甘い甘い、僕の恋人。 (スザルルSS・読切)

「空の箱に~2」より先に書き上がってしまったのでUPします(遅筆ですみません……orz)
現代パラレル第二段。EROナシですがタイトル通りでろっでろに甘い同棲すざるるですので、どうぞ砂吐かないように注意して下さい(笑)
「拝啓、黒猫さん」の続きも書きたいなぁ。


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 それはある日の夕食時のことだった。
 いつもは行儀が悪いとか団欒を楽しむのに邪魔になるという理由で、食事時にはテレビを付けないことが我が家での常識となっていた訳だけど、その日は食事の支度をする前から僕が見たい番組に釘付けだったこともあって、流れでテレビを付けていた。
 僕が見ていたのは最近流行りの健康系の番組で、家庭で役立つ医学知識なんかを専門家の人たちが解り易く説明してくれるバラエティー。
 ルルーシュはあまり興味無さそうにしていたものの、途中でそれは違うだのこれはああだの、ある意味専門家よりも小難しく解説に注釈を入れてくるので、僕は内心「ちょっと静かにしててよ、聞こえないよ」と思いながらもルルーシュの機嫌が悪くならないよう、一応生返事しながらテレビを見ていた。
 僕が真剣に聞いていないと勘付いたルルーシュは、構われないことが面白くなかったのかムッとしながら僕を睨んでみたり、わざと音を立ててパチンと箸を置いてみたり。僕にはその音がさながらイライラスイッチがオンになる音に聞こえた訳だけど、こうなったルルーシュをスルーし続けていると怒鳴られるか無言でテレビを消されるか、いずれにせよ喧嘩になる。
 多分「これだから食事時にテレビを見るのは嫌なんだ」と思っていたことだろう。ルルーシュはこう見えてとても寂しがりやだから、要するに僕をテレビに取られるのが嫌なんだ。
 頭のいいルルーシュはそれでも自分が少しうるさかったことにもちゃんと気付いて、今度はご丁寧にも専門家が話し終えたところで上手く注釈を付け加えてくれるようになった。
 僕も「うん、そうしてくれた方が聞きやすいよ」と口に出して言ったりはしなかったけれど、ルルーシュは「怒るより自分が話し方を変えた方が早い」と思っていたに違いないので、お互いそこには触れずに会話を弾ませていく。
「愛されているってこういうことなのかな?」
「何のことだ?」
 CMの最中ににっこり笑いながら僕が言うと、ルルーシュは照れたようにそっぽを向きながらも口元に微笑みを浮かべていた。
 そして、そらぞらしい口調とは裏腹に甘辛い味付けのきんぴらごぼうを取り分けて、そっと僕の皿に乗せてくれる。
「ありがと」
「おいしいか?」
「うん、とっても」
 何も言わなくても合わせて貰えるって嬉しいことだけど、当たり前のことでも何でもないから『釣った魚に餌をやらない』なんてことは僕はしたくない。そう思えるのは勿論、ルルーシュのこういった優しさに支えられているからこそだった。
 甘党なルルーシュと、どちらかというとしょっぱ党の僕。けれどルルーシュの作る甘めのこれが僕はかなり好きで、食卓に出される度にいつもモリモリ食べてしまう。
 ともあれ、CM明けに切り替わった番組のテーマは『酸化よりも怖い糖化』というもので、これはどうやら老化の原因になるものらしい。
 肌や体の老化に大きく影響するらしい『酸化』なら聞いたことがあるけれど、『糖化』というのは初めて聞く。ルルーシュもそうなんだろう。『抗酸化よりも注目すべき抗糖化』。その最新情報を、自他共に認める甘党のルルーシュは食い入るように見つめていた。
「ふん、要は取り過ぎなければいいだけだろう?」
 チェック項目には『クッキーやケーキなどの甘いものが好き』等、いかにもルルーシュ自身に当てはまりそうな事柄が並んでいる。当てはまったのは全部で四つだけだったくせに、どうやら気にしているらしい。
 元々食が細くて夜食など食べないし、丼物が好きかというとそうでもない。早食いでもなければ野菜の好き嫌いも無い――と考えたところで、そういえばルルーシュが嫌いな食べ物は僕の好きな納豆だったと思いつく。
「野菜や豆類が嫌いっていうのは、半分は当てはまるよね」
「うるさい」
「あっ、酷い!」
 にべもなく言い返されたのでしょんぼりした。僕はうるさいって思ってても口に出さなかったのに。
「別に当て付けのつもりで言った訳じゃないよ。そりゃあ朝の納豆ご飯と味噌汁っていう黄金率を君に崩されたのは事実だけど」
「あの匂いとネバネバが嫌なんだよ……まるで洗っていない靴の中みたいな匂いがする。でなければ体育会系部活動のロッカーみたいな」
 顔をしかめながら僕をチラ見するのやめてよルルーシュ。
「何だよそれ……まさか僕のこと言ってる訳じゃないよね」
「被害妄想だ。大体ナットウキナーゼって菌を発酵させたものだろう。菌類・細菌類はキノコとチーズ以外は認めない」
 発酵食品は体にいいのに、全否定された。
「……まあ、素直じゃないルルーシュほど素直な生き物はいないし、口のいいルルーシュほど口の悪い生き物もいないからいいか」
「何か言ったか?」
「ううん、何でも」
 ガサツな口調が丁寧になった時の方がルルーシュの口は数倍悪い。喧嘩の度に毎回凹まされてばかりだった頃から、見た目に反して案外ガサツなルルーシュと口先だけ丁寧なルルーシュってどっちがマシだろう? なんて考えたこともある。……ちなみに僕はガサツな方、つまり本性むき出しなルルーシュを好きになった。僥倖だ。
 豪胆に見える反面人見知りな僕の恋人は、慇懃と慇懃無礼の境界線を越えてからでなければ本当の意味では仲良くなれない。そして、一度心の底から「負けた」と思わされた相手以外は決して認めないという、とてもプライドの高い男なのだ。
「ねえルルーシュ」
「ん?」
「恋愛は惚れた方が負けって言うけど、本当に負けたのって僕と君、どっちなんだろうな」
「はぁ……?」
 あまりにも脈絡のない僕の質問にルルーシュはポカンとした顔をした。
「お前だろ?」
 続けて不敵にも口端を吊り上げながらニヤリとするので僕も言ってやった。
「違うよ、君だ」
「お前だって」
「いいや、君だ」
「根拠は?」
「だって、僕が本気出したら君は絶対敵わないだろ?」
「勘違いするな。それは俺がいつも勝たせてやってるんだ」
「僕だって、君が強情を張る時は負けてあげてるよ」
「ほう? いつのことを言っている? 何月何日、何時何分何秒に!」
「あのね……小学生じゃないんだよルルーシュ」
 ムキになったルルーシュは眉尻をキリキリ上げながら僕を睨んでいる。切り返し方が子供の頃のままというか、実は退化しているのかもしれない。
 こうして言い合い出来るのも仲がいい証拠だと自分を納得させながら、僕はルルーシュが皿に乗せてくれたきんぴらごぼうの最後の一口を咀嚼する。
 ……あぁ、おいしい。
「懐に入ってからが勝負っていうか、君に対する夢を捨てれば捨てるほど仲良くなれるという逆算式の構図が見えてくる……」
「だから、さっきから何の話をしてるんだお前は」
 ルルーシュは呆れたように嘆息すると、僕に取り分けて少なくなったきんぴらを箸の先でちょこんと摘んで食べていた。
 憎まれ口を叩きながらも、食べ方はゆっくり。そして綺麗だ。一口一口が小さくて、とても上品。
「只の独り言だよルルーシュ。まあ発酵食品は納豆だけじゃないし、胃腸があまり丈夫じゃない君には、僕が作った味噌で毎日味噌汁飲ませてあげるから安心して?」
「確かに、お前の作る味噌は美味いよな」
「だろ? 元は自分のためだったけど、今では僕の大好きな君のためです」
「馬鹿……」
 僕は、これもルルーシュが炊いてくれた真っ白いご飯にルルーシュが作ってくれた葱入りの出汁巻きを頬張り、更に脂の乗った季節の秋刀魚を立て続けに口へと放り込む。
 ふと思いつき、丁寧に骨を取り除いた秋刀魚をルルーシュが食べるサイズと同じくらいに切り分けてみた。
「ルルーシュあーん」
「!」
 猫みたいに切れ上がった瞳を大きく見開いて、ルルーシュは口元に差し出された箸の先を見つめていた。
「何だ、これは?」
「解ってるくせに」
 恥ずかしい真似を極端に嫌がるルルーシュだけど、こういう時の僕が引かないことは解っているんだろう。諦めたように溜息をつき、やや寄り目になりながらちょうどいいサイズだと確認すると、ルルーシュは上目遣いで僕を見上げたまま渋々パクリと口にする。
 ……わぁ、可愛い。
「君がちゃんと食べてると、僕も安心するんだよな」
「…………」
 擬音語にたとえると『もっくもっく』。すごく一生懸命食べている感じがたまらない。
 少しだけ膨らんだほっぺをつついてやると、抗議するかのようにぎゅっと睨まれた。
「本当に美味しいよ、君が作った和食」
 こくんと飲み込んだルルーシュがすまし顔で僕を見る。
「味噌汁はお前が手作りした味噌で作ったんだぞ?」
「知ってるよ? 美味しいだろ?」
「まあな」
「そう思うなら残さずに飲んでよ」
「……残したりしない」
 気難しい顔でお椀を取ったルルーシュは、唇を窄めてふーふーしながら味噌汁を飲む。猫舌なんだよなぁとそのさまを眺めていた僕が頬杖をついたので、伸びてきた手にペチッと腕を叩かれた。
「味噌汁を残されたくなければ食事中に肘を付くな」
「駄目だよルルーシュ、残すのは」
「それも行儀が悪いか?」
「そうそう」
 フンと鼻を鳴らしながら、ルルーシュは具の大根とお揚げを食べている。
「揚げも原料は大豆なんだよ?」
「知っている」
 ……そうだよね。君は大豆が嫌いなんじゃなくて、納豆が嫌いなだけなんだよな。

 そんなやり取りをしたあくる日、僕とルルーシュは食材の買出しに出かけていった。
 行き先は近所のスーパーマーケット。チラシを吟味したルルーシュが付いて来いと言うので、僕も荷物持ちのために馳せ参じたという訳だ。
「卵、ミルクは二つだぞ。それからティッシュペーパーも」
「了解」
 指示されたものを探しに離脱している間、ルルーシュは肉類のコーナーをうろついていた。ショッピングカートを押す後姿を目に留めながら目的の物を確保した僕は、そのままお菓子のコーナーへと向かっていく。
「こら、何してる」
 やってきたルルーシュが脇に置いていた籠を持ち上げてカートの下段に乗せる。
「んー、しょっぱいお菓子が食べたくて」
「しょっぱいお菓子?」
「うん、君こういうの食べたことある?」
 屈んだ僕の前に並んでいるのは数十円単位で買える駄菓子。チロルチョコやグミキャンディ、綿菓子のようなガム。それから僕の好きなうまい棒。
 ルルーシュにとってはお菓子イコールスイーツなんだろうけど、僕にとってはこういうスナック菓子や煎餅なども含まれる。
「いや、食べたことはないが……美味いのか?」
 なんだか体に悪そうだ、と呟くルルーシュはそれでも興味は示したのか、色とりどりなお菓子の前に僕と一緒に屈み込んだ。
「君の作るお菓子に比べれば味は落ちるけど、こういうのも案外美味しいと思うよ?」
「ふぅん?」
 ルルーシュが手にしていたのはマシュマロが挟まったエンゼルパイだった。しかも味は苺。
 やっぱり甘い方に行くのかと思いながら、僕はそれを籠の中に入れてみる。
「あ、おい。まだ買うとは……」
「沢山買っても予算オーバーにはならないよ。何ならお菓子だけ僕が払うから、別会計にしてくれてもいいし」
「別にそういう意味とは言ってないだろ」
 ちょっと食べてみたいとは思ったのかもしれない。ところがルルーシュは籠の中のエンゼルパイを一瞥してから、ふと何かを思いついたようにそれを棚に戻した。
「あれっ、買わないの?」
「いや、どうせならお前のお勧めのを食べてみようと思っただけだ」
「そう? エンゼルパイも買っていいのに」
「…………」
 黙り込むルルーシュを僕はじっと見た。
 どうしたんだろう? あまり気が進まないのかな。お菓子ならいつも作ってもらっているんだし、やっぱり自分が作るものより味が落ちると解っているものは食べたくないんだろうか。
 僕がそう思っていると、ルルーシュはその場にしゃがんだままポツリと呟いた。
「……昨日の」
「ん?」
「だから、お前の好きなしょっぱいのを食べてみたいんだ」
「ふぅん? じゃあ幾つか選んでいい?」
「ああ」
 ルルーシュのお許しが出たので、僕は目に付いた端から食べたかった物を適当に選んでいく。
「これなんかどう? コーンポタージュ味」
「そんな味のもあるのか……」
「おいしいよ?」
「じゃあそれを。ところで一本幾らなんだ? これは」
「十円だよ」
「へえ!」
 安さに驚いたルルーシュは僕が次々と籠に入れていく動きを目で追いながら、増えていくお菓子を物珍しげに眺めている。
 僕は少し考えてから、どさくさ紛れに納豆味のうまい棒も籠へと放り込んだ。種類を知らないルルーシュは気付いていないだろうけど、お菓子ならバレたところで文句を言ったりしない……かもしれない。
 ルルーシュの好きそうな物も何個か選んで立ち上がると、籠の中をしげしげと眺めていたルルーシュも一緒に立ち上がった。
「結構沢山買っちゃったけど、大丈夫?」
「食べたかったんだろう?」
「うん。でもこれなら食事前に食べても、お腹一杯になって食べられないなんてことは無いんじゃないかな」
「食事前に食べる気か?」
「お菓子だよ、お菓子。こういうのは別腹」
「お前は……」
 苦笑するルルーシュと二人で会計に向かい、僕らはスーパーを後にした。

 帰宅してから冷蔵庫に食材を詰め込み、夕食の仕込みを済ませてからリビングに戻る。
 片手にぶら下げている袋の中身は勿論買い込んできたお菓子だ。僕はその中から先に納豆味のうまい棒を抜き取って残りをルルーシュに渡した。
「どれから食べればいいんだ?」
 がさごそと中身を覗いていたルルーシュは、選べなかったのかテーブルの上に全部並べ始める。
 うまい棒数本にミニカルパス、ベビースターラーメンにハッピーターンのミニパック。しょっぱいお菓子中心だけど、結局誘惑に負けて買ったエンゼルパイといちごポッキーをルルーシュはチラチラと見ている。
「好きなの食べればいいじゃないか。せっかく沢山あるんだから」
「好きなのって……どれが何やら」
 困惑したルルーシュは僕が選んだコーンポタージュ味のうまい棒を手に取り、包装を開いた。
「これはつまり、麩菓子というやつか?」
「そう。黒糖のみたいに甘くないだけ」
「ふぅん」
 包装の中から姿を現した黄色いそれをルルーシュはまじまじと凝視して、それからゆっくりと齧り始める。
「………………」
 ポリポリと音が響く中、急激に後ろめたい気分に襲われた僕は慌てて目を逸らした。
 めくったフィルムが元に戻らないよう片手を添えながら、ルルーシュが小さな口でスティック状の……つまり棒状のそれを咥えている。
 忘れてたっていうか、もう予想外。――視覚的に、これはかなり来る。
「あーっ……ルルーシュ?」
「ん?―――っあ!」
 齧った瞬間崩れたらしく、ルルーシュは口元から零れ落ちる欠片を片手で受け止めた。唇を半開きにしたまま顎の辺りで掌を広げ、上目遣いで僕を見る。
「あぁっ……ごめん! 零れたよね?」
「何故謝る? いいからティッシュを取ってくれ」
「う、うん!」
 落ち着け僕。口から零れたのは液体じゃなくてスナック菓子の欠片だ。
 そういうつもりじゃない、そういうつもりじゃない! と心の中で弁解とも否定とも付かない言葉を繰り返しながら、僕は急いで引き抜いたティッシュをルルーシュに渡した。
「悪い……」
 と、そこで。まだ握り締めたままのうまい棒をどこかに置かなければ受け取れないことに気付いたルルーシュが目で助けを求めてくる。
「あ、預かるよ」
 ほとんど奪い取るようにしてうまい棒を引き取り、代わりにティッシュを差し出す。するとルルーシュは粉が付いているのが気になるのか、薄く開いた上唇をピンクの舌先でチロリと舐め取ってから口元を拭いていた。
「……っ!」
 それ以上は勘弁して! と思いながら僕は食べかけのうまい棒にかぶり付く。おいしかったけれど目の前で掌と唇を拭いているルルーシュの方がおいしそうに見えてしょうがない。
 ルルーシュは頬の内側で舌をもごもごと動かしながら困ったように眉を下げて僕を見た。
「口の中にくっ付く……」
「う、うん……味は?」
「まずくはない」
「そう。あまり気に入らなかった?」
「うーん……」
 歯切れも悪く首を捻っているので気に入るほどではなかったのかもしれない。
「別の味のも食べてみていいか?」
「それはいいけど! ちょっと待って?」
「?」
「……これとかどうかな?」
 だから君は、それ以上棒状の物を咥えちゃ駄目だ。
 謎の使命感に駆られた僕が反射的に差し出したのはカレー味のベビースターラーメン。僕はベーシックなチキン味の方が好きなんだけど、カレーうどん好きのルルーシュならきっと気に入る筈だから。
「ラーメンと書いてあるが、このまま食べていいのか?」
「大丈夫」
 別のうまい棒を選ぼうとしていたルルーシュは、カレー味という表記に釣られて思惑通り興味がそちらに向いたようだ。
 ペリッと袋を開けて中を覗き、指先で摘んで口へと運ぶ。
「……!」
 今度のは美味しかったらしい。見えない筈の猫耳と尻尾がピンと立ったように見えた。
「けっこう美味しいな」
「ほんと? そっちは気に入った?」
「うん、なかなか美味い」
 ルルーシュは一二本ずつ摘んでポリポリ食べている。僕なら粉薬を飲むみたいにして一気に口に流し込むんだけど、何を食べるにしても小口なルルーシュはその方が食べ易いんだろう。
「ちょっと皿を持ってくる。ついでに何か飲み物でも淹れてこようか。何が飲みたい?」
「出来れば日本茶がいいな」
「解った。緑茶でいいか?」
「うん!」
 駄菓子であっても袋から直接というのは嫌だったらしく、ルルーシュはティッシュで軽く手を拭いてから立ち上がった。
 マメだしお行儀もいいなぁ。そういう所、真似しようと思っても出来るものじゃないよね。
 ……何にせよ、こうやって好きな物を共有出来るのはいいことだ。ルルーシュが好きな物は僕も好きでいたいけど、僕の好きな物もルルーシュに好いてもらえるともっと嬉しい。
 だから、合わせてもらえるって嬉しいものだよ。性格も好みも正反対だから余計そう思うのかもしれない。
 やがてシュンシュンとお湯の沸く音がして、急須と湯のみを盆に乗せたルルーシュが戻ってきた。
 敷紙を敷いた皿の上に手際よくお菓子を並べ、空いたスペースにベビースターを流し入れる。
「この方が食べやすいだろ?」
 気を利かせてくれたルルーシュに僕は曖昧な笑みを返した。
 ルルーシュと付き合っていると、口には出せない心の声が増えていく。内心「君はね」と思ったけど言わない方がいいだろう。
 手持ち無沙汰になった僕は湯のみにお茶を注ぎ、ルルーシュの前にコトリと置いた。
「ああ、悪いな」
「こちらこそ」
 僕の笑みに呼応するようにルルーシュが微笑む。言い方は素っ気無いけれど、労わりの滲んだ優しい笑顔に僕はこの上なく癒される。
「ルルーシュ」
「ん?」
「次は甘いのとしょっぱいの、どっちを食べたい?」
 片手にエンゼルパイ、もう片手にハッピーターンを持って尋ねてみると、ルルーシュは一瞬目を泳がせてからおずおずとハッピーターンを手に取った。
「今日は、しょっぱいのを食べるって決めたんだ……」
「そう? じゃあこのエンゼルパイ、僕が食べていい?」
「!」
 明らかに動揺したらしいルルーシュは、エンゼルパイを追う目を無理やり逸らした。
「……あ、ああ。別にいいぞ?」
 いかにも気にしてないですという言い方が可笑しくて、堪えようと思っても込み上げる笑いで頬が引き攣る。我慢していようと思っていたのに、気分を害したらしいルルーシュがジト目で睨んでくるのでとうとう噴き出してしまった。
「おい、何笑ってる?」
「だ、だってルルーシュ……答える前にちょっと間が空いてたよ? 本当にいいの?」
「だから、いいって言ってるだろ!」
 本格的に機嫌を損ねたらしく、ルルーシュはそれきりプイッと顔を背けてお茶を飲みだした。
 意地悪したことをちょっとだけ後悔した僕は、エンゼルパイの袋を開きながらもう一度だけ訊いてみる。
「ねえルルーシュ」
「何だ」
「甘いのとしょっぱいの、本当はどっちが好き?」
「………………」
 知ってるくせに。
 目がそう言っているのは百も承知なんだけど、可愛すぎるからあと少しだけちょっかいかけたい。
 するとルルーシュは、お茶を飲んで一息ついてから、ぼそっと。
「だから……食べてもいいって言っただろ」
「~~~っ!」
 ふて腐れたような言い方がどうしようもなく可愛くて、再び噴き出した僕は掌で顔面を覆ったままエンゼルパイを差し出した。
 ――完敗だ。
「これ、食べてもいいよ」
「なんで」
「なんでじゃなくて。僕が君の好きなものを横取りする筈ないだろ? 本当は甘い方が好きなくせに」
「別にいい。しょっぱいのだって俺は好きだ」
 言いながらルルーシュは皿に開けたベビースターをちまちま摘んでいる。
 おいしいぞ? と口に運んでいるところを見るに、あながち虚勢でもなく気に入った様子。
「もしかして、昨夜の番組のこと気にしてるの?」
「何のことだ?」
「糖化」
「気にしてない」
「嘘つくなよ。ほらルルーシュ、いいから口開いて?」
 口元にパイを持っていっても、ルルーシュは「ん」と唇を真一文字にしたまま開かなかった。
「僕はしょっぱいのが好きだけど、甘いのも好きだよ? 君だって甘いのが好きだけど、しょっぱいのも好き。それでいいじゃないか。ね?」
「…………」
 ルルーシュの眉が八の字に下がっている。
 ややあって、大好きなチョコレートと苺の匂いに惹かれたルルーシュは、躊躇いがちにパクリとエンゼルパイに齧り付いた。
「おいしい?」
「……お前も食べてみればいいだろ?」
「うん」
 僕も一口頂いてみる。
「間接キス二回目」
「えっ?」
「はんぶんこしよっか」
「あとは食べていいぞ?」
「いいから」
 さっき自分の食べかけを僕に食べられたことを思い出したのだろう。ルルーシュは心なしか赤くなった頬を隠すように頬杖をつき、またそっぽを向いた。
「ちょっとルルーシュ、肘をつくのは……」
「行儀が悪いか?」
「自分で言ったんじゃないか」
「そうだっけな。でも食事中じゃない」
「屁理屈だよ、そんなの」
「お前も食べていいぞ、納豆味」
「えっ……?」
 しれっとした顔でルルーシュが言う。
 どうしてバレたんだろう。隠していたのに。
 少々バツの悪い思いをしながら、僕は椅子の横に置いておいたうまい棒(納豆味)をテーブルの上に乗せた。
「バレてた?」
「バレない訳ないだろ。会計の時に見えた」
「うーん、ルルーシュも食べる?」
「………………」
 ルルーシュは嫌な顔をしながらも一応考えてくれている。匂いからして受け付けないので食卓に出すことすら拒むほどなのに、即答で断らないなんて珍しい。
「昨夜の話だけど……」
「?」
「ほら、言い合っただろ? 本当に負けたのはどっちなのかって」
「ああ」
「やっぱり僕なのかな」
「さあな」
「じゃあ君ってこと?」
「……さあな」
 肩を竦めたルルーシュは腕組みしながら笑っている。
「勝ちも負けも無いだろう。付き合っているんだから」
「あいこってことか」
「俺は負けてないがな」
「強情だなぁ」
「……断っておくが、俺は納豆は食べないぞ?」
「ええー?」
「だが、お前が食べる分には構わない。こういうのは譲り合いにはならないか?」
「なら本物を食べるのもOK?」
 うっ、と漏らしたルルーシュが目を逸らす。
「本物は、匂いが……」
「駄目か……。まあどうしても受け付けない食べ物はあるよね」
 ひとりごちた僕がもう一度パイを差し出すと、ルルーシュはわざわざ食べかけのところを選んで齧りついた。
「!」
 そのまま僕の口元に届くよう手を押しやってくるので、僕は促されたとおりに唇を開く――と、そこで。
「ここ、付いてるよ」
「ん? ああ……」
 上唇にくっ付いたチョコの欠片。それに気付いたルルーシュが取ろうとするので、僕は伸ばしかけた手を取り上げてルルーシュの唇をペロリと舐める。
「……っ! お前っ!」
「うん、甘いのもおいしいね」
 にっこり笑いながら言ってやると、焦ったように手を引っ込めたルルーシュはみるみるうちに赤くなった。
「恥ずかしい奴……」
「そういうこと言うなら、もう一回するよ?」
「しなくていい!」
 素直じゃないからこそ素直なルルーシュがあまりにも可愛くて、僕はルルーシュが食べた部分を齧ってその甘さを存分に味わい、またルルーシュに差し出した。
 むっつりしながらも薄い唇を開き、ルルーシュがパイを食べる。餌付けしているような気分になったけど、本当は毎日餌付けされているのは僕の方で、こういう他愛の無いお遊びに付き合ってもらっているのも僕の方。
 パイが無くなるまで、僕らは楽しいやり取りを繰り返した。そんな中、今日も口には出さない心の声が増えていく。
 このままルルーシュの機嫌が悪くならないように、納豆味のうまい棒は明日こっそり食べてしまおう――と。

 しょっぱいお菓子が好きな僕だけど、甘いお菓子も大好きだ。
 でも、お菓子よりもっともっと好きなのは、チョコより甘い、僕の恋人。



.:*゜..:。:.:*゜..:。:..:*゜..:。:.:*゜..:。:.



スザクさんはね、ありのままの相手でいて欲しいと思いつつも、その実自分色に染めたい願望あると思うの。
寧ろ大好きだと思うの、合わせて貰うのが。(=自分に合わせてくれるルルーシュが)
なんだかんだと負けて折れてくれるソコに愛を感じるっていうか……。

そしてルルーシュくんが何かを食べているところってホントに可愛くてですね。
スザクさんも「一生懸命食べるルルーシュってかーわいいなぁー」と愛でて愛でてめろめろになっていればいいなぁと思って。(でも心の声は口に出さないんだよ!)

ともあれ、譲り合い・譲り愛な二人は互いに負けているという。
そんな幸せすざるるプレミアム。

プロフ

夕希(ユキ)

Author:夕希(ユキ)
取扱:小説・イラスト・漫画

スザルル大好きサイトです。版権元とは全く関係ないです。初めましての方は「about」から。ツイッタ―やってます。日記作りました。

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