘ったんだぞ」
切れ切れに息を荒げながらルルーシュは毒吐いた。
肌に直接外気が触れているのに、身体は寒いどころか、どこもかしこも燃える様に熱い。触れられた箇所から伝わる熱で、身体の内側から溶けていきそうだ。
「うん。僕も……やめろって言われても、もう止まれないから」
唾液に塗れた下唇をぺろりと舐めながら、スザクが改めて宣言する。
「一応、言っておくね?」
「――――っ!!」
腹部を伝う掌が下着の中へと差し入れられた瞬間、今度こそ耐え切れないほど激しい羞恥に襲われた。
真っ赤に染まった顔を覆う腕の下で、ルルーシュは観念した様に瞼を閉じる。強気に出てはみたものの、身構える間も無く強張る身体だけは隠しようが無い。
獲物を狙う猛禽の目に射竦められ、身体が竦んだ。
「……何故謝る?」
謝らなければならないのはこちらの方だ。
例えどんなに譲れない理由の下であろうと、裏切っているのだ。他でもないスザクの想いを。
(大切な者を守りたいという、俺自身のエゴの為に)
必要悪を肯定しているからこそ、大小に関わらず、必要だと判じればどんな嘘だって躊躇わずに吐く。それを悪い事だとも思わない。……そのつもりだった。
それでも、たった今ズキリと心が疼いたのだ。
だからこそ気付いてしまった。本当の意味で、罪悪感が芽生えつつある自身の心に。
「うん。どうしてだろうね」
握り締めたルルーシュの手に視線を落としながら、スザクがぽつりと呟く。
「答えになってないだろ」
「そうだね。いつか言うよ。怖いけど。……でも君には、言わなくちゃならないと思ってた事があるんだ。本当は、ずっと昔から」
「そうか」
「だから、ごめんね」
「……………」
躊躇いがちに、だがはっきりと謝罪の言葉を口にしてきたスザクに、ルルーシュはそれ以上何も言う事が出来なかった。
無理に聞こうとは思わないし、お前が自分で話してくれない限りは知ろうともしない。昔の自分なら何の迷いも無くそう答えただろう。
しかし、それも結局は嘘なのだ。決して本心ではないと知っている。
叶わない望みの前で、願いの前で、こうしていつも膝を折る。何度も、何度も。
その度に、押し殺した欲は膨らんでいった。まるで際限無く増殖していく澱みの様に。
(だからこそ、俺は力を欲したんだ)
これからも、もっと多くのものを切り捨てていかなければならなくなる時が来る。そんな現実から目を背けてはいられないから、前へ進むと決めてしまった。……人ならざる力を手に入れて。
(俺は、お前にこんな風に扱ってもらえるような人間じゃないんだよ、スザク)
愛しげに指を絡め、撫でられている自分の手。
とてもではないが、見ていられない。後ろめたい思いごと、何とか目を逸らしたくなってしまう。
スザクが浮かべている笑みはあまりにも穏やかで、どれだけ大切に思われているか一目瞭然だった。わざわざ口になど出されなくても、見れば解る。解ってしまう。
美化されている。寧ろされすぎているとさえ思う。
けれど、今スザクが握っているのは、既に数多の血で汚してしまった手なのだ。期待に適う姿を演じることは出来ても、決して元には戻せない。もう二度と。
(俺は、全くもって薄情だ)
スザクを、たった一人の友人を相手に、嘘を吐いている。これからも吐き続ける。だから多分、この記憶は消えない。
只の予感ではない。
たった今目にしたスザクの笑顔は、きっと一生脳裏に焼き付いたまま、永遠に消える事は無いだろう。
「スザク。一つ質問してもいいか」
「ん、何?」
「どうして、裸だったんだろうな。俺達は」
静謐にさえ思える薄闇の中で、自分だけが知っている筈の問いを投げかけた。
「夢の中で、君も?」
「そうだ」
これ以上話してやる気は無いが、それだけ知ればもう充分だろうという意図を含めて視線を向ければ、スザクは甘える様にルルーシュの肩口へ頬を寄せながらふふ、と笑った。
「うん。それは、僕にも解らないけど……でもきっと、安心したかったからだと思うよ?」
「そうだな」
スザクの答えにゆるりと頷きながら、ルルーシュは思った。
今夜は思いがけず、随分綺麗なものを見た。
(だったら、俺はせめて、この痛みだけでも覚えておく事にするさ)
自分の本性が悪なのだと思い知るのは、例えばこんな時だ。
嫌でも気付く。見せ付けられる。脳裏に浮かぶ妹の姿。これだけが自分に残る人間性であり、この世と自分とを繋ぐ最後の縁。そんな風にさえ思えてくる。
こうして何かを考える度に、自分の中に残る善性など、疾うに一つきりでしかないのだと。
(いつもそうだ)
冷静を通り越した冷酷な一面に気付く度、そんな自分自身に派手に傷付く。
「これで気は済んだか?」
「まだ聞いてない」
「何を」
「君が出かけてる理由」
もうとっくに拘束を解いているのに、スザクはまだ強情を張るつもりの様だ。
「頑固だな。呆れた奴だ」
根負けした風に見せかけながら、ルルーシュは天を仰いだ。
(確かに、こうして繋がれた手の方が、さっきみたいにされるよりは遥かに拘束力が強いのかも知れないな)
北風と太陽。ふと、そんな言葉が頭を過ぎった。
命令よりも懇願を欲する。それもまた、本性の一部なのだろうか。
「俺にはごめんと言ったくせに」
言外にずるいと責めながら、余った片手でスザクの頭を撫でてやれば、犬が懐く様にすり、と鼻先を寄せられる。
耳元にスザクの吐息がかかる度、ぞくりと体に震えが走った。乗せられた顎で剥き出しの首筋を辿られる感覚にも、不思議と嫌悪を感じない。
「我侭言えるのは、君にだけだから」
甘やかな声で囁かれると、頭がぼうっとする。
脳髄が痺れる様なスザクの声。倒錯した感覚に溺れそうになり、ルルーシュは堪えるように瞼を閉じた。
「そうか……。なら、仕方ないな。……でもお前、僕を甘やかしてもいい事は無い、とか何とか言ってなかったか?」
「うん。それは本当」
このままではほだされてしまう。駄目なのに。
(ああ……。俺は本当に、こいつにだけは弱いな)
折角一度は主導権を握れたと思ったのに、とことん勝手なスザクにだけは結局立場を逆転されてしまう。
「……でしょ?」
同意を求めてくるスザクの髪が首筋にかかった。ふわふわした栗毛がくすぐったい。
(振り回されるのは嫌なのにな)
しかし、スザクが相手では、最初から勝負はついている。
あまりにも正直過ぎて笑ってしまうが、君にだけ、と言われてしまえば、もう負けてやる他無かった。
「そうかもな」
溜息混じりに肯定してやれば、確信犯的に笑ったスザクがぐいっと距離を詰めてくる。ぴったり重ねられた胸と胸の間で、ルルーシュは互いの鼓動が重なる音を心地良く感じていた。
(俺もヤキが回ったな)
正直、そういうのは嫌いじゃない。……寧ろ好きだ。甘えられるのは。
「酷い奴だ」
「うん。でも責めないで?」
「仕方の無い奴だな。お前は……」
「そうだね」
男二人で、何をやっているんだか。まだ残る理性的な部分が、限りなく沸いた思考の片隅で囁く。
(涙が出れば良かったのに)
せめて嘘泣きでも出来れば、まだ違っていたのだろうか。
再び二人の間に引かれてしまった線を悲しく見つめながら、ルルーシュは一人と一人で二人では無く、二人で一つになりたいと思う人の業を思った。
「なあ、スザク」
「ん?」
「お前、俺が好きか?」
「うん。好きだよ」
鼓膜にじわりと滲み、広がっていくスザクの声。――どうしようもなく、この声が好きだ。
(何を考えてる。俺は……)
どういう意味の「好き」かなど聞くまでも無い。
……それなのに、たった一言聞いただけで、あっさり覚悟が決まってしまった。
「そうか。俺もだ」
「うん。有難う」
「だから俺は、今から、人生で一番頭の沸いた事を言うぞ」
「……え?」
顔を上げてきたスザクの頬に掌を這わせたルルーシュは、薄く開かれた口の端にそっと唇を落とした。
絶句しているスザクに構わず、そのまま二度、三度と唇を重ねてみる。
(こちらから歩み寄ったのに、一度ならず二度までも拒んだ事、必ず後悔させてやる)
スザクの都合など最早知った事ではなかった。意趣返しくらいさせて貰わなければ、到底割に合わない。
「ルルー、シュ……?」
呼び掛けられる声に、察しろよと思う。まだるっこしいのは好きではない。
「このまま眠ってしまったら、朝起きた時、どんな顔をしてお前と向き合えばいいのか解らないからな」
「……………」
「どうせ今から寝ても、二、三時間しか眠れない。お前の所為で寝不足決定だ。……だから、付き合え」
不敵な笑みを浮かべながら畳み掛けてみれば、スザクは明らかに困惑していた。
ぱちくりと目を瞬かせているスザクが、次に何を言うのか楽しみだ。
(駄目だなんて言ってみろ。絶対にぶん殴ってやる)
頭の固いスザクの事だ。貞操観念云々言い出しかねないが、体力差がある事などこの際どうでもいいとルルーシュは思った。
殴るどころか、ベッドから蹴り落とした時点で永久追放だ。もう二度と家になんか入れてやるものか。ナナリーにだって合わせない。学校でも無視だ。
答えないスザクに内心焦れながら、首を傾けたルルーシュはもう一度確認の意を込めてスザクに尋ねてやる。
「……意味、わかるよな?」
不遜な口調で問いかけてみると、それまで茫洋としていたスザクの目がすっと細まった。
「後悔しない?」
経験があるらしいスザクは、見事に空気を読んだ。
(上出来だ)
こちらに引く気が無い事を悟ったのだろう。
普段は空気など全く読まないくせに、動物的な本能や勘の鋭さにかけて鋭い辺りはさすがだな、と舌を巻く。
「自分でも酔狂の極みだと思ってるさ。だが、後悔なんかするつもりは無い。相手が、お前ならな」
スザクが話してくれるまで待てないと叫ぶ自分が居る。
(欲しいものは、欲しいんだ。欲が深いんだよ、俺は)
交わす言葉に限界があるというのなら。……どうしても解り合えないと、いうのなら。
「この身体ごと、半分はお前にくれてやる。有難く思えよ」
「半分?」
聞き返してきたスザクの首に腕を回しながら、艶然と笑んだルルーシュはベッドに横たわった。引き寄せられるまま覆い被さる体勢になったスザクが、体重が掛からない様ベッドに掌を付く。
横目で眺めたその手も取り上げ、首に絡めるよう誘導すると、少し迷ったスザクは腕枕をする様に首の裏側へと腕を差し込んできた。
「そうだ。半分だ。もう半分は、俺とナナリーのものだからな。全部寄越せと言うのなら、お前も俺に捧げてみせろ。それがルールだ」
「……………」
「だがな、スザク。お前がそれを望まない事くらい、俺も解った上で言っている。だから精々優しくしてくれ。……先に言っておくが、俺は一応初めてだ」
女を抱いた事は勿論、男に抱かれた事も無い。そう告げてやれば、スザクは少なからず驚いた様だった。
「只の友達じゃなくなっちゃうよ? それでもいいの?」
眉を寄せながら心配そうに言う反面妙に冷静だが、瞳の奥には見た事も無い色がゆらゆらと燻っている。
(そんなツラをしながら言う事か)
笑い出したくなるのを辛うじて抑えたルルーシュは、わざと音を立てながら首の裏に回されたスザクの腕に口付けた。
思わぬ面を見たとは思うが、悪くはない。例えどんな形であったとしても、欲されていると解るのは酷く気分が良かった。
「構わない。それに、お前は俺に恥をかかせたりしないだろ?」
一歩も引かない意思を秘め、誘う眼差しをスザクに向ける。
望むところ、どころか、寧ろそれこそが望みなのだと言ってやったらスザクは驚くだろうか。
(断るだなんて許さない。逃げるというなら、力尽くでも手に入れてみせるだけだ)
そう。例え、どんな手段を使っても。
(やってやる。仕掛けてやるさ。俺からな)
何故なら、それが自分だからだ。
裸にして縛り付けておきたい位の執着にさえ自ら背を向けようというのなら、後戻りなど出来なくなるよう退路を断つまでだ。気付いて煩悶すればいい。自信はなくとも、幸いプライドだけなら叩き売る程有り余っている。
「本当に、いいんだね?」
「当然」
同性だから、友達だから、何だというのか。引き返せない道を進んでいるなんて今更だ。
(だったら、この歪な関係ごと、全て飲み込んでやる)
既に人ならざる道を歩んでいるのなら、せめて悪魔らしく。この混沌とした心の中で、丸ごと溶けてしまえばいい。
(俺は、欲しいものは絶対手に入れなきゃ気が済まない主義なんだよ)
業も深ければ欲も深い。そんな事はとっくに自覚していた。
互いの顔に吐息がかかる程の至近距離で、付き合わせた鼻先を戯れの様に触れ合わせてみる。
絡んだ視線に篭る熱の存在に気付いた先は、もう、言葉は不要だった。吸い寄せられる様に目を閉じれば、互いの間に開いていた距離が完全に消滅する。
「………っ!」
先に仕掛けてきたのはスザクだった。
噛み付く様に口付けられ、割られた口腔内を好き勝手に舌先で荒される。深く唇を重ねては舌を絡め取られ、角度を変えて口付けられる度に互いの唇から湿った水音が響いた。
残る理性をも根こそぎ奪われそうな口付けに、たちまち全身から力が抜けていく。
「う……っん! ……ふ」
絡めた舌を引き抜かれる程強く吸い上げられ、くぐもった呻きが喉から漏れた。
電流でも流されたのかと思う程強い快感が背筋に走る。自分から仕掛けた事とはいえ、既に羞恥で死にそうだ。
舌先でしつこく口腔内を嬲られているうちに、くだけた腰から下が妙に疼き始めた。
(溺れそうだ)
身体の奥からぞくぞくと這い上がって来る甘い疼きに胸を震わせながら、ただそれだけを思う。
繰り返される口付けに拙い動きで応えていると、弛緩していく下半身とは裏腹に、まだ誰にも晒した事の無い中心にゆるゆると熱が集まっていく。
「ふ………ぁう」
一際きつく吸い上げられ、絡め合った舌先がじんと痺れた。
どちらからともなく漏らされた切なげな吐息が、開かれた互いの唇の間で混ざり合う。
ようやく開放されたというのに、いざ離れてしまうと物足りない。離れていくスザクの舌を名残惜しげに目で追えば、視線に気付いたスザクが情欲を滲ませた眼をこちらに向けてきた。
「ルルーシュ……それ、無意識?」
「………!」
物欲しそうな顔に見えたのだろう。ハッと気付いたルルーシュの頬にさあっと朱が走った。
慌てて顔を背けてみるも、半開きになっていたらしい唇を親指で撫でられ、また元の方向に引き戻される。
「そんな顔するんだ?」
「わ、悪かったな……」
「ううん、ちょっと驚いただけ」
熱を帯びたスザクの囁きが心地いい。いつもよりトーンの低い声に異様なほど欲が煽られる。
お前こそ、と言い掛けて止まってしまった。カチリと合わせられた視線に、それ以上何も言えなくなる。
「唇、赤いね……。口、もっと開いて?」
一瞬躊躇ってからおずおずと口を開き、チラリと舌先だけ覗かせてやれば、誘われた様に顔を寄せてきたスザクがきゅうっと吸い付いて来た。
「んぅ……」
返す声が飲み込まれ、言葉にならない。
熱に浮かされた様に口付けを交し合いながら、ルルーシュは背中に回した腕に力を込めた。
突っ張った足が浮いた僅かな隙間を見逃さず、スザクは膝裏に掛けた足で大きく股を開かせてから身体を割り込ませてくる。
重ねられた体の重みで上がった息さえ飲み込む様にぴったりと唇を塞がれ、閉じた目の縁に涙が滲んだ。
「んん……っ、ぅ!」
緩やかに撓った腰の下へと滑り込んだスザクの手が、寝巻きの内側に入り込んでいく。
素肌越しに広がる体温が生々しい。丸みを帯びた臀部を伝い、尻の割れ目に沿って這わされた掌で内腿をぞろりと撫でられると体にぞくりと震えが走った。
「う、ぁっ……!」
ビクンと跳ねた体を抑え付けようと、スザクが体重を掛けてくる。
内腿をまさぐる掌と反対の手でしっかりと顎を固定され、口を閉じる事さえ適わない。もどかしげに腰を捩れば、察したスザクが下半身を覆っているズボンをゆっくり足から引き抜いた。
上半身に纏っていた着衣にも手が伸ばされ、焦らす様に一つ、また一つとボタンが外されていく。
「ふっ……んぅ」
乱れた息を整える間もなく与えられ続ける口付けに、意識が朦朧とした。
(頭が……くらくらする)
慣れているのかと思えば少々癪だが、経験が無くとも巧みだと解るキスだった。じんと痺れた唇ごと舐め上げられ、また深く入り込んでくる舌にどこまでも翻弄される。
「んぁ……っ」
乱れた襟元から覗く首筋を突然強く吸われ、陶然となったルルーシュの鼻から抜けるような吐息が漏れた。
きつく吸い上げてはねっとりと舐られる度に、頭の芯から正常な思考の全てが抜け落ちていく。
不意打ちの様に上向いた顎の裏や反対側の首筋までも舌でなぞられ、過ぎる刺激に閉じられている筈の視界が白く染まった。
「ルルーシュって、何だか凄く、いい匂いするよね……」
耳元で囁くと同時に、スザクは耳朶と耳の内側まで舌先で嬲ってくる。
「ひ、ぁ……そゆこと、い、うな……! 馬鹿ッ!」
「ここも、あと、ここも。凄くいい匂いだよ」
「―――ッ!!」
耳の裏をちらちらと擽っていた舌先で項まで一気に舐め下ろされ、全身がビクビクと痙攣した。
思うように言葉を紡げないまま、再び重ねられた唇で続く声まで封じられ、行き場も無い程追い詰められたルルーシュは布団の上で身も世も無くのたうった。
「駄目だろ、逃げちゃ」
抱き込む様に回された腕でがっちり腰を固定され、逃げを打つ身体が易々と捕らえられる。
会話の合間でさえも縫う様に歯列をなぞられれば、身の裡にじっとりと溜まる快感が更に膨らんでいく様だった。
不意に、スザクの手が肌蹴た胸元へと伸ばされる。
「ひぁ……っ!」
つんと尖った胸の突起を軽く捻られた瞬間、信じられない程の快感が体中を駆け抜けていく。
「やめろ! そんな所……っ!」
「どうして?」
慌ててスザクの手を払い除けようとしたが、逆にぞんざいな手付きで跳ね除けられてしまう。
「う、く……っん、んん……あぁ、ぁっ」
尚も甚振る様に摘んだ胸の突起を何度もこりこりと押しつぶされ、耐え切れずに上擦った声が漏れ出した。断続的に甘やかな刺激が背筋を走り抜けていく。
(女じゃあるまいし、冗談じゃない……!)
はしたない喘ぎなどこれ以上聞かれたくない。
口元に翳した手の甲を強く噛んで何とか声を噛み殺そうとするものの、伸びてきたスザクの手に手首を取られ、呆気なく口元から外されてしまう。
「な、にする……っ!」
「声、我慢しないで」
抗議の声など物ともせず、スザクはしつこく胸ばかり弄ってくる。
「……っ、あ、くっ……!」
首を振ってやり過ごそうとしても、漏れる喘ぎは噛み殺しきれない。
「ほら、ちゃんと聞かせて?」
たった一点から齎されるじくじくとした疼きは、やがて漣の様に全身へと広がっていった。
(も、駄目だ……!)
本格的に身体が変だ。理性で声を止めようと試みても制御が効かない。
「あぁ、や……や、ぁ……も、嫌だ、や、めろ、スザク……!」
荒い呼吸の所為で合わない顎がガクガクと戦慄き、開きっぱなしになった唇から絶えまなく和えかな喘ぎが漏れる。
胸の突起を弄るスザクの手を止めようと、ルルーシュは必死で抵抗を試みた。
既に袖しか通していない着衣の間は完全に肌蹴られ、用済みになったズボンが衣擦れの音を立てながらベッド下へと落とされる。
裾が左右に寛げられて露になった胸元に圧し掛かると、スザクはまだ残る指先の感触も去らないうちに、今度は薄く色づいた部分を舌先で攻め始めた。
「ひぁ……っ! あ、ああぁっ!」
「ルルーシュ……。もしかして、ここ感じるのは変だとか思ってる?」
呆れた様にクスリと笑ったスザクが、今まで捏ねていた突起を指先でぴんと弾いてくる。
「あ……ッ!!」
「敏感だね」
突然与えられた強い刺激に耐え切れず、ルルーシュの身体が大仰に跳ねた。
ようやく離された唇に息を切らしながら見上げてみれば、露になった腹部に手を這わせながら、スザクがじっとこちらを見下ろしている。
「後悔しない? って、聞いたよね」
「はっ……してる訳ないだろ……。俺から誘ったんだぞ」
切れ切れに息を荒げながらルルーシュは毒吐いた。
肌に直接外気が触れているのに、身体は寒いどころか、どこもかしこも燃える様に熱い。触れられた箇所から伝わる熱で、身体の内側から溶けていきそうだ。
「うん。僕も……やめろって言われても、もう止まれないから」
唾液に塗れた下唇をぺろりと舐めながら、スザクが改めて宣言する。
「一応、言っておくね?」
「――――っ!!」
腹部を伝う掌が下着の中へと差し入れられた瞬間、今度こそ耐え切れないほど激しい羞恥に襲われた。
真っ赤に染まった顔を覆う腕の下で、ルルーシュは観念した様に瞼を閉じる。強気に出てはみたものの、身構える間も無く強張る身体だけは隠しようが無い。
獲物を狙う猛禽の目に射竦められ、身体が竦んだ。