◆二.五次元の君(R15)/SAMPLE◆




 ルルーシュはピカピカに磨き上げられた重箱を取り出して、手際よく出来上がったばかりのおかずを詰めていく。この重箱はスザク専用のものだった。成人男子の食欲は弁当箱程度のサイズでは決して補い切れない。
 スザクの好物のうちの一つは納豆で、昨日リクエストされたのはあろうことか納豆巻きだった。カットしない方が食べやすいので切らなくていいと言われても、ルルーシュは正直言ってあれだけは触りたくない。ついでに言えば匂いも受け付けないのでパックさえ開けたくなかった。
(俺の苦手なものくらい覚えておけよ、朴念仁が)
 なるべく安価なものをという気遣いは解るのだが、自分の食事を作るついでだと申し出たのはルルーシュの方だ。
 昔からスザクはそうだった。大雑把で天然、異様に勘が良いくせに肝心なところだけ鈍感だ。幼馴染の好き嫌いくらい把握していてもよさそうなのに、とルルーシュは恨めしく思いながら弁当用のアルミホイルを手に取った。
(確かに、栄養価は高い)
 でも偏るのはまずい。そう判断したルルーシュは重箱の上段に野菜を多めに入れ、ついでに巻きすとひきわり納豆をパックごと鞄の中に放り込んだ。大き目のお握りを三つ作り、そのほかに炊きたてのご飯で作った酢飯を使い捨てのポリパック二つにたっぷりと盛っておく。半分にカットした海苔を軽く炙って包装用のフィルムに数枚入れておき、密封し終えたところでタイミング良くだし汁入りの鍋が沸いた。次は味噌汁作りだ。
 二人は生まれた頃から一緒だった。家が隣同士で幼馴染、遡れば幼稚園の頃から進学先まで一緒。生徒会副会長のルルーシュと、風紀委員のスザク。つかず離れずな関係は高校卒業後も続き、今のルルーシュは大学生、スザクは駆け出しの漫画家だった。地道に投稿を続けてやっとデビューし、担当が付いたのはついこの間のこと。将来プロとしてやっていくと告げたら親に大反対されてしまい、学業と両立出来なくなるからと止めさせられそうになって家を飛び出した。
 もちろん仕送りなど期待出来る筈もなく、卒業までに連載が決まらなければ諦めるという条件で、辛うじて一人暮らしが許されたらしい。おかげでバイトを掛け持ちしていても収入が安定せず、スザクは安アパートで絵に描いたような貧乏暮らしを送っている。
 調理器具どころかガスコンロさえない家。ルルーシュはまだ温かいうちに届けてやろうと、今日もまた鞄に三食分の食事を詰めて甲斐甲斐しくスザクのもとへと通うのだった。


「よ、スザク。進み具合はどうだ?」
「担当さんみたいなこと言わないでよ、お腹空いたよルルーシュ……」
 作業机の前に陣取ってスザクは一心不乱にペンを走らせていた。その声は死にかけだ。部屋を見渡せばアニメの設定資料集にラブシーンデッサン集、女体のモデル人形、極め付けに汚い。机の横には雑然と積まれた資料とネーム用紙、床にまでスクリーントーンが散乱している。
「お前……」
 幾らなんでもコレはないぞ、と苦言をぶつけかけたルルーシュにスザクが「うわきたっ!」と小さく叫ぶ。
「わかってる、わかってるよルルーシュ。でも今は無理、色々と無理……」
 ぶつぶつとうわごとのように呟くのでルルーシュはがっくりと肩を落とした。慣れてはいても嘆かわしいことだ、昨日片付けたばかりでこのザマとは。散らかす才能が並じゃない。
(俺がいないと駄目か)
 世話焼きの才能とセットであるべき、というささやかな自負に浸ってルルーシュは鼻を鳴らした。
「一段落したら食べろ」
「ありがと。このコマ終わったらね」
 その前にまず掃除からか、とルルーシュが腕をまくる。
 会話していてもスザクは勝手に入ってきたルルーシュへは一切目を向けない。修羅場の時はいつもそうだ。Tシャツにスウェット、額に黒のヘアバンドというラフにも程がある恰好で原稿に集中している。
 ペン入れの最中は特に神経を使うようで、わきまえているルルーシュは散らばったトーンを番号ごとにまとめて片付け始めた。振動が伝わらぬよう折りたたみ式テーブルの足をそっと伸ばし、スザクの生真面目そうな横顔を盗み見る。
(これ以上視力が落ちなければいいが……)
 小さいころ裸眼だったスザクは黒縁眼鏡をかけている。高校時代から常時外さなくなったそれは地味なデザインで、童顔のスザクに似合っているとは今でも言い難い。その野暮ったい眼鏡の奥に光る団栗眼の下には薄く隈が出来ており、昨夜もろくに睡眠をとっていないことが伺えた。
(服といい眼鏡といい、こいつは)
 顔の半分が隠れているというのに全く頓着していなさそうなのも大雑把だからだろうか。物心ついた頃から漫画一筋、ジョギングする時とバイトの時以外ほとんど外出せず、ルルーシュが見たことのあるスザクの私服は常にジャージか灰色のスウェット上下だ。またはどことなく薄汚れた感のあるジーンズと、オタク然としたチェックのネルシャツ。良くて二、三千円台のTシャツとGショックの腕時計。それが精一杯のお洒落だった。
 真っ白な蛍光灯の下、消しゴムとスクリーントーンのカス塗れになって机にかじりつく姿はお世辞にも格好いいとは言えず。それでもルルーシュは、ずっと前からそんなスザクへと密かに想いを寄せているのだった。

プロフ

夕希(ユキ)

Author:夕希(ユキ)
取扱:小説・イラスト・漫画

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