正反対という才能


(何故、俺たちは正反対である必要があったのだろう)
 雲の上からスザクの姿――かつて、枢木スザクという名だった男の姿を見下ろしながらルルーシュは思った。
 昔から、あいつは俺がいいと思ったことと正反対の方向にばかり行く。俺の言う通りにしていれば間違いないのに。あの行政特区に参加しないかと言いに来た日だってそう思っていたし、怒っていたし、何より酷く悲しんでいた。損得勘定では人は付いてこない、などと訴えられて頷く奴があるものか。『失敗すると分かっているところにみすみすお前を行かせることはできない』。そう否定した自分のことを、あの時スザクはどう思ったのだろう。
 スザクが恐れていたものは、ただ立ち止まって手をこまねいてしかいられない自分だ。何かを成さねばならない焦りならよく知っていた。そのための犠牲など厭わない覚悟で動いていたから、失敗の可能性の方がはるかに高かろうが、命を奪うことにも自分の命を失うかもしれないことにも躊躇はなかった。一介の学生が吠えたところで、どうせ世界は変わらない。『死んでいるのに生きている』と自分に嘘を吐いていた頃がルルーシュにもあったのに、解ってやれなかった。
 悲しいということは怒っているということだし、怒っているということは悲しんでいるということなのかもしれないとルルーシュは解りかけていた。けれど、腹がたって腹がたってどうしようもなかったので、自分のそんな気持ちには蓋をして、無視をした。
 特区は失敗する。何故なら俺が一計案じるからだと言った訳ではない。だが、たとえルルーシュが自分の目的のために阻止しようとしなかったとしても、ゆくゆくは利用されるだけされてから潰されていただろう。
 理由もないのに一つの属領だけ特別扱いすることは出来ない。あの計画に許可を出したのはシュナイゼルで、シュナイゼルにはシュナイゼルの目的があった。ユフィはルルーシュと同じことをして我儘を通したが、ユフィもユフィ自身の目的を叶えるために生きていた。共感したスザクとて、同じではないのか。
(お前の目的はどこにある?)
 昔からスザクはそうだ。――そうで、あった。けれど、今のスザクはまるでルルーシュになり切ろうとしているようだった。今のゼロはスザクなのに、やはりルルーシュと同じには振舞えない、僕じゃ本物のゼロには届かないと、とげとげした黒い仮面の下でいつもぼやいている。
(俺はお前がいいと思う通りにしろと言ったのに)
 これからの世界はお前が導け。ルルーシュはスザクにそう言い残して死んだ。だから今のルルーシュは、なんとも微妙な気持ちでスザクの動作を見守っていることしか出来なかった。
(だいたい何だ、その腰の動きは。お前は俺じゃないんだぞ、演説する時の身振り手振りまで真似しなくていい。今は戦時中とは違う、平和を目指す時に突き上げる拳など必要ない。あいつに余計なことを吹き込んだのは誰だ、C.C.か?)
 ――いや、スザクは自分の意思でルルーシュを模倣しようとしている。模倣には限界が来る。いつか誰かに見抜かれる。そんな当たり前のことにさえ気づきもせずに。
 正しくはこうだ! と口にこそ出さなかったものの、ルルーシュは一人ポーズを決めてからハッと我に返った。辺りには誰もいない。鋭くツッコミを入れてくるC.C.もいなければ、ルルーシュより先に逝った筈の人達でさえ一人もいない。それなのに、ルルーシュは人目を憚るように周囲をそろりと見回して、少しだけ肩を落とした。
 なぜ雲の上にいるのか。それはルルーシュにも解らない。気付いたらここにいて、他に行ける所もなさそうだからずっとこうしている。毎日毎日、飽きもせずに見下ろしているのだ。ルルーシュになり切ろうとしているかのような、無駄というよりはズレた努力を重ねているスザクの姿を。
 スザクには昔とは違う敵がたくさん出来た。仮面をかぶっているのが枢木スザク――だった男、だとは奇跡的にバレていないようだったが、祖国の民から奸賊、逆賊などと呼ばれなくなった代わりに、世界各地に敵が散らばるようになった。中にはルルーシュの名を叫びながら襲いかかる者もいる。そして、スザクにとってはそれが最も堪えるようだった。
 もちろんスザクは泣きもしないし笑いもしない。死んだように生きろと言った訳ではないのに、心が半分死んでしまって良かったと思っている節さえある。しかし、スザクは公務が済んでから、仮面の下でよくルルーシュに零している。その時だけ、スザクはやっぱり枢木スザクのままのようにルルーシュには感じられた。どう聞いても腹を立てているとしか思えないスザクの言葉を聞くたびに、ルルーシュはやっぱり「怒るということは悲しいということなんだ」と再確認する。
(昔の俺ならどう思っただろう?)
 演説を終えたスザクを狙う狙撃手がいる。三百メートルほど離れた所で光る銃口と、ゼロの服に身を包んだスザクとを見比べながらルルーシュは考えた。スザクは正しい。自分とは正反対の生き方を貫こうとするスザクをルルーシュは認めた。それは結果として自らの生き方を否定することにも繋がってしまったが、悔いはない。生きていた頃は何かと衝突したし、理想を押し付けがちだった。また、スザクに同意されることを当然だと思ってもいたけれど、ルルーシュは自分とスザクがまったく別個の存在で、だからこそあんなにも烈しく欲したのだともう受け入れていた。
 死してなお、受け入れられなかったのだとしたら問題だ。ルルーシュが軽く笑った時だった。銃口が火を噴いた。
 スザクは避けなかった。
(昔の俺ならどう思っただろう?)
 ルルーシュは再び考えた。胸に手を当てて、のけぞりながらスザクがうつ伏せに倒れる。
 『駄目だ、そんなの』――そう言っていたのではないだろうか。
 スザクがもう動かないことをルルーシュは知っていた。そして、自分がいる空にスザクも来られるかどうか、と考えてもいなかった。生きている人達の世界に、ルルーシュは干渉できない。
 果たして、あの時託した願いのどこまでをスザクは正しく理解していたのだろう? ルルーシュはそれも確かめたいとは思わなかった。昔から、あいつは俺がいいと思ったことと正反対の方向にばかり行く。ルルーシュは毎日毎日飽きもせずに、そんなスザクを見下ろしてきただけだ。だから……。
(あいつなりに、何かを全う出来たと思える人生だったなら)
 ルルーシュは横たわるスザクから目線を外し、淡く、かなしく微笑んだ。


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「こういうケースもあるかも?」と思って書いた、というよりは、
「もしこうなってたとしたら辛いな~」というパターンで書いてみました。

(`=ω=´)

……うん。
ルルーシュはどうなったとしても優しく抱きしめてくれるよ、多分。

プロフ

夕希(ユキ)

Author:夕希(ユキ)
取扱:小説・イラスト・漫画

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