Where am I going? (8月18日インテ無配ペーパー)
※スザユフィ好きな方はご注意下さい。
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「ルルーシュ。僕はもしかしたら、女の子に興味がないかもしれない」
「…………」
クラブハウス内、リビング。
俺にどう反応しろと言いたいのかわからないが、スザクは椅子に腰かけて一息つくなり突然こう切り出した。
何かあったんだろうか。まさか体育着にらくがきをしていた奴らの中に女子がいたのか。それとも規律の厳格な軍にいるうちに、まともな感覚が麻痺してしまったのか。その時、俺の頭の中では七百十一通りのパターンが勢いよく駆け巡っていた。何も言えずに固まっていると、じっと俺の反応を窺っていたスザクが僅かに眉を下げて「あ……」と後ろめたそうな顔をする。
「ごめん、ホントはこんなこと言うつもりなかったんだ。でもなんか、君と会ったら気が緩んじゃって」
はは、と乾いた笑いを漏らしたものの、スザクの言葉はそれ以上続かない。テーブルを挟んで座る俺もどう応えればいいやら解らず、ただ低く唸ることしか出来なかった。
手指を組み、申し訳なさそうにしていたスザクの目元が陰る。俯きがちになった顔が上げられた時には何故か目が据わっていた。それがとても不吉というか不穏な兆候に思えて、ごくりと喉を鳴らしてから俺も唇を開く。
「あのな、お前に何があったか知らないが――」
「ルルーシュ」
「はっ――?」
唐突に呼ばれて背筋が伸びる。この切羽詰まった空気は何だろう? スザクは酷く思いつめた様子で拳を握り、俺を凝視したままゆらりと立ち上がった。
「これから言うことをよく聴いて欲しい―――あのね?」
「待て」
「えっ」
制止したのは直感からの行動だった。ここで好きに喋らせるのはまずい気がする。理性的な判断ではないぶん本能というのはあまりアテにならないものだが、ことスザクに関する嫌な予感だけは外れない自信があった。
「まあ座れ、話は聞く」
「…………」
スザクは鋭い目付きを俺に向けたまま大人しく座りなおした。――よし、それでいい。
「とにかく落ち着け。いきなり本題に入る前に、まずどうしてそう思ったのかだけでも聞かせてくれないか? 話が読めない」
「あ、そうだね」
スザクの顔から物騒な面がスルリと剥がれ落ちる。論理的に説明するのがこいつはあまり得意じゃない。どう筋道を立てて話すべきか迷っているようだったが、再び意を決してこちらを見る表情から迷いは既に消えていた。うん、と一人頷き、スザクが深く息を吸い込む。
「誤解しないで聞いて欲しい。僕が、ユーフェミア副総督の騎士になったことは君も知っていると思う」
「ああ」
「それでね? 彼女はルルーシュの、君の妹だろ?」
「腹違いだけどな」
「うん…………でね? 彼女にはどうやら、好きな人がいるらしい」
「好きな人?」
「だから、ええっと……。それは、僕かもしれない。そういう意味で」
「…………」
解るよね? と上目遣いで訊ねられ、とりあえず曖昧に頷いておく。
確かに、好意がなければわざわざ自分の騎士に採りたてたりはしないだろう。信頼度も重要視すべきだが、それを言うなら俺だって………。
まあ、好意といっても色々ある。
「憶測じゃないだろうな。本人に直接そう言われたのか?」
「言われてはいないけど、多分間違いないと思う」
自信ありげに話すスザクは真剣そのものだった。『多分』なのか『間違いない』のかどっちなんだ。そう訊こうとしたところで、溜息をついたスザクが暗い表情で肩を落とす。
「僕はね、ルルーシュ。彼女にはもっとふさわしい相手がいるし、その人と幸せになって欲しいと思っている。……いや、本当はそこまで考えること自体おこがましいんだ。僕は名誉ブリタニア人で、イレブンで、今まで恋愛という目で誰かを見たことはない……本当は人を好きになっていい人間じゃないから」
最後の一言でぎこちなく視線を逸らすスザクに、つい俺の表情も曇る。
「その話がどうなったらさっきの話に繋がるんだ」
不機嫌になりつつ尋ねると、スザクはどこか寂しげに微笑んだ。両の拳を握りしめ、痛々しく瞼を伏せ……。そして、スザクは自己嫌悪の滲む笑みを消して正面からひたと俺を見据える。
「だから、ユフィも僕なんかを選ぶべきじゃない。哀しいことだよ。だってそれは、僕みたいな人間がユフィの心を奪ってしまうってことだろ?」
まっすぐな瞳を前にして『卑下するな』とは言えなかった。……いつも相手のことばかり。お前の本心はどうなんだ?
ユフィの心を奪いたいのか、問い質したくても無闇に口には出せない。それに、選ぶべきじゃないと言うならどうして――。今からでも遅くはない。難しくても不可能ではないだろう、ナナリーと俺の隣に戻ってくることは。未練が責め立てる想いに変換されていくのを押し殺して、何とか首を振る。
「ユフィの気持ちだ。お前がどうこう言ったって……」
「それは解ってる。でも――」
「?」
話を遮られて瞬く俺へと、テーブルに肘をついたスザクが身を乗り出してくる。
「なあルルーシュ。君とシャーリーのことを、訊いてもいいかな」
「シャーリー?」
何故そこでシャーリーが引き合いに出されるのだろう。疑問に思いつつ「ああ」と答えれば、スザクは中途半端な笑みを張りつけて複雑そうな面持ちになった。
「君が他の人と付き合っていることは知ってるよ。それで、シャーリーに好きって言われた時はどう思った?」
「す―――?」
何の話をしているんだ、こいつは?
思考がストップすると同時に、記憶を消す寸前のシャーリーの叫びが蘇ってチクリと胸が痛んだ。
「どうかした?」
「ん?」
「ルルーシュ顔色悪いよ。大丈夫?」
「いや……何でもない」
「本当?」
心配そうにされたので適当に頷くと、ちょうど目を合わせたところで苦笑を返される。
「喧嘩中だっけ、仲直りはした?」
「さあな。それより話は?」
「うん………君が女子にモテることも、好きな相手が複数いるってことも知っている。部屋に呼んでるんだろ? 緑の髪の女の子とか」
「とっ――!」
とか!? と言いかけて失敗した。間抜けな顔になっている、そう気付いて慌てて口を閉じた。自分の吐いた嘘を忘れていた訳では決してない。
スザクは詳しく問い返す間もなく話し続ける。
「学園では誰とも付き合っていないことにしているようだけど、君とシャーリーの仲は公認みたいなものだ。――でさ」
「あ、いや待て。今なにか誤解が」
「隠さなくていいって、ちゃんと黙っているから」
「そうじゃなく!」
「いいよ。シャーリーのことも気になってるんだろ? 無理もないよな。特に、彼女はどう見ても君が好きだし……。ちゃんとした告白はもうされた? 言われなくても、気付いてはいるんだろ?」
「――――――」
一方的にまくしたてられ、何かがおかしいと思いながらも言葉にならない。こいつの中では独自の思考回路が形成されている。腹立たしいことに、俺はかなり節操のない人間に分類されているようだ。スザクは訳知り顔で「早く仲直りしないと」と窘めてくる。そして、気遣わしげに眉を寄せながら小首を傾げた。
「えっと……あの、ルルーシュ。聞いてる?」
「聞こえてはいる」
「そう………それでね?」
「スザク」
「なに?」
きょとんとされて脱力する。これ以上勝手に話を進められてはたまらない。やたら滑舌のいい口を呆然と見つめているばかりだったが、ここで否定しておかないと後々もっと面倒なことになる。
「お前の勘違いだ。シャーリーには何も言われていない」
「そうなのか――? 意外だな」
台詞の合間にスザクの胸元がくすんと揺れる。意外だったら笑うのかお前は。人を混乱の渦に叩き込んでおきながら。
「俺に言われたって知る訳ないだろ。だいたい俺に好きな人が複数いるなんて、いつ誰に聞かされたんだ」
スザクは何事かを思案してから困ったように首を振る。
「だって、君はモテるじゃないか。さっきも言ったよ?」
「お前の勘違いだって言ってるだろ!」
「そうかな……いつの間にか彼女を作っていたし、部屋にまで呼んでる。きっと校内にも校外にもそういう相手が――」
「いない!」
「でも、彼女はアッシュフォードの子じゃないよね? グリーンの髪なんて」
「っ、それはだな……」
思い込みが強すぎてとことん噛み合わない。しかも、自分の吐いた嘘が原因なだけに弁解もしづらい。決めつけられて言いよどんでいると、再びクスッと笑ったスザクが柔らかい笑みを向けてくる。
「僕に遠慮してるのか……安心して? さっきも言った通り、今後も女の子と付き合うつもりはないんだ。だからユフィとも、なるべく立場を考慮した上で接しているつもりだった」
面映ゆくなりそうな笑みに中てられながら「なるほど」と思う。つまり、今後のユフィとの関係に悩んでいるということか。
たとえ空気が読めないとはいえ、スザクがここまで言うのだから本当なのだろう。……問題はこいつ自身の気持ちだ。好意を寄せられていようが自分の答えは決まっているというのなら、もし告白されたとしても断ればいいだけの話。しかし、そこで何故俺の経験について知りたがる?
「女に興味がないかもしれないと言っていたな」
「うん」
「ユフィと付き合うつもりがないというのは、それが理由でもあるのか?」
スザクはまた思いつめた表情に戻った。
「それなんだけど………軍属である上で支障さえきたさなければ、僕は性そのものに興味を失ってしまっても構わないと思っている」
「なっ――」
絶句する俺に労わりの眼差しを向けて、「僕は本気だ」とスザクは付け加えた。
「ユフィはルルーシュの妹だろ? だからルルーシュに相談しようと思って。もちろん、ユフィは女性としてとても魅力的な人だし、シャーリーだってそうだ。でも君は別の人と付き合っている……。そんな君なら、客観的に見て可愛いと思える女性に好意を向けられても何とも思わないものなのか、それとも付き合うつもりはなくても、やっぱり男として意識してしまうものなのか、参考になる意見を聞けると思ったんだ」
「お前……それは人として不自然だろう。三大欲求のうちの一つを失うんだぞ? 病気だ」
目を閉じたスザクは首を振り、諦めた声で呟く。
「僕はいいんだ、それでも…………ただ」
「?」
「ここで一つ、気になることがある。性そのものに関心が失せて、女性をそういう目で見られなくなっているだけならいい。でも今度は、同性に興味が出てくることはないかって」
「な、んだと……?」
喘ぐような声しか出なかった。さらりと言い放つことではない。
すごい勢いで喉が干上がっていくのが解る。けれどスザクは自分が突拍子もないことを言っているとは微塵も思わないのか、俺に言い含めるようにして淡々と説明し続ける。
「もしそうなってしまっているとしたら、性そのものに関心がなくなった訳じゃないことになるだろ? ――確かめたい」
どうやって。
そんな心の声が通じたようなタイミングで、スザクは一呼吸おいてから切り出した。
「君に頼みがある。僕に『好き』って、言ってみてくれないか?」
「………………」
若干眩暈がした。声が耳を素通りしていく――何を伝えても届かない。 胸を覆ったのは酷いショックと失望だった。マオとの一件以降、こいつが辛い過去を一人きりで抱え込んできたのは知っている。救われるよりも罰を求め、償いにその身を捧げるつもりでいることも。そして俺の、ゼロとして差し伸べた手をはねのけたこともそれが理由なのだと………でも。
「ルルーシュに言われても何も感じないなら大丈夫だろ。こんなことを言えば君は怒るかもしれない……でも君は、僕の最高の友達であると共に、僕の知り得る同性の中で一番の美形だ。並の女性よりもはるかに綺麗だしね」
だから頼むよ、とスザクは続けた。――――この、馬鹿が。
暫しの自失のあと、湧いてきたのは猛烈な怒りだった。別に綺麗呼ばわりされたからじゃない。死地に自らを追いやる生き方にも腹を立てていたが、どうして二度に渡ってこいつが自分自身を蔑ろにするところを見せ付けられなければならない? しかも、俺で試すだと? そんなことにこの俺が協力すると本気で思っているのか。
「断る」
きっぱり拒否すれば、スザクは「えっ」と問う形に開けた唇を無言のまま閉じた。気まずそうに下がっていく目線。けれど、そのままズルくやりすごそうとするでもなく、スザクは俺としっかり向き合ってから沈黙を破る。
「そうだよな……。ごめん、変なこと言って。本当は違うとはいえ、男相手に『好き』って言わされるのなんてやっぱり嫌か。忘れて?」
「そうじゃない」
その諦めきった態度に腹が立つんだ。それに。
『君に「好き」と言われても何とも思わない』
もし、そんな風に言われてしまったら……?
「ルルーシュ?」
スザクが不安げな目を向けてくる。まるで捨てられた子犬のような――。いや、捨てられてしまっても仕方がないと思っているだけかもしれない。覚悟しているのでもなく、ただそうなってしまっても構わないと。
どうせスザクは誰からの好意も受け取らない。そう思うと、ひたすら虚しくなった。こいつに受け取るつもりなど最初からないのだ。だったら、伝えたところでフラれる心配もしなくていいってことだ。この先もずっと……。
うっすらと自嘲の笑みを浮かべた俺を見て、スザクは少しほっとしたようだ。
「お前は本当に無神経だな」
改めて告げてやれば、スザクがはっと目を瞠る。
「不快にさせて悪かった、謝るよ」
「まだ解ってない」
「え――?」
俺が睨んでいるからか、スザクは単に怒らせただけだと思っているようだ。謝罪の言葉と一緒に下げた頭をぴたりと止めて、おずおずと上げた顔に戸惑いを浮かべている。
「そんなの、本気でお前のことを好きでもない奴に言われたって、何とも思わないのは当然だろ」
「うん」
「で……? もし俺が、お前のことを本気で好きだったとしたらどうする?」
「――――――」
今度はスザクが固まる番だった。大きな常盤色の瞳を零れ落ちそうなほど見開いている。相手が俺だったから良かったようなものの、本当にスザクのことを好きな女に言わせていたとしたら、それはスザクにとっては良くても………多分、俺が嫌だ。
ぱちくりと瞬いたスザクは呆けていたのが嘘のように、あっさりと真顔に戻った。
「ルルーシュ……。それ、本当?」
「冗談に決まってるだろう」
怒りもあらわに吐き捨てる。本心を伝えるつもりはない、この先も。だからこれは、ただ『こういうケースも想定しろ』と促してやっただけだ。
しかし、スザクが示した態度は俺の予想とは全然違っていた。一言「冗談」と呟いて、ワントーン低い声になって訴えてくる。
「女性に興味がなくなったのは、僕はもしかしたら、他にも理由があるんじゃないかと疑っている」
「理由?」
スザクは頷きも瞬きもせずまじまじと見つめてきた。
「あと一つだけ、別の可能性が」
「…………?」
ひっそりと眉を顰めながら、『この俺に気付けない可能性が?』とひとりごちる。常に俺を俯瞰しているもう一人の俺が、心のどこかでスザクに気持ち悪がられなかったかと気にしていて――だから、上の空だった。
「――――す、」
いつの間にか真隣に立っていたスザクがふっと微笑んでいて、離れていくその唇がたった今、自分の唇に触れたのだと解るなり頭が真っ白になった。
「…………なんで」
「ん?」
屈みこんだスザクがゆるりと首を傾げる。冒頭で感じた不穏な気配。作為の欠片もなさそうな笑顔で覗き込まれているのに、どうしてだろう。こいつの目元がこんなにも暗いのは。
「性欲が消えたならそれでもいいと思ってた。誰に好意を向けられてもそういう目では見られないし……。だけど、前々から不思議だったよ。どんなことであっても、僕の興味や関心が向く相手はいつも君ひとりだけだと」
「………………」
呆然としている俺を余所に、スザクは軽く鼻を鳴らした。そして諦め切っているようないないような、それでいて開き直った口調でぼそりと尋ねてくる。
「それってさ、『もう好きな人がいるから』かもしれない。………どうしたらいいかな、ルルーシュ?」
テーブルに付いていた手を離して、スザクは俺の手をそっと握った。見上げてくるその表情は「捨てるって言うなら噛み付いちゃうよ?」という、猛犬の顔だった。
.:*゜..:。:.:*゜..:。:. ・゚・☆・゚・。★**.:*゜..:。:.:*゜..:。:. ・゚・☆・゚・。★**・゚・.:*゜..:。:.:*゜..:。:
……手遅れでした。という話。
元ネタはコブラのブックレット、もといRRRスザクさんです。
ほんとはスザクさんのバースデーにUPしようと思っていたのですが、
スザユフィDisってんのかと思われそうな内容だったので躊躇してしまって。
性欲なくなってもいい、って思ってはいないでしょうけど、とにかく私にはこんな風に見えたという。