オセロ 第16話(スザルル)

※DV警報発令中。一部暴力的な描写がありますのでご注意下さい。





16


 目覚めた今がいつなのか解らなくなったのは何度目の事だろう。
 覚醒と同時に、ルルーシュは枕元に置かれた携帯で日時を確認した。早朝かと思ったが、時刻は既に夕刻だった。
(夢、か……)
 頭から水を被ったように、全身がじっとりと汗で濡れていた。
 何もかも、夢から覚めたと思っていた自分が見た夢だったと気付いたのは、おぼろげになっていく夢の欠片を繋ぎ合わせる事にどうにか成功してからだった。
 そう遠くはない過去の反復。
 記憶が混乱し、現実を認識するのに時間がかかる。そう思っている間にも、見た夢の内容は薄れ、今にも消えていこうとしている。
 ルルーシュの部屋には今、何台もの監視カメラが取り付けられていた。
 軍に監視を受ける家畜の生活。だが、肝心の家畜が改竄された記憶を回復させ、王としての力まで取り戻している事など誰も知らない。
 ルルーシュは震える掌を無言で握り締め、荒々しくベッドサイドの壁を殴りつけた。
 照明を落とした部屋の中では、さすがに何をしているのか解るまい。
 盗聴器が仕掛けられているのも知っているが、電話その他の回線にだけだ。起き抜けに沸き立つ怒りのまま壁を叩き続ける音は、さすがに画面からは聞き取れないだろう。
 一年前のルルーシュが実際に見た夢。それが悪夢の始まりだった。
 目覚めたと思ったその後の展開も、全て現実に起こった事だ。スザクとの距離をどうにかして埋めたくて、夢の話を切欠にスザクを追い詰め、一歩も引けぬ本気のゲームを仕掛けた事でさえも。
(まさか、あんなふざけた夢が現実になるとはな)
 今となっては、消したくなるほど屈辱的な記憶の最たるものでしかない。
 ルルーシュ自身、想像さえしていなかった。……よりにもよって、自分から仕掛ける流れになろうとは。
 執着しているのを知りながら、そんな自身の気持ちに気付かぬ振りを続けようとするスザクが許せなかった。わざと拒めない形で『只の友達』以上の関係を強要したのもその所為だ。
 本当は、拒む事だって出来た筈だ。
 例えルルーシュを失う事になっても、内面に踏み込まれる事を本気で恐れていたのなら。
 けれど、スザクはそうしなかった。わざと距離を置こうとしながらも、初回から所有印まで残すほど強い執着を見せたのはスザクの方だ。
 そこまでしておいて、誘ったルルーシュだけに非があるとは到底言えまい。
 体の関係を持つような意味合いの「好き」ではない事くらい知っていた。それでも、一度関係したその時から、二人で転げ落ちるようにして深みへと嵌っていったのだ。
 まさか、二人して倒錯した性の快楽だけに溺れていた訳でもあるまい。どちらか一方だけではなく、互いの間に何らかの想いが無ければ、絶対に続かない関係だったと言える。
(チェスというより、オセロだな)
 まだ布団の中から一歩も動けず、ズキズキと痛む米神を押さえながらルルーシュはひとりごちた。
 仕掛けた時点で、背水の陣。必ず白のナイトを捕ると、チェックをかけるつもりで賽を投げた。
 けれど、嘗て望みのまま白く埋め尽くした筈の盤面は、今はもう黒一色だ。……まるで、がらりと色を変えてしまったスザクの心そのものの様に。
 夢の中のスザクは白かった。そして、あの頃のスザクも、まだ。
 勝負は互角。生まれて初めて、喉から手が出そうなほど、心の底から欲した相手。
 正真正銘、本気だった。
(愚かだな)
 こうして夢の中で過去の所業を反芻する度、未だに上手く息もつけぬほど激しい愛憎に塗れている自分に気付く。捕らわれているなどと思いたくなくても、只の憎悪だと割り切るにはあまりにも複雑すぎる感情だった。
 記憶が戻って以降、睡眠の質はガタ落ちだ。夢見が悪い分、最近は特に安定した睡眠をとるのが難しくなった。
 ゼロだとばれ、皇帝の前へと引きずり出された時以降、スザクとは一度も会っていない。時折テレビで姿を見かける事でさえ苦痛で、記憶が戻ってからというもの、見ない訳にはいかないニュースは全てネットでチェックしている。
 当時のスザクは、言い得ようのない歪んだ執着と愛情、それらと相反する拒絶を心の内側で交錯させながら、激しい葛藤に苦しんでいた。
 それでもそんな自分から目を逸らして欲しくなくて、出来る事なら求めて欲しいと恋焦がれ続けた日々。
 最後まで打ち明けられる事の無かった拒絶の理由も、今のルルーシュは気付いている。再会してから――いや、する前から、何故か過剰に美化され続けていた理由にも。
(スザクは、いつ俺がゼロだと気付いたんだ?)
 今となっては確かめる術も無いが、恐らくユーフェミアを殺すもっと前から疑念は抱かれていたのだろう。
 マオに心を暴かれた時、居合わせたルルーシュ以外知りえない父殺しをゼロに知られていたのだから。
 それ以降も、スザクは幾度かクラブハウスに来ていた。顔を合わせれば優しく笑いかけてくれたし、体を重ねれば互いに激しく求め合いもしたけれど、スザクからの心理的な拒絶がより明確化したのは、今思えばあの頃からだったように思う。
 ――スザクは何故、内面に踏み込まれる事をああまで恐れたのか。
 知られたくなかったらしい父殺しを知られてしまってからでさえ、まだ拒絶が続いていた理由。
 ルルーシュにとって解らない点はそこだけだった。
 戦争を止める為だけに父を殺し、それが結局開戦の引き金になってしまった事を悔いるあまり、軍に属し、戦って死ぬのを受け入れる事で償いに生涯を捧げるつもりでいながら、同時に、死そのものに救いを求めていた事も、あの時点でのルルーシュは既に知ってしまっていたというのに。
『僕と同じになって欲しくない』
 初めて気持ちをぶつけた時、スザクに言われた台詞の意味だけが、当時のルルーシュにはどうしても解らなかった。
 ただ、死に急ぐスザクの生き方を知って冗談ではないと思った。だからこそ、軍を辞めさせようと決意したのだ。ナナリーの騎士に据える事で、いずれスザクにとってもその道が新しく生きる為の意義になればと。
 今になって思う。あの時もまた、重要な運命の分かれ道だったのだ。
 技術部の者がクラブハウスへとスザクを呼びに来た時、去り際のスザクにルルーシュは『話がある』と言った。――『とても、大切な話だ』と。
 返ってきたスザクの返事はこうだった。
『何だい? 怖いな』
 スザクは本能的に警戒したのだろう。
 マオの件に関しては、お互い暗黙の了解的にタブー視している節があった。後々その判断が致命的な仇になるとも知らず、避けて通れない話題と知っていながら敢えてその話題には触れまいと。
 だが、ユフィがスザクを騎士に任じた事によって、状況は一変した。
 スザクが断れる立場に居ないと解っていながら、白兜のデヴァイサーがスザクだと知ったショックも相俟って、ルルーシュは運命の皮肉にただ笑うしかなかった。
 道が本格的に分かたれ始めたと意識したのも、この頃だったように思う。
 絶対にかけないと決めていたギアスも、とうとうかけてしまった。
 ただ、その件に関してだけは後悔していない。スザクを死なせないためにはそうするしかなかった。
 どう考えても、他に選択肢は無かったのだ。
 キュウシュウ戦役で初めてスザクとの共闘を果たした時、自決覚悟だったらしいスザクにユフィが想いの丈を打ち明けていたのも知っている。……何故ならあの時、切れたエナジーフィラーを補充させようと待機していたガウェインの中で、ルルーシュは二人の会話を聞いていたのだから。
 頑なに閉ざされていたスザクの心の扉を開いたのは、ルルーシュではなく、ユフィだった。
 彼女がスザクに言い放った台詞を、今でも覚えている。
『自分を嫌いにならないで』
 ユフィは、スザクにそう言ったのだ。
 あの後もスザクは学園に顔を見せてはいたが、ルルーシュはスザクと鉢合わせないよう徹底的に避けた。
 学園祭中も放送室に篭ったきり一歩も出ず、指示を出す以外極力人と顔を合わせないようにしていたというのに、一体何の因果だろうか、まさか皇女殿下本人が学園に来ているとは露知らず、外へ出た時に会ってしまったのだ。
 スザクと完全に道が分かたれたと悟ったのは、特区日本設立宣言を聞いたあの時だ。
『スザクと上手くいった』
 テントの中でナナリーからユフィと話した事を聞いた瞬間、目の前が真っ赤に染まった。
 全てを奪われた。そう思った。
 その瞬間をもって、ユフィはルルーシュにとって最悪の敵となった。最早その存在自体が罪としか思えない。
 善意から生まれる、悪意そのもの。
 それでも、一番腹が立つのはユフィに対してではなく、無論、スザクに対してでもなく。
 ギアスを得て尚、無力で無価値な己自身に腹を立てている。……そう、思いたかった。
 神根島でゼロだとばれる前、最後にスザクと会ったのは12月5日。ルルーシュの誕生日だ。
 祝いにやってきたスザクと、その日だけはわだかまり無く過ごすつもりだった。
 久しぶりに顔を合わせたスザクは、この上なく穏やかで満たされた、まるで精神そのものが安定したような顔をしていた。
 そんな顔が出来るようになったのか。
 自分ではなく、ユフィの傍だからこそ、スザクは……。
 その時感じた想いを、一体どう表現すればいいのだろう。――諦観、とでも呼べば良かっただろうか。
 切なさや痛みとも違う、静かな諦めと落胆。
 あれは嵐の前の静けさだったのか。そうでなければ、もしくは凪か。モノクロームの世界の中、たった一人きりで立ち尽くしているような壮絶な孤独。
 ただ、静かにたゆたう川の流れの底に、ヘドロにも似た大量の澱が沈んでいる事にだけは気付いていた。
 食事も済み、穏やかな歓談が続く最中、スザクは僅かな緊張を浮かべた顔で切り出した。
『君も、特区日本に参加しないか』と。
 不安を感じているというより、その時のスザクは、既にある種の覚悟を決めてから駄目もとで切り出しているように見えた。
 出来れば聞き入れて欲しいけれど、これが聞き入れられないならば別離も辞さない。そんな顔だったように思う。
 その時のスザクはもう、ルルーシュがゼロなのではないかという疑念を確立させていたのではないだろうか。
 ルルーシュがブリタニアという国に根深い反感と恨みを抱いているのを知っているからというより、もしルルーシュがゼロであるならば、この手以外に歩み寄る術など無いと思い詰めていた可能性はかなり高い。
 実際、その場にもそういった空気が流れていた。
 まだ信じていたいと思っていたのかも知れないが、恐らく決定打に欠けていたから詰め寄らなかっただけの話だ。
 だからきっと、あの申し出は、スザクなりの最後通牒だったのだろう。
 来るだろうなと予想はしていた。スザクと同じ学園に通っていると知られてしまった以上、ゼロがルルーシュだと知っているユーフェミアなら、恐らく誘う事を思い付くだろうと。
 勿論、ユーフェミアがスザクにゼロの正体など明かす筈は無い。だから、スザクの申し出に裏が無く、まだ完全に正体を知られた訳でない事だけは確かだと思った。
 ユフィに頼まれたというより、スザク個人の思い付きだったのだろう。
 ……それでも、スザクは知らない。悪意の欠片も無く、ただ高みから差し伸べられる裏の無い善意に、反吐が出そうになっていたルルーシュの思いを。
 申し出を断った事で、スザクはてっきりそのまま帰るだろうと思っていた。
 理想を共に出来ない以上、同士ではないと判断されても不思議では無い。ユフィと上手くいったというのも本当なのだろう。スザクの表情がそれを物語っている以上、疑う余地も無い。
 互いの間に、もうこれ以上話す事など何も無い筈だった。それなのに、スザクはまだナナリーも居るリビングでいきなりルルーシュの腕を捕り、強く抱きしめてきたのだ。
 息も止まりそうなほど激しい抱擁。離れようともがく体は背に回された腕できつくかき抱かれ、叫びたくても声にならなかった。
 既にユフィがいるというのに、一体どういうつもりなのか。問う唇は言葉そのものを阻むように塞がれ、抗う間も無く部屋の中へと連れ込まれた。
 決別の意思が込められていたのか、名残を惜しまれていたのか、もしくはその両方か。
 自室のドアが閉まった直後、降らされた嵐のような口付け。溢れた涙はいつしか互いの間で混じり合い、どちらのものなのかさえ解らなくなり……その後はもう、お互いただ無言で貪り合うだけだった。
 狂ったように突き上げられ、声にならない嗚咽を漏らしながら、最後に途切れる意識の狭間で幾度も思っていた事。
(あんなゲームなど、仕掛けなければ良かった)
 過去を悔いる事に意味など無いと解っていても、今でも夢に見てしまう。――例えば今日のように。
 あの日から繰り返し、繰り返し、ルルーシュは永遠に覚めない悪夢の中に居続けていた。
(スザクにとっての神を殺した俺を、あいつは決して許さないだろう)
 取り返しのつかない悲劇が起こったのは、その五日後。
 暴走したギアスの力に翻弄され、完膚なきまでに破壊し尽されたルルーシュの義妹は、尊いその命を儚く散らした。
 スザクを切り捨てる。そう決めた後でさえ、まだ心のどこかで信じていた。
 信頼とは、信じて頼るという意味だ。たった一人、自分の背中を預けられる存在として認める。そういう事だと思っていた。
 ……けれど。
 ルルーシュが唯一誰よりも信じていたスザクは、追い詰めたその先で、躊躇う事無く銃の引き金を引いたのだった。

『ずっと、酷いって思っていたよ。君の事。
 見たくもない俺の姿ばかり見せ付けて、君は本当に残酷だって。

 僕はね、ルルーシュ。
 もっと綺麗で、もっと正しい形で、君を愛していたかった。
 だって、誰も望んでなんかいなかったんだ。君が、盤上に上がってくる事なんて。
 世界も、ナナリーも……そして、誰よりも僕自身が……そして俺が、こうなってしまう事を一番恐れていた。
 でも、もう決まっていた事だったんだな。もう、とっくに。
 再会する前、いや、本当は七年前に、君と別れたあの日から。

 見たかったんだろ?
 これから見せてあげるよ。
 君がずっと見たがっていた本当の俺を。

 ――嫌だったのに。怖かったのに。
 それなのに、君はとうとう僕を壊してしまった。
 だから今、とても君の事が憎いよ。……満足かい?』

 操縦桿を握り締めながら淡々と語るスザクの口調は、今にも底冷えしそうな響きだった。
 聞いた事も無い程どす黒い憎しみと、降りしきる雪のような寂しさを孕ませて。 
 意識的か、それとも無意識か、話すスザクの一人称がころころ変わる。……僕と俺、どちらの呟きなのか解らない。
『……満足か、だと? 今そんな話を蒸し返す事に、一体何の意味がある!』
 吐き捨てたルルーシュを一瞥したスザクは、殺せと続けたルルーシュの髪を掴んでゆっくりと引き上げた。吐息がかかりそうな程近くに顔を寄せられ、一言一言区切るようにして語られた言葉。
 明らかな狂気を声に滲ませながら、スザクは言った。
『殺してなんかやるもんか。……だって、友達だろう? 俺たちは』
 掴んだ髪を離されるなり、烈火の如く燃え上がる怒りのままルルーシュは怒鳴った。
『何を今更勝手な事を……! もう終わったんだよ、お前とは! 先に俺を否定したのはお前だろう!! それで何が友達だ。ふざけるなっ!! お前はもう、俺にとっては只の敵でしかないんだよ!』
 火を吹くような一喝。
 しかし、あらん限りの憎悪を込めて睨み付けたルルーシュの頬を、スザクは握り締めた拳で躊躇い無く打った。
『言っただろ。本当の俺を教えると。知りたがったのはお前だ。たった今言ったばかりなのに、もう忘れてしまったのか?』
 操縦席で無様に転がったルルーシュを見下ろす、スザクの無機質な眼差し。再会して以来、こんなスザクの姿を見るのは初めてだった。
 それでも、心のどこかで知っていた。気付いていたのだ。暴力的で獰猛なスザクの本質。その片鱗に。
『ふん、成程な。お前が俺に見せたがらなかったのは、こういう姿だったという訳だ』
 切れた唇の端を庇う事なく、ルルーシュはスザクの足元に蹲りながら嘲笑混じりに吐き捨てた。
 ――これにてようやく解禁か。そう思った。
 スザクが使う『俺』という呼称は、七年前に封印された筈の一人称だ。あの雨の日以来、何故かスザクは自分の事を俺とは一切呼ばなくなっていた。
 それからずっと被り続けていた『僕』という仮面を、ルルーシュがとうとう剥ぎ取ったのだ。
 いっそ愉快でたまらなかった。全く、とんだ臆病者もいたものだ。
 最早只の欺瞞としか思えなかった。何故そこまでして、本来の自分から目を逸らそうとし続けていたのか本気で理解出来ない。
『解せないとはこの事だな。お前にとって、自分の本質を偽り続ける事に、一体どれほどの意味があったんだ? 今までお前が何を恐れて隠してきたのか知らないが、こんな姿を見せ付けられたくらいで怯む俺だとでも思っていたのか。……だとしたら、俺も随分なめられたものだな』
『…………』
『答えろよスザク。お前は俺に、ただ守られるだけの存在でいれば良かったとでも言うつもりだったのか? 反逆など起こさず、鳥かごのような偽りの平穏の中で暗殺に怯えながら、ただ死んだように生きていろと? お前は一体、どれだけ俺を見下し、貶めれば気が済むんだ?』
 スザクは無言だった。
 話す価値も無いと思っているのか、操縦桿を握り締め、前を向いたまま微動だにしない。
 ルルーシュはそんなスザクに構わず話し続けた。
『それでは意思の無い只の人形と何も変わらないだろう。お前と同じように、過酷で残酷な現実から目を背け、お優しい嘘で塗り固められただけの理想の世界を求めろとでも? ……違う。間違っているぞ、スザク。それもまた支配に過ぎないと認め、抗う事こそ必要だ!』
『黙れ』
 低く呟いたスザクが、足元に這い蹲るルルーシュを見た。
 向けられたのは、ぽっかりと口を開いた黒い穴のような、がらんどうの瞳。
 いつか見たその瞳の奥に見えるものは、底無しの悲哀と失意、絶望――そして、憎悪だった。
『ずっと嘘を吐いていたくせに……本当に懺悔する事の意味すら知らないくせに……知ろうともしていないくせに!! そんなお前に、他人の嘘を責める資格があるのか? 只の偽善だ、理想だと、笑いたければ笑えばいい。でも、お前に言える事なんか何も無い筈だ。……何が意思の無い只の人形だ。英雄を装って悲劇を撒き散らす人殺しになるよりずっとマシだろ!』
『はっ……! 人殺しなのはお前だって同じだろ。軍に居て、今までずっと人を殺さずにきましたとでも言うつもりか? 随分とお綺麗な事だな』
『……それでも俺は、お前の言い分など認めない』
『では、お前はブリタニアの支配を受け入れ、夢物語のような理想と一緒に心中でもしてやるつもりだったのか、この馬鹿が!』
『黙れ……! 和解の道なら他にもあった筈だ。戦わず、殺さずに済んだ筈の道が! 今更方法論について語る権利がお前にあるとでも思っているのか! ユフィを殺したお前に!』
『……っ!』
 ルルーシュを撃って『許しは請わない』と言っておきながら、スザクはルルーシュを激しく詰った。
 激昂するスザクの剣幕に怯んだのではない。理想主義者のスザクに、これ以上何を言った所で無駄だと悟ったのだ。
 嫌悪に顔を歪めたルルーシュが黙り込む姿を冷ややかに見つめながら、スザクは続けた。
『こうなってしまった以上、責任はとってもらうよ。こんな最悪の結末を引き起こした、全ての責任を。お前が拒もうが関係ない。……償ってもらう。絶対に』
 どこかが壊れた風情だ。心の中の、とても大切などこかが。
『……ルルーシュ』
 暫しの沈黙の後、欠け落ちた硝子が立てる音のように、感情の抜けた声でスザクが名前を呼んできた。

『本当に、もっと早く、君を縛り付けておけば良かったよ……!』

 力任せにルルーシュを殴りつけておきながら、搾り出した語尾に嗚咽が混じる。
 肩を震わせながら滝のように滂沱するその姿こそが、ルルーシュが『僕』としてのスザクを見た最後になった。


プロフ

夕希(ユキ)

Author:夕希(ユキ)
取扱:小説・イラスト・漫画

スザルル大好きサイトです。版権元とは全く関係ないです。初めましての方は「about」から。ツイッタ―やってます。日記作りました。

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